第12話

無事に今日の授業は終わった。お昼休みも卵焼きの一件以外特に問題なく過ごせた。やっぱり北風は料理が上手いなと思えた。


それにしても卵焼きだけであんなことになるとは…。卵焼き、恐るべし。


「よし!神楽行くぞ!」


後ろから陽が俺の肩を叩いてきて廊下だと言うのに大きな声でそう言ってくる。


「分かってる。そういや陽の家ってどこなんだ?」


「あぁ、俺の家はな〜…………」


「あぁ、だいたい分かった。」


俺の想像が正しかったら俺の家から少し遠いな。そうなると帰りが少しめんどくさい事になる。ついでに買い物に行きたい。今日から自炊したくても食材がないからな。仕方ない。ここは…


「伝家の宝刀を使うか…。」


「伝家の宝刀?あぁ!のことか?」


「陽の想像で合ってると思うぞ。それで使っていいか?」


「いいぞ。むしろ俺が見たいから頼む。」


「了解。後で住所だけ送っといてくれ。」


さて、陽が言うアレとは何か。正解はバイクである。


なぜ俺がバイクを乗るのか。これには深い訳があるのだ。俺の父親はバイクが好きだった。休みの日にはツーリングしたり、少しイジったりするほど。俺もよくいっしょにやってたもんだ。しかし俺の両親は死んだ。つまりそのバイクは形見になるんだよ。俺と姉ちゃんで売るかどうか相談して結局売らないことになった。なので一応俺も姉ちゃんもバイクの免許は持っているのだ。しかし姉ちゃんは家を出てバイクは俺のものとなった。ちなみに俺は部活に入ってなかったから免許は高一の夏休みに取った。


車種?俺が乗ってるのはニンジャ400RABSだ。


ちなみに愛称は『シノ丸』だ。 ダサい?そんな文句を言いたければ父さんに言って欲しい!これには姉ちゃんも反対していたな。俺は『シノ丸』なんて言ったことは無い。多分姉ちゃんも。


陽と遊ぶ時に1度だけ遅刻しそうでバイクで行ったことがある。だから陽は俺がバイクを持っていることを知っているのだ。


暇な時はよく乗ったりしている。


この時期は寒いからあんまり乗りたくなんだけどなぁ。けど、帰りがめんどくさくなるし。


俺は1度家に帰り、着替えたらすぐに用の家に向かった。


「よう!神楽!さっきぶりだな!」


「お…おう…。バイク…どこ置けばいい?」


ざ…ざぶい!陽の指示通りバイクを置いたら陽の家に上がらせてもらうことにした。陽は俺のバイクを見ていたが強制的に案内させた。


暖かい。お部屋が暖かい。家には陽の両親は居なかった。


「あっ!神楽、晩御飯家で食べていかないか?なんか俺の家族が話したいんだって。」


…昨日も同じようなことがあったな。


「あぁ。陽の家族がいいならそうさせてもらうわ。」


よし、自炊は明日からにしよう!それに勉強を教えるんだ!時間は長い方がいいだろう。あれ?それならバイクじゃなくても良かったかも…。


それにしても挨拶とかどうしよう…。なんて話したらいいんだろうな。……バイクで印象が下がらないか心配だな。予め言ってくれたら歩いてきたのに。


まぁ、考えても仕方ない!未来の俺に託した!


「よし!それじゃあ勉強をするぞ!」


「その意気だ。はい、これ約束のノート。っていうか家庭教師みたいにって俺はどうしたらいいんだ?」


「俺が分からないところを神楽が教えて欲しい!」


「了解。」


ということで俺は陽が分からないところを徹底的に教えた。勉強を始めて1時間ぐらいしたところで…


「もう無理。ちょっと休憩!」


「五分だけな。」


陽が限界を迎えたので休憩することにした。この調子なら赤点回避は実現可能っぽいな。この調子で行けばだけど。モチベーションが上がっているということが大きいな。…その理由が彼女との聖夜デートっていうのが不満だが。


「お兄ちゃーん!」


「うぉっ!」


「急に入ってくんなよ。陽菜〜。」


陽の部屋のドアを開けて入ってきたのは陽菜ちゃんだった。文化祭以来だな。急にドアがかなりの勢いで開いたから驚いてしまった。


「別にいいじゃない…って友達来てたんだ。あれ?どっかで見たことあるような…。」


今はいつも通りの髪型で、文化祭の時は髪を整えていたことを思い出した。やっぱり髪型で人は変わるんだな。


「あー。神楽だよ。文化祭の時だけ髪整えてたんだ。」


「久しぶり…っていう程でもないか。俺の事覚えてる?」


雪乃ちゃんと昨日話したおかげで年下とも普通に話せたぞ!成長したな!


