第11話

「頼む!!神楽!お願いがあるんだ!!」


「なんだよ?というか朝からうるさい。」


学校に来たらいきなり陽から懇願される。はぁ、今日はついてないな。


「俺に勉強を教えてくれ!」


「だと思った。」


というのも毎回テスト間近になったら同じお願いを陽からされている。


佐倉高校でのテストの赤点ラインは40点となっている。多分ほかの学校より高いと思うな。佐倉高校は県内でもトップクラスに偏差値の高い高校だ。なのでテストはかなり難しい。


テスト1週間前は部活が無くなると言えどその期間から勉強を始めたのでは間に合わない。そして今日からテスト1週間前なのだ。陽も全く勉強してなかったという訳では無いと思う。


俺?俺は大丈夫だ。部活に入ってないから学校が終わったらすぐに帰ってバイトがなかったら勉強してるから。バイト終わっても復習ぐらいはしてる。テスト一週間前にはバイトも入れてないし。授業も真面目に聞いてる甲斐あって50位より上には常にいる。


そういえば北風は勉強できるのだろうか…?勝負したのはいいけど北風の順位とか見たことないな。


「それで教えてくれるのか!?」


「別にいいけど…。」


「えっ?いいのか?」


「なんだその反応は?」


「いや、いつもの神楽なら代価を要求するだろ?」


陽は俺をなんだと思っているのだろうか?それに俺は昨日の経験から名前呼びを平然としている陽を少し敬うことにしたのだ。元から少しぐらいは敬っていたけど…。


「そんなことしねぇよ。それなら…文化祭で店番やってもらったお礼だと思ってくれ。」


「おぉっ!!ありがとう!」


「ハイハイ。それで、いつも通りノート渡せばいいのか?」


「あ〜、それなんだけどさ…。」


?妙に歯切れが悪い気がするな。


「ちょっと今回は本気で赤点を回避しなきゃ行けないんだよ。」


「知ってる。」


昨日言ってたな。クリスマスにデートしたいなんて言うリア充発言を。爆発すればいいのに。


「だから、ノートだけじゃなくて本格的に教えて欲しい!さながら家庭教師のように!」


「…ま、まぁ別にいいけど。」


なんて言う厄介な依頼なんだ。引き受けてしまった以上今更嫌ですって言いにくい!しかも今回は陽の熱意がすごいからな。俺も勉強できるわけだし、まぁいいか。


「それでどこでするんだ?」


教えるとなると図書館では難しいな。どうしても声が出るから。


「お!それなら大丈夫だ!」


「へぇ、どっかいい場所知ってんの?」


陽は雨宮さんや友達と日頃から出かけているのは知ってる。だからいい場所も知っているんだろうな。……そのおかげで勉強出来ていないという事実に気づいて欲しいもんだが。


「俺の家来ない?」


「は?」


聞き間違いか?


「いや、だから俺の家来ない?」


どうやら俺の耳に異常はなかったらしい。


「なんでそうなる?」


「ほら、文化祭の時言ってただろ?「歓迎する」って。」


あぁ〜、そういやそんな約束した気がするな。昨日、北風の家に行ったばかりなんだけどな。こんな短い間に他の人の家に行くなんて…。


「そういやそうだな。それじゃあ行ってもいいか?」


「おう!歓迎するぜ!」


全く嬉しくないな。歓迎された結果やることが陽に勉強を教えることだからな。それに他の人の家っていうのは緊張する。それは昨日で分かった。でも、陽の家なら大丈夫だろ。家族にも全員会ってるわけだし。


「あっ!そうだ陽、昼食なんだけど…。」


「あっ。悪いな。今日は海咲と食うけど…、神楽も来るか?」


北風の所に行くから一緒に食えないって言おうとしたがむしろ好都合だ。


「そうなのか。俺は行かない。絶対に。」


「なんで来ないんだよ?毎回誘ってるのに。」


「お前らの甘い会話を聞くのも、周囲からの視線も嫌だから。」


1度だけ3人で食べたことがある。けど…こいつらの会話が甘すぎる。あの時程塩が欲しいと思った日はないぞ?しかも周りからの目が痛い!主に「なんでお前がいるんだ」的な視線とリア充への嫉妬の視線。あんな状態で食うご飯が美味しいわけがない!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

キーンコーンカーンコーン


4時間目の数学が終わった。腹が減ってるのに頭を使う勉強をするのはかなり酷だと思う。


陽はチャイムがなった瞬間に教室を出ていった。俺も行かなきゃな。美味い弁当を食べたい。


頑張って生物準備室の隣の空き教室まで行く。そして深呼吸を1度してからドアを開ける。


「ごめん。待ったか?」


「ううん。今来た所だよ〜。」


既に北風は椅子に座って待っていた。


「今更だが、本当にこんな場所で良かったのか?」


目立つのは嫌だが、最悪食堂とかでも良かったのだ。こちらがお願いしてる側だからあんまり贅沢言えないし。空き教室なだけあってここは最低限の掃除しかされていない。


「私は気にしないよ。はい!お弁当!」


「そうか。ありがとう。」


「どういたしまして!」


弁当の中身はとても美味しそうなものばかりだった。オーダーどおりの卵焼き、ほうれん草やら。たこさんウィンナーとか久しぶりに見たわ。確かにお弁当って感じがする。


「卵焼きの味付け甘くしたんだけど良かった?しょっぱいのが良かったら私の卵焼きあげるけど…。」


「いや、甘い方が好きだけど…。北風はどっちの方が好きなんだ?」


「私?私は…う〜ん。どっちも好きだけどどちらかと言うと甘い方…かな?」


「?それなのに今日はしょっぱい卵焼きを作ったのか?」


「……もし、荒木くんが甘い卵焼きよりしょっぱい卵焼きの方が好きだったら私の卵焼きをあげようと思って…。」


えっ?それって……


「わざわざ俺のために2種類も作ってくれたのか…?」


「っ!?いや、それもあるけど!なんか今日は甘い卵焼きを食べる気分じゃなかったんだよ!さ!それよりも食べようよ!時間が無くなるよ!」


「ありがとな。」


北風に小さめな声でお礼を言う。


「どういたしまして…。それより食べようよ!」


「「いただきます。」」


俺は件の卵焼きからいただくことにした。


「美味っ!」


昨日のオムライスからわかっていたが北風は本当に料理が上手い。


「本当に!?」


「あぁ。真面目に美味しい。」


「良かった…。あ!好みの味付けとかあったら教えてね?」


「いや、これがいい。」


この味付けが1番美味しい。他にどんな味があるのかは知らないけどな。


「そっか…。良かったよ。」


そんなに心配しなくてもいいと思うんだけどな。それを言うのは野暮だろう。


「あっ…。こっちの卵焼きいる?しょっぱい卵焼き。その代わりそっちの卵焼きちょうだい!」


「OK!」


ちょっとだけしょっぱい卵焼きも欲しいと思っていたんだよな。どんな味か気になる。マジで北風の料理って美味しいから。それに北風も甘い卵焼きの方が好きなんだし。


「はい!」


「えっ…?」


北風は爪楊枝で卵焼きをさして俺の前に差し出してくる。


「…北風さん、こちらの弁当に入れてくれません?」


「はい、あーん。」


いや、それはないでしょう…?俺がそれをしろと…?


「むぅー!早く!それに弁当作ったのは私だよ!」


うっ!それを言われると弱い…。


「それに…こっちもちょっとは恥ずかしいんだよ?」


言葉が進むにつれて声が小さくなる。よく見ると顔も少し赤い。今の言葉に嘘がないんだろう。


恥ずかしいならやらなきゃいいのに。と思ってしまうが北風にも何か目的でもあるのかもしれない。


「ほら、あーん!」


「はぁ。」


パクッと一口で北風の卵焼きを食べる。


「どう?お味は?」


「……うまい。」


正直味はあんまりわからなかった。塩っぽいというより甘く感じた。味覚が完全に壊れているのかもしれないな。味覚が壊れた時って精神科に行けばいいんだっけ?帰ったら予約しておこうかな。予想通りというかかなり恥ずかしいな。


「それは良かった。」


「それじゃあ次は俺の番だな。はいアーン!」


俺だけこんな思いするなんて嫌だ。同じく恥ずかしい思いをしてもらおうじゃないか!


そう思って北風の前に同じく爪楊枝で卵焼きをだすが…


「はむ。」


髪をかき分けて俺の差し出した爪楊枝に顔を寄せてすぐに卵焼きを口に含む。


「えっ…?」


まさか躊躇せずに食べるとは…。絶対に恥ずかしがって食べないと思ったのに。


「む?ゴックン。どうしたの?」


「いや、なんでもない…。」


「甘いね。やっぱりこっちの方が美味しいよ。」


「そうですか…。」


窓から入る太陽のせいなんだろうけど北風の顔が赤いな。俺も太陽のせいで赤いと思うけど。北風の言う通りやる方も結構恥ずかしかった。


「…弁当うまいな。」


「うん。美味しいね。」


俺は味覚が落ちてる気がするけどな。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あとがき


とうとうこの作品のフォロワー数が1000人を超えてPVが10万を超えました!!!


これも普段応援してくださっている皆様のおかげです。これからもよろしくお願いします!!


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