第22話
「そういえばメガネどうしたの?普段つけてないよね?」
「ん?あぁ。これか…。」
俺は別に目は悪くない。コンタクトやメガネも普段からしてないし。
では、このメガネは何か。それは…
「お隣さんからもらった。」
今朝俺が外へ出ると、
『あら〜、神楽くんじゃない!その格好…、もしかしてデート?』
『あ〜まぁ、はい。』
このお隣さんとは仲良くやっている。両親が死んでからも色々と世話をして貰った。姉ちゃんが家を出ていってからは俺とこうやって喋ることが多くなった。
『いいわね〜。あ!ちょっと待っててね!』
そう言って渡されたのがこの伊達メガネなんだ。お隣さん曰くこっちの方が似合ってると。
「へぇ〜。お隣さんと仲良いんだ。いいんじゃない?そのメガネ。似合ってるよ!」
「そうか?まぁ、ありがとう。」
似合ってるならこのままにしておこう。できる限り対策しとかないと俺の命が今日、尽きることになるかも知れん。
今日の北風から言われたら嬉しいな。ただ隣に立ってるだけで自信無くしてる今の状況からしたらお世辞では?と疑いたくなるけど。
それにしてもアレだな。今日ちょっとクリスマスデート〜みたいに浮かれてたし、北風は俺の事…とか考えてたけどその答えが一気に出たな。こいつは間違いなく、俺の事をナンパ対策だと思ってるな。
さっきから周りからの視線が痛い!そんなに見られたら胃に穴があきそうなんだけど?男子だけじゃなく、女子からも見られたら本当に痛い!確かにこれは北風が女子友達と歩いたらナンパの嵐だわ。対策として喧嘩の強い俺を呼ぶわな。それは当然だ。
クリスマスデートなんか楽しんでる暇ないわ。気をぬけばナンパに俺が殺されそうで怖い!陽はこんなことを楽しんでるの??やるな!陽のやつ!雨宮さんだってかなりというか凄く可愛いはずなのに!ナンパにだって会うはずなのに!
喧嘩したら陽には負けそうだ。
「あっ!そうだ。言い忘れてた。」
「?何を?」
「北風、今日の設定なんだけどさ。」
「設定?」
「あぁ。一応今日は俺とお前は付き合ってるって設定で頼む。」
「え?えぇ!?!!!?」
いや、そんなに驚かなくてもいいんじゃない?そこまでオーバーに言われたらちょっと俺も傷つくよ?
「それって…私が荒木くんの彼女……ってこと……?」
「あぁ。そういう感じだ。その設定で頼む。」
「いいの…?」
「もちろんだ。それでナンパされたら「彼氏いるんで〜」みたいなこと言った切り抜けてくれ。しつこいタイプならすぐ俺を呼んでくれ。俺も「俺の彼女なんで〜」みたいなこと言って乗り切るから!」
これが俺が昨日必死に考えたナンパに合わないための秘策だった。ナンパはカップルを狙わないだろう!と昨日思いついたのだ!ちなみに陽からナンパに合わないための対策も聞いておいた。
『ナンパ対策?んー。俺はナンパしに来そうな人を見つけたら視線で撃退したりイチャイチャしてるとこを見せつけたり、あんまりナンパのいないところに行くかな〜。ナンパにあっても定型文とか決まってるし。』
『定型文?ぜひ教えてくれ!』
『例えば…。くくっ…。「俺の彼女に手ぇ出すな」とか?ははっ。神楽に似合ってるぜ?はははっ。』
笑われたが参考になるのは違いないからな。それを改良したものを定型文にしようと決めた。そもそも視線で撃退は無理だな。まずどこに潜んでいるのかわからんし。
「あれ?北風?聞いてる?」
北風の方を見ると何か本気で考え込んでる表情だった。すごく真剣だな。そんな表情初めて見た。
「えっ?あ、聞いてるよ!今日は私が荒木くんの彼女なんだよね!?」
「あ、あぁ。そうだな。そういう設定だな。」
「私たち、今日は付き合ってるんだよね!?」
「だからそういう設定だって。」
ナンパはいつどこで目をギラつかせてるか分からないからな。北風のすぐ後ろにもいるかもしれない。
「そうだよね…。よし!なら…。」
ギュッ!
「へ…?」
今度は俺が驚く番だった。なんと北風が俺の手を握ってきたのだ。いや、なんで?
