第2話

俺の事で噂になっている昼休み、俺と陽は食堂に来ていた。


俺は家事全般出来るが、唯一出来ないのが料理である。全く作れない。作っても全然美味しくない。むしろまずい。


一人暮らしになってもバイトのコンビニで買うか、賄いで過ごしている。なので、昼食も毎回食堂だ。


陽は弁当、俺は天ぷら丼だ。


「もうすぐ期末テストだな〜。」


「そうだな。」


「軽すぎない?神楽さん。」


「俺は普段から勉強してるからテストで赤点は取らないと思うからな。」


ここ佐倉高校はかなり、勉強に熱意を入れている。まぁ、県内でもトップクラスに偏差値が高い学校だからな。


俺は帰宅部で、一人暮らし。帰ってもバイトか家事か勉強しかやることが無い。ぼっちだから誰かと遊ぶこともほとんどない。


陽は部活もある。雨宮さんとデートしたり、友達と遊んだりしているからあまり勉強できていないのだろう。


「言うセリフが違うな。でも今回は俺も本気で赤点回避に努めるぜ!」


「珍しくやる気だな。どうした?」


「どうした?ってお前赤点取ったら補習行きだろうが!」


それぐらい大したことないだろ?陽は何回も補習を受けてるし。


そんな俺の心を察してくれたのか分からないが、興奮している陽の説明は続く。


「その補習の日がな!クリスマスイブとクリスマスの日なんだよ!!」


……心底どうでもいい。非リア陰キャである俺からしたらその2日は地獄だ。


外を出歩けばイチャついたカップルがわんさかいる。どこから湧いて来ているのか知らないが、大量発生してる。駆除依頼を出したいぐらいだ。


聖なる夜のくせに祈りもせずに、彼氏彼女とイチャつきやがる。なんなら性なる夜に変えようとしている奴もいる。そんな愚行が許されるはずないだろ。いつか絶対裁きが来るからな!


「……陽、その2日は特別か??違うぞ。所詮はただの2日だ。惑わされるな。時間は平等だ。その時間に特別な意味は無い!」


「彼女がいないからそんなことが言えるんだよ!彼女が出来たら、そんなこと言えなくなるからな?」


俺は2日間も家から出ることが出来ないという地獄を毎年味わってるんだけどな。地獄としか言いようがない。


「すみませ〜ん。ここ空いてますか?」


急に声をかけられた。俺と陽は会話を中断して、声の主の方をむく。うん?これなんかちょっと前にもあったな。


「あ、すみません。こちらの席をお使いくだ………さ…い」


そこにいたのは北風たちのグループだった。


俺は周りを見渡す。今回は他にも4人席が色々空いてる。なのに、俺たちの方に来た。ならば!


「周りにも沢山席が空いてるようですよ?そちらに移動された方が友達とお話しやすいのではないでしょうか?」


至って丁寧に!かつ正論を叩き込む!行ける!!


「別にどこに私たちが座ろうと関係ないでしょ〜!ヒーローさん?」


北風がそう言う。…それを言われたら引き下がるしかないな。


しかも席は前と同じ。つまり俺の隣に北風だ。


「ヒーロー?誰のこと言ってるのか分からないな。俺は荒木神楽だが?」


「知ってるよ〜。揶揄っただけ〜。ふふっ。」


腹立つが、ここでなにか言っても無駄だろうな。それにしてもこんなしょうもない会話でも楽しそうだな。文化祭終わってからよく笑う姿を見る。俺といて何が面白いのかさっぱりだが。


前までと違い、自然な笑顔なだけにたちが悪い。北風級の美少女が綺麗な笑顔を浮かべたら何も言えなくなる。


まぁ、そんなこと口には出さないし、態度にも見せないが。


「……ん?北風少し顔が赤くないか?まだ怪我したところ痛むんだったらいい病院紹介するけど?」


気のせいかもしれないが、頬が少し赤い。いつもならこんなこと気づいても気のせいだとスルーするけど、金髪ゴリラに殴られたことを考えたらスルーできない。


「なっ!!?い、いや大丈夫だよ…。きっと荒木くんの気の所為だよ。も、もう怪我も痛くないよ!!」


「そ、そうか。それならいいんだが。それで?本題はなんだ??」


慌てているが、痛そうには見えない。なら気のせいかな…?


「本題?そんなものないよぉー。」


「陽、帰るぞ。」


「待った待った!それは困る!わかった!だから、ちょっと待って!」


俺はこのまま絡まれるのはめんどくさかったので、帰ろうとしたが、北風にとめられてもう一度席に着いた。


「改めて、あの時はありがとう。」


「どーいたしまして。特になんかした気はしないが。」


「ふふっ。助けてくれたじゃん。」


「ムカついたからウザイやつぶん殴っただけ。暴力しかやってない。」


「へぇ〜。なら、あの時の荒木くんが私に言った言葉ここで言っていいの?」


「「「「あの時の言葉???」」」」


やばいな。陽と3人組が食いつきやがった。あんな恥ずかしい言葉をプレイバックされる訳にはいかない。ならば!


「ごめんなさい。色々なことをしました。なので、それは北風様の御心に閉まっておいてください。」


俺は今北風から謝礼をされたんだよな??なんで俺が謝って懇願してるんだ??俺は今どういう状況でどの立場なんだろうか?


「ふふっ。やっぱり荒木くんは面白いね。色々なことをしたって認めてくれたね?それなら私たちはお礼をすべきだと思うんだよ。」


すごいな。俺はお礼される立場なのに、謝ってるんだけど。立場が逆転してるんだけど??