「神楽先輩でしたか。覚えてますよ!あの時と違うんで一瞬分からなかっただけです!」


「陽菜ちゃんはあんまり驚かないんだな?」


俺が髪整える前と後を見た人は今のところ姉ちゃん以外全員驚いてる感じがするから、陽菜ちゃんはあまり驚いてないことが意外だった。


「驚いてますよ!でも、テレビでそういうビフォーアフターは見慣れてるんで!」


……なるほど。もはやその域に俺は達していたのか。それならば俺が髪を整えたとしてもみんなが分からないのは仕方ない…のか?


「それで?陽菜は何しに来たんだよ?」


「あぁ!ここ!分からないところがあったから聞きに来たんだよ!」


陽菜ちゃんも雪乃ちゃんと同じく中学三年生、受験生なのか。分からないところというのは数学だった。


「…それなら神楽に聞いてくれ。俺、今休憩中だから。」


俺も休憩中なんだけど…?こいつ数学とわかって俺に渡したな?陽は数学が苦手だから。陽の方を見るとウインクしてきた。なるほど。「任せた」だな。とうとう俺たちもアイコンタクトができるようになったな。


まぁ、お邪魔してる身としては断るつもりは無いけど。


「OK。陽菜ちゃん、どこが分からないんだ?」


「はい!ここなんですけど〜……」


俺の隣に陽菜ちゃんが来て数学の参考書を机に広げる。陽菜ちゃんが分からないところを俺が実際に計算しながら教えていく。納得しているのか頷きながら俺の説明を真剣に聞いてくれる。納得していないところは質問もして来る。


「なるほど〜!ありがとうございました!とても分かりやすかったです!」


「どういたしまして。こっちも陽菜ちゃんが質問とかしてくれたおかげでやりやすかったよ。それに陽菜ちゃんが理解しようと頑張ってたから分かりやすかったんじゃない?」


本当にそう思うよ。今も自分のベッドでぐうたらゲームしている陽を見るとな。何問か陽菜ちゃんに教えていたからとっくに5分なんて超えているんだけどな。


「そうですか?でも説明は分かりやすかったと思いますよ〜。」


「そうか。それなら良かった。」


「…また分からないところがあれば教えてくれますか?」


「もちろん!」


次に陽の家に来るのはいつか分からないけどな。まぁ、陽を通したら教えられるかも。


「言いましたね。それでは〜。」


そう言って陽菜ちゃんは陽の部屋から出ていった。


「さてと…陽。何してる?とっくに休憩時間の五分は超えてるぞ?早く椅子に座れ。そして教科書を開け!」


「わかった!これが終わったらな!」


「…それ、終わるまで長いだろ?あと1分で終わらなかったら強制的に携帯とるからな。」


「は…はい…。」


そもそも陽が100%赤点を全教科回避するにはかなりの時間が必要だと思うんだけどな。俺が帰ったあとも結構勉強してもらわないと。


陽は1分が経つ前にはゲームを終わらせてくれた。そして俺の隣に座って勉強を始めてくれた。


「さっきの休憩で何やってたんだ?」


2人とも数学の問題を解きながら俺は陽に質問する。面白いゲームなら暇つぶしにでもなるかもしれないからな。


「あぁ〜。海咲とのRINEだよ。」


危うく口から「滅べ!くそリア充め!」という言葉が出かけた。そんな言葉を言ってしまえば陽のやる気が削がれるかもしれないというのに。危なかった。


「………そういえば雨宮さんには教わらないのか?」


ふっと疑問に思った。雨宮さんって結構勉強できたはずなんだよな。俺より上の順位も取ったことあるって本人から聞いたこともあるし。


「いつもはそうしてるんだけどな。でも…あれだ。一緒にいるとイチャつきたくなるからな。」


「爆ぜろ!クソリア充め!!」


なんてやつだ!毎回ノートを見せてやっているのに雨宮さんに教わっているのかよ!しかもお前らはイチャつかないと勉強できないのか!?


「だから今回はイチャつくのを我慢してまで神楽から教わっているんだよ!」


「イチャつくのを我慢して勉強するのが普通なんだよ!付き合ってない人なんてイチャつきたいけどできないんだぞ!俺とかな!」


「さっきRINEで海咲と話してたら海咲も誰かに勉強を教えているらしい。」


俺の文句はスルーの方向性らしいな。仕方ない。今回は俺の寛大な心で許そう。


「おっ!これ懐かしいなぁ!」

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