第25話

「あ、荒木くんはどんなタイプの女の子が好き?」


 俺はブラックコーヒーを取る手が止まった。


 なんだその究極の質問は!?しかも女子の前でそれを答えるのか!?男子同士でそういう話をするのとは訳が違うぞ!?相手はただの女子ではなく、学校一の美少女である北風だ。


 しかもさっき似たような質問を答えてもらっただけに「分からない」みたいな曖昧な答えを言いづらい!俺はただ映画の意見を交換したかっただけなのに!


 とりあえずコーヒーをとろう。さて、どうする?俺の好きな女性のタイプか…。外見で言ったら北風は俺の好きな女性のタイプにバッチシ当てはまるんだよなぁ。長髪で清楚っぽくて目が綺麗で美しいみたいな人が好きけど。そう思うと北風は本当にどストライクだな。それだけで好き訳ではないけど。


 問題はそれをそのまま言うかだな。先の映画でキスシーンが流れてから微妙な雰囲気になって目も合わすのも難しい状況だったのが何とか会話できるレベルにまで復活した。それを俺が「好みなタイプは北風みたいな人かな?」みたいなこと言ったらまた微妙な雰囲気になりかねん!


 どうする!?しかし嘘をついてもそれを噂で流されるぐらいなら真実を伝えて噂にされた方がマシだ!


さて、どうする?


 俺はブラックコーヒーを飲みながら「第3の選択肢」を選んだ。


「…優しくて俺を支えてくれて料理ができる人がタイプかな…。」


 「第3の選択肢」…。それは性格的に好きなタイプを答えにすること!これならばまぁ、なるほどねー。ぐらいですんで次の話題に行けそうだからな!


「へぇ。そうなんだ…。じゃあ、外見とかは?」


 マジか…。それを聞いちゃう?聞いちゃうのか??


 どうしましょう。正直に言うか?それとも嘘で誤魔化すか?ぅーん。どちらもどうなるか予想がつかないな。よし!ここは!


 グイッと、ブラックコーヒーを飲んで回答する。


「……清楚っぽい人………かな。」


これだけなら該当者が多すぎるし曖昧だから分からない。これなら「ふ〜ん。」で終わるだろう!


「へ、へぇ〜。ち、ちなみに今の私は清楚っぽい?」


 ここは素直に答えたらいいか。誰が見ても明らかだし。


「おう。清楚に見えるよ。」


 昔はギャルぽかったけど。


「そ、そっか!えへへ。」


 どうやら満足いく回答だったようだ。何とかピンチは切り抜けたな。


映画が甘ったるかったから雪乃ちゃんにならってブラックコーヒーを飲んでみたがなかなかに苦いな。これ、全部飲み切れる気がしない。


 今更だが、雪乃ちゃん、あの時は本当にごめん。無理してこんなものを飲ませるまでに至らせてしまって。中三でこれは飲めないわ。


「さて、ここからどうする?お昼食べに行ってもいいしどこか行きたいところあるなら行ってもいいし。」


 俺はここら辺に詳しくないから北風に従うつもり。そもそもこれは俺の敗北で決まったお出かけだから俺は従うしかないのだ。


「うーん。お昼はもうちょっと後にしない?さっき映画でポップコーン食べたばっかだし。荒木くんは行きたいところとかある?」


「俺はないな。まず俺はここら辺に詳しくないから何があるのかも知らない。」


「そっかぁ。それじゃあ、ゲームセンターは??楽しめそうじゃない??」


「ゲームセンターか…。いいぜ。」


懐かしいな。高校に入ってから行ったことないな。久しぶりに行きたくなってきた。


「あっ!その前にトイレに行ってもいいか?」


「分かった!」


 ということで2人でトイレに向かった。クリスマスイブということもあって人が多いなぁ。


「荒木くんって今まで彼女とかいた事あったりする?」


「いいや、いないけど?どうした急に。」


「いや、ほら、ああいう映画見たあとだからさ!なら、誰かとキスとかした事あるの?」


「…いや、ないな。」


 本当にないな。そもそも今まで彼女もいたことないのにキスが出来るはずがない。


「そういう北風はあるのか?キスの経験とか。」


 北風は聞いた話じゃ、金髪ゴリラと1ヶ月しか付き合ったことがないという。それに前に


『私、処女だよ。』


って言ってたし。今思い出しても顔が熱くなるな。


「…ん〜。…ないよ。」


「えっ?ないのか!?」


 意外だな。キスぐらいなら北風なら経験してるものと思ってた。


「むっ。前にも言ったけど私、本当に処女なんだよ?」


ボソッと俺にだけ聞こえるぐらいの声量で北風はそう言った。


「分かったから。そういうことを言うな。」


北風はくすくすと笑っていた。何が楽しいのやら。


「でも、キスって好きな人とやりたいじゃん。私はアイツのこと好きじゃなかったし。」


アイツ…。金髪ゴリラのことか。


「まぁ、確かにな。俺もキスは本当に好きな人としてみたい。」


「私も。」


 一体何の話をしているのだろうか。本当にお出かけ中に話す話題じゃないだろ。


そんなことをしていると目的のトイレに着いた。

「北風もトイレに行ってきたらどうだ?」


「私はいいよ。ここで待っておくから行ってきて。」


 うーん。それは困るなぁ。さすがにトイレを10秒で終わらすなんていうことはできるはずないし。その間北風をフリーにしたら絶対にナンパされるだろうし。


「それじゃあ、俺がトイレ行ってる間に、トイレしなくていいからトイレでゆっくりしててくれない?」


「えっ?嫌だよ。」


 まぁ、そりゃそうだよな。俺だってそんなことしたくない。そんなやつしてるのは迷惑客だけだ。とはいえこれ以外に方法はないし。


「大丈夫だよ!あの時はたまたまだって!それに私もナンパぐらい簡単にさばけるから!コーヒー持っててあげるから早く行ってきなよ!」


 まぁ、ちょっとぐらいは信用してもいい…のか?


「分かった。何かあったら大声で俺を呼ぶんだぞ!!」


「大袈裟だなぁ。コーヒー貸して!」


 俺は北風に飲みかけのブラックコーヒーを渡してトイレに向かった。


 何も起こりませんように!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

Side北風真美


荒木くんはトイレに行った。


 そんな3分もないうちにナンパにかかるほどナンパを引きつける体質は持っていないから大丈夫だと言うのに。


 心配してくれるのは嬉しいんだけどね。


「あっ…!」


 ここで私は気づいてしまった。今私の手にあるのは荒木くんの飲みかけのコーヒーであると。


先程の会話が脳裏をよぎる。


『でも、キスって好きな人とやりたいじゃん。』


『まぁ、確かにな。俺もキスは本当に好きな人としてみたい。』


 好きな人…荒木くんと、かーくんと間接…キス。


『おう。清楚に見えるよ。』


 私は荒木くんのタイプからそんなにかけ離れていないはずだ。なら私にもチャンスがあるはず。ほかの女子は荒木くんの魅力に気づいてないからむしろ私が1番チャンスがある!


 荒木くんは今行ったばかりだ。戻ってくるのは時間がかかる。今なら…!


私はゆっくりと手を動かして…。


ゴクっ!


手にあったコーヒーを飲んだ。


「かーくんと間接キス…しちゃった……。」


これはブラックコーヒーだ。本来なら苦いはずなのに


「甘い……。」


初めて飲んだブラックコーヒーの味はとても甘かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る