「何もお礼なんか求めていない。俺がしたいからした。それだけだ。だからお礼なんていらないよ。」


「そう言うと思ったよ。なら、勝手に私達がお礼する!」


「勝手に??」


「そう、勝手に。噂のイケメンは荒木くんとか、荒木くんはいい人って広めるとか。」


めちゃくちゃじゃないか。そんなことをしたら俺の平穏な学校生活が地獄と化すぞ。


俺は陽と話すだけの今の状況が割と気に入ってる。それが壊されるのは嫌だな。


しかも周りから見たらその行為は善意にしか思えないだろう。けど、今の北風の顔を見たら少しわかる。俺がそんなことを求めてないのはわかってるのだろう。だけど、北風たちの気が収まらないから、俺が望むお礼をさせて欲しい。そう言いたいのだろうな。


「……わかった。なら今流れてる文化祭の噂をそのままスルーしといてくれ。聞かれても俺に関することは何も言わないでくれ。」


「「「「えっ…?それだけ?」」」」


北風たちの声がハモる。見事にハモったな。


「そうだ。むしろそれ以外にない。」


本当にない。今の噂のままだったら、俺に被害が来ることは無いだろう。


「あ、そういえば荒木くんって前も食堂で頼んでなかったけ〜。」


急に木村さんがそういった。


話題の転換にしては急すぎないか?しかもなんか棒読み感がすごいな。読まされてますって感じがする。


「そ、そうだが?俺は一人暮らしだけど、料理が出来ないから昼は食堂に来ることが多いんだ」


「え?じゃあ夜ご飯はどうしてるの?」


「ほとんどコンビニ弁当だな。」


バイトの賄いか、バイトのコンビニで購入するかしか俺には選択肢がない。


「「「「コンビニ弁当!!?」」」」


「お、おう…。」


急に来たな。4人全員が驚くようなことでもないだろ。結構驚いたぞ。


「コ、コンビニ弁当は毎日栄養が偏るんじゃないかな〜。さすがに自炊は必要だと思うよ?」


中村さんがそう言うが最近のコンビニ弁当って意外と進化してるから大丈夫だと思うけど……。


「ならさ!お礼は料理を教えるってのはどうかな?ほら真美ってすごく料理が得意でさ!真美の弁当だって自分で作ってるんだよ!」


パンっと手を叩いて木村さんがそんな提案をするが…、俺は今の生活で不便していないし、コンビニ弁当の方が俺の料理より美味しいからなぁ。


それにしても北風自炊してるのか。弁当見たけどすげぇ美味そうだし、相当料理できるんだろうな。でも、


「いや、遠慮しとく。最近のコンビニ弁当は美味いし」


「そ、それじゃあダメ!いつか体調を崩すよ!」


北風が急にそんなことを言うが、さっきこの提案?にちょっと驚いてたし…。


「いや、今まで崩れたことないから大丈夫だろ?」


「それがこれからも体調を崩さない理由にならないでしょ!それに…もし…荒木くんが体調崩して学校休んだら……私、悲しいよ……。せめて料理本だけでも…送らせて?」


グフっ!ヤバい!!今の言葉と泣きながら訴えてくるようなその表情!!可愛すぎる!そんなことを言われちまったら……


「わ、わかった。受け取るよ……。」


「ありがとう!」


急に雨が晴れたかのように笑顔になった。ギャップがすごいな。さっきのやつは演技だったのかな?なら女優目指せるわ。


俺ですらこんなことをおもうのだから、他の人達ならもっと大変だろう。今のを写真にしたら高値がつくだるうな。そんな事しないが。


「それじゃあ、今日の放課後一緒に来てよ!あ、もちろん噂の方も私たちは干渉しないから安心して♪それじゃあ、私たちは食べて終わったし行くよ。ばいばー~い!」


「………。」


………え?今日北風の家まで行かなきゃならないの?料理本を学校に持ってきてくれれば良くない??


「なぁ、陽。」


「なんだ?」


「俺、騙された?」


「さぁ?北風さんにも考えとかあるんじゃない?目立たないようにとか。神楽と北風さんが会ってるの見たら目立つだろ?けど、自炊はしといた方がいいと思うから、絶好の機会じゃん。良かったな。」


そうだけどさぁ。はぁ、めんどくさい。それにしても北風の身代わりの早さがすごいな。


それにしてもなんでだ?理由がわからん。


「なぁ、神楽」


「なんだ?陽」


「一応…一応だが、なんで北風さんはあんなこと言ったんだと思う?」


「それは俺も考えてたんだが、単純に俺の事を心配してるか、北風たちは早く俺に恩を返したいんだろう。貸し借りなしにしないと、これを理由に言い寄られるかもしれないからな。俺はお節介ぐらいの気持ちなんだけどな。」


間違いないな。これが正解だな。貸し借りが原因で北風は言い寄られたことが過去にあったんだろうな。


俺はそんなつもり1ミリもないが。


見た目は子供の名探偵も驚く推理力だろうな。正解に違いないからドヤ顔まで見せつけてやったぜ!


「はぁー。やっぱりな。神楽は鈍感だってわかってた。北風さんも辛いだろうな。いや、これだけじゃまだ分からないか…。」


?何言ってるのか聞こえなかったが、大きため息だけはしっかり俺の耳に届いた。なにをあきれることがあるのだろうか?



「なんか言ったか?陽」


「いや、なんでもない。俺達も戻るぞ」


そうか。陽が何も無いっていうならそうなんだろう。


北風とは助けた理由を教えた事で縁は切れたと思ってたんだけどな。


どうなることやら。





後書き

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「クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える」もよろしくお願いします!

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