第32話
非常階段に北風を座らせて俺は北風の前でしゃがんだ。そしてカミラを俺の顔の辺りまであげて北風に喋りかける。
「んッん!ま〜みお母さん!こっちみてクマ!」
俺は声を高くしてカミラになりきることにした。ここまで来たらやってやる。やけくそだ!
「辛いことがあるなら、友達と共有するクマ!お母さんにはそういう友達がいるクマ!その友達ならきっと負担に思わず共有してくれるクマ!後悔していることがあるなら、誰かに助けて貰ってそれに立ち向かえばいいクマ!お母さんが教えてくれたことクマ!」
「何…してるの…荒木くん。」
「荒木神楽じゃない。カミラだ。」
もう限界だから声は戻す。喉が痛い。ここからは俺の言葉で伝えるとするか。
「なぁ、北風。お前も後悔…してることあるんだろ?ならさ、それを逃げずに向き合ってみないか?俺もひとりじゃ無理だった。今度は俺が北風を支えてやるから。」
俺も姉ちゃんがいなきゃ絶対に立ち直れなかった。そしてその姉ちゃんの役は今度は俺の番だ。俺の事を助けてくれた北風だからそう思える。
「それに、ここ誰もいないし俺も聞かなかったことにしてやるからさ?とりあえず我慢するのはやめたらどうだ?ちょっとは気が楽になると思うけど?」
「あらぎぐん。いいの?」
「いいんじゃねぇの?張り詰めた状態でいたって辛いだけだ。俺が慰めてやるよ。ほら、今日だけとはいえ俺は北風の彼氏だし。」
「う…う…うわぁぁーん!!」
ようやく泣き出したか。泣きたい時ぐらい泣けばいいのに。
「あ〜、ほら、こっちこい。」
北風はゆっくり俺の方を向いた。俺は北風の方に寄ってゆっくりと、優しく背中や頭を撫でる。
「…頑張ったな。偉いぞ、北風。」
「…私、頑張ったかなぁ?」
「あぁ。俺が保証する。」
北風は一層激しく泣き出した。やっぱり間違いないな。天女様は泣き虫のようだ。
何分経ったか分からないがだんだん北風は泣き止んできた。
「もう…大丈夫…。」
「そうか。」
俺はゆっくりと北風から手を離す。
撫でながら思ったけど女子の体って全体的に柔らかすぎる。俺とは全然違う。
「んまぁ、あれだ。俺は北風を変えた一因になってるのは間違いないしさ、その責任が俺にもあるわけで。だからちょっとぐらいなら悩みを聞いてやるぞ?」
「ありがとう。じゃあちょっと聞いてもらえる?」
「あぁ。」
「あの子ね、ミクって言うんだけどね。私とは小学校の頃から仲良しだったの。」
あの子…。さっきのヒステリック女か。
「それでさ?よく放課後に遊んだりしてて…。それで中学に上がったの。」
北風の中ではあのヒステリック女は親友だったんだろうな。
「そしたらね?たまたまその子も含めたグループで恋バナでもしててさ?ミクが好きな人言って…。私はそれを叶えてあげたかったの。だから私はその男の子とミクの仲を取り持とうとしたんだよ。そしたら結果はミクの言った通りになっちゃった…。そこからミクは私を虐めるようになっちゃったの。」
「それが…お前の後悔か?」
「そうだね。だから怖くなって逃げて高校では仮面を作ったんだ。」
あぁ、なるほど。それが文化祭で言ってたことの真実か。
「荒木くんのものに比べたら大したことないけどね。」
「……悩みなんて人によって大きさが違うだろ。俺からしたら北風のその悩みは俺よりでかいと思うけど?」
北風にとってそれは最も大きな後悔なのかもしれないな。さてどうするか。
でも悪いことしたな。北風の親友だったやつに思いっきり油注いじまった。あれじゃもう関係を修復するのは難しいな。
「前にも言ったがあのヒステリック女は北風のことわかってねぇよ。多分北風も言いあった方が良かった……んだと思う。それが伝わるかどうかは知らないけど。まぁ、ちょっとは伝わると思う。」
「それでも……変わらなかった……と思う。」
「まぁ、それはそうだろう。俺と姉ちゃんだって家族なのにわからなかった。」
あの時、姉ちゃんが俺を引き止めて、姉ちゃんが泣いて初めて俺は姉ちゃんが苦しんでる、悩んでることに気づいた。逆にそこまでしてもらうまでわからなかったんだよ。
「相手を完全に理解する……なんて多分…というか絶対に無理だ。それがたとえ家族であっても…親しい親友でも、恋人でも。でも……何パーセントかぐらいならできる…と思う。それがちょっとずつ増えていって。ちょっとでも相手のことを理解していたら相手のことを思いやれる、配慮できるようになる……んだと思う。」
どれだけ頑張っても完全に理解はすることは出来ない。それはよく分かる。でも例えば姉ちゃんのことをちょっとは理解してるつもりだ。陽に対してだってちょっとはわかっているつもり。だから相手のことを分かって会話出来る。気遣いができる。
「ミスすることは人間誰にもある事だと思う。けど大事なのはそのミスから学んで同じことを繰り返さないことなんだと思う。」
「……いいこと言うね。」
「北風が教えてくれたんだろ?」
「えっ?」
「後悔したことを直視して後悔した意味を見つける。俺はもう同じことを繰り返したくない。そうならないために人助けしてるんだって。そうなんだと思う。」
「……北風は俺の事を強いって言ってたけどやっぱり俺は弱いよ。後悔することが怖い。そんなこと不可能だってわかってるけどな。生きている限り何かをする限り後悔なんて絶対に生まれる。何もしなかったら「あのときなにかしてればな」って後悔すると思う。」
「俺も逃げたい。それでも俺は後悔したことに向き合ってる。でも、大きすぎるものには逃げたくなるから他の人の助けを得て頑張って向き合ってる。」
「…北風ももし、その後悔が大きくて向き合いたいんだと言うなら、俺でよかったら手伝うよ。それでも無理だったら他の人の手も借りればいいと思う。」
「……ありがとう。もう…大丈夫…!!」
北風は涙を拭ってそういう。
「そうかい。なら良かった。」
「ねぇ、今の私どうなってる?」
北風の顔は涙で化粧がとんでもない事になり、目は涙で赤く腫れている。でも、
「綺麗なんじゃねぇの?」
本当にな。女の1番の化粧は笑顔とはよく言ったものだ。
「そっか♪ねぇ、ちょっとトイレで化粧なおしてきていい?」
すぐ近くにトイレがあることは知ってる。この距離なら問題ないだろう。
「おぉ。行ってらっしゃい。俺はここら辺で待ってるわ。」
「うんっ!」
北風がトイレに向かったのを確認してから俺は
「はぁ〜ーー。」
思いっきり大きなため息をついた。
怖っ!!恐すぎるだろ!ガールズトーク!!マジでビビったわ!ドラマじゃないんだから!!嫉妬がスゴすぎる!どうなってんだよ!!
でも、それにしても俺、絶対にまた臭いこと言った気がする!!!
グワァァァ!死にてぇ!!文化祭の時も終わったあと家で反省したって言うのに!!
まぁ、北風が笑顔になったんなら良かった…と考えるか。
さて、この間に1つやりたいことがあるんだよなぁ。
俺は携帯を取り出して最近登録した電話番号をコールする。