「ほ、ほら!こっちの方が付き合ってるって思われやすくなってナンパも減るんじゃないかな!!それにこうしてたら私も荒木くんから離れないし!!」
「て…天才か…!!」
確かにこの状況は好ましい!これでナンパ遭遇率は90パーセントは減ったと思っていいだろう。そして何より北風が自分からナンパ対策を講じてくれたということだな!いつも、自分の魅力に気づかずかなり可愛くなってナンパに遭遇してもお構い無し!みたいな北風が自分から行動してくれた!
正直今の状況は恥ずかしい。けどもしこの提案をフッたら北風はもうナンパ対策に付き合ってくれないだろう。そうなったらナンパの餌だ。
そうなると俺は雪乃ちゃんにも北風の両親にも合わせる顔が無くなる。多分俺の命も無くなる。
それらの点を踏まえるとこの対策は乗るべきだろう。歩幅も北風に合わせるよりも若干遅いぐらいの方がいいかも。
ただアレだな。結構恥ずかしいというかなんというかすごくドキドキする。北風の手すごく細くて柔らかい。なのにすべすべでもちもちな感じがするんだけど。俺の手とは物質から違う気がする。女子の手は多分男子とは違う化学物質から出来てるんだろうな。
ヤバい。なんか北風の手を意識したらすごくドキドキしてきた。これ、北風に伝わってないよな?なんか顔を熱くなってきた気がする。
さっきからずっとお互い沈黙だからなんか余計に緊張してきた。それに加えて他の人からの視線がきつい。北風は普段からこういう興味とか関心の視線に慣れているからいいけど、俺はそうじゃないから少しキツイな。前日にちょっとデートだ!って楽しみにしてたんだけどなぁ。完璧に映画見たいけどナンパがすごいからついてきて欲しい。多分これが北風のお願いだったんだ。
とりあえず話をしなくては話題…話題…。
「な、なぁ北風、新年のことなんだ……」
北風の方を向くと北風も真っ赤になっていた。あれ?なんで?いや、まさか北風もさっきまでの俺と同じことかんがえてたんじゃ………。
「な、何?」
「なんでも………ないです。」
「何?気になるよ。」
「忘れてくれ。映画終わったあとの昼食の時にでも話すから。」
「わ、わかった。」
カップルはどうやってあんなにイチャついてんの?イチャつくどころか会話することすらすごく難しく感じるんだけど。あいつらなんであんなに呑気なんだよ。強心臓すぎるだろ。怖いもの無しか。
「あっ!そういえばテストで荒木くんが勝ったら何をお願いするつもりだったの?」
「あぁ〜。アレか。教えて欲しい料理があったんだよ。」
「へ〜。何それ?オムライス?」
「ハズレ。正解は肉じゃがだ。」
「肉じゃが?なんか…家庭的だね…。」
「まぁ…そうかもな。ちょっと食べてもらいたい人がいるんだよ。」
「へ、へぇ〜。そ、そうなんだ…。ち、ちなみにそれが誰かとかき、聞いていい?」
「俺の姉ちゃんだよ。」
「あ、あぁ!お、お姉さんね。よ、良かった…。」
良かった?そう聞こえた気がするが他にも話し声が聞こえるし、よく分からないかったな。
「いいね!そういうの!今度教えてあげるよ。」
「そうか。それは助かる。」
自分で作ったら前と同じく美味しくない肉じゃがになるからな。
「そういえばどうして公園でボールを直接子供に渡さなかったの?」
ここまで来るといつも通りに話せるようになってきた。
「あぁ。俺は困ってる北風を助けただけで、子供たちを助けたのは北風だろ?」
「でも、結局問題を解決したのは荒木くんでしょ?」
「ん〜。でも、俺は北風が困ってるから助けたけどもし北風があの子たちを助けに行ってなかったら俺も助けなかったかもしれないだろ?」
「なるほど〜。ちょっと分かった。でも、それって……私のために助けてくれたってことだよね?」
「そうなるな。」
あれ?なんかこれ恥ずかしいぞ。北風のために助けたってなんか俺が北風をちょっと大切に思ってるみたいな………。何を考えてるんだ俺は!!そんな訳ないそん訳ないそんな訳ない!!
「ふ、ふ〜ん。そっか♪」
…なんでそんなに嬉しそうなんだよ。北風は俺をどう思っているのだろうか。これは考えても無駄な事だ。
…俺はどうしてこんなにドキドキしているのだろうか…。分からないな。自分のことなのに。
そんなことを考えていると映画館に到着していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます