第6話Side北風真美

ガヤガヤと騒がしい人混みの中でももかちゃんの親を探してみるけど全然見つからない。キョロキョロと周りを見渡して見ても私たちと同じように笑って歩いている人ばかりだ。


「なかなか見つからないね…」

「さすがにこんなに人がいたらなぁ…。まぁ根気強くやるしかないだろ」


 なかなかに適当なんだなぁ…とは思ったけど現状運任せとしか言いようがないからどうしようもないよね…。


 はぁーと自分の冷たい手に向けて息を吹きかけてみる。自分の赤い手と白い息を擦り合わせて熱を生んで見るけどまだまだ指先は冷たいままだ。…手袋しておけば良かったと後悔した。


「…お姉ちゃん…寒いの?」

「え!?あ〜、ちょっとね…。でも大丈夫だよ!」


 そんな私を見兼ねてかももかちゃんが私に声をかけてくれた。ももかちゃんは今、親がいなくてとても不安だろうに私の心配をしてくれるなんてとてもいい子なんだろうなぁと思う。


「北風…寒いのか?」


 そんな私たちの会話を聞いて荒木くんも私の心配をしてくれる。…もしこのまま「寒い」って言ったら手を繋いでくれたりするのかな…?いや、それを狙いに行こう!


「…うん。手袋忘れちゃってね…。指先が特に寒くてさぁ…まさかここまで冷えるだなんて思ってなかったよ…」


 よし!ついでにもう1回自分の息で手を温めてみよう。明らかに寒いっていうアピールをしたら荒木くんでもきっと…


「って言っても俺も手袋持ってきてないしなぁ…。あ、そうだ北風、手を出してくれ」


「え!?」


 これはもしかしたら!と期待しながら荒木くんの方に向かって手を差し出す。クリスマスイブの時も手を繋いでたから意外と平気なのかな?って思っていると荒木くんが私の手を引いて──


「これで大丈夫だろ?」


 急に手に熱を感じると思って見てみたら私の手に握られていたのはカイロだった。


「これ、カイロ?」

「あぁ。家出た時から開けてたけどまだ結構熱いだろ?」


 そう言いながら笑う荒木くんに少しイラッとしたのは内緒だ。なんというか準備がいいのは悪いことじゃないんだけどねぇ。実際カイロの方が荒木くん手より暖かいだろうし役立つんだけどね?


「おねえちゃん、寒い?ももか、手袋してるからあったかいよ?」


 そう言ってももかちゃんは私に手を掲げる。荒木くん…ももかちゃんより察しが悪いなんて…。


「ありがとう。お姉ちゃん暖かいよ〜」

「ももかも暖かい♪」


 私はももかちゃんと笑顔で手を繋ぎお互いの体温を分け合う。ももかちゃんの手袋結構分厚くて手を繋いでる私も少し暖かくなる。


ズキッ!


 突然足に痛みが走った。そういえば今日の靴ってインターネットで買った新しいやつだった。でもまだ全然大丈夫。修学旅行の時程じゃないもの。


「う〜ん。なかなか見つからないな。ちょっと休憩しないか?ベビーカステラでも食べながらさ」


「かすてら!?食べたい!」


 荒木くんが近くにあるベビーカステラの出店を指しながら提案するとももかちゃんがそれにすぐ賛同した。


「ならちょっと休もっか」

「OK。なら北風とももかちゃんはあそこで休んでてくれ。俺はベビーカステラ買ってくるから」


 私も特に反対する理由はなかったので賛成した。私たちは一度人混みから離れて腰を下ろして一息つく。


 正直この休憩はありがたい。余裕があるとはいえ、足が痛かったからね。


 何もすることがなくてただぼぉっと私は荒木くんのことを見ていた。カッコイイなぁとか実はカイロもう一個あったんだぁとかそんなどうでもいいことを思いながら。


「おねぇちゃん?」

「え?あ、どうしたの?ももかちゃん」


ももかちゃんに話しかけらたことで私は現実に引き戻された。


「おねぇちゃんはおにぃちゃんのこと好きなの?」


 時が止まったのかな?ってぐらいに驚いた。そんなことまだ小さい子供に言われるなんて思ってもなかった。


「ど、どうしてそう思ったのかな?」


 内心すごく動揺していたけど冷静に笑顔で聞いてみた。


「?おねぇちゃん、ずっとおにいちゃんのこと見てるから!」


 …私はそんなに今日荒木くんのことを見ていたのかな?結構ももかちゃんの親を探すために周りも見ていたつもりなんだけどなぁ。いや、ついさっきも荒木くんのこと目で追ってたっけ?その時どんな顔してたかなんて分からないけど多分笑ってたんだと思った。


 どう答えようかな?ってちょっと苦笑いしていたらももかちゃんは話かけてくれる。


「ももかのパパとママはね!とっても仲良しなの!いつも笑顔で楽しそうなの!」

「そうなんだね〜」


 そういう話を聞いて少し羨ましいと思う。きっとももかちゃんの親も色んなことがあって今の関係にまでなれたんだろう。それが羨ましくて尊敬しちゃう。だって今の私は…。


「おにいちゃんとお姉ちゃんに似てる!」

「!?そ、それってももかちゃんのパパとママに?」

「うん!お姉ちゃん、すっごく楽しそうだもん」


 そうなのかな?って思って自分の頬を触ってみる。私の表情筋はそんなに緩いのかな?


「……好きだよ…」


 私はももかちゃんに素直にさっきの答えを言う。…こんな風に荒木くんにも素直に言えたらいいのになぁ、なんて少し考えながら。


「でもね、あら…じゃなくておにいちゃんはわからないんだぁ。だから頑張ってるだけどねぇ…、あんまり効果なさそうでね…。興味なんてないのかなぁなんて思っちゃったりね…」


 こんな小さい子供にこんなこと言うなんてダメだなぁ、私。何しちゃってるんだろう…。相手は迷子になっている不安でいっぱいの女の子なのに。


「でも、これも自分のせいなんだけどね」


 アハハと薄い笑みを浮かべながら自分のした事を思い返す。当たり前の報いだ。人の気持ちを弄んで私だけ上手くいくはずがないよ。自業自得だよね。


「……自信なくしちゃいそうだよ………」


これで思ってること全部言っちゃったなぁ。


 荒木くんは優しい。その優しさに救われて来たからかよくわかる。その優しさに触れる度に彼に惹かれる。その度に私の弱さや醜さが嫌になる。こんなに穢れてる私を彼が好きなるはずがない。


こんなこと誰にも言わなかったし、言えないんだけどね。


そこまで思ってからハッとなった。本当に私何やってるんだろう!?と。


さすがに話の内容が重すぎる!同じ高校生同士でもこんな話できないよ!不安になってる子供にもっと不安がらせるような話するなんて!


「あ、ごめんね!こんな話しちゃって!」


必死に私はももかちゃんと話す話題を脳内で探す!こういう時、どういう話がいいのかな!?


「おねぇちゃんはかわいい!」

「え?」


 何話そうか悩んでいた私にももかちゃんがかけた言葉は応援だった。けどその表情はとても真剣だ。やっぱり優しい子なんだなって思う。その言葉はとても嬉しかった。


「……ありがとう…。あ、でもこの話はおにいちゃんには内緒だよ?約束できる?」


私は人差し指を口に持っていき、パチッとウインクする。


「うん!ひみつのやくそく!」


ももかちゃんも私と同じポーズを真似てウインクする。子供にしては上手なウインクだなぁ。きっとももかちゃんは学校でモテていそうだなんて思った。そして2人で笑いあった。


少し心が軽くなった気がした。やっぱり人に話すっていいなぁ。


「ごめんごめん、遅くなった。意外と列が進むの遅くてさぁ…ってどうした?なんか仲良くなってない?」


 荒木くんは両手にベビーカステラを抱えながらやってきて笑い合う私たちを見て首を傾げる。


そんな荒木くんに向かって私とももかちゃんは顔を合わせて笑った。


「ひみつ!」「女の子の秘密だよ!」


「え?そうなのか…。あ、カステラ買ってきた」

「わぁ!ありがとう!おにいちゃん!」

「どういたしまして〜。ほら、北風も」

「ありがとう。値段は?」

「別にいい。俺が迷子になった時に探しに来てくれたお礼だ」


 「ありがとう」と素直に礼を言って受け取った。そう言われた受け取るしかないもんね。ベビーカステラって祭り感があって好きだなぁ。



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お久しぶりです!

長らくお待たせして申し訳ございませんでした!

無事受験が終わりました。

週に一度程度でありますが本作を更新していきたいと思います!

4月からは新作も公開しようかなと思っております!


それでは完結までよろしくお願いします!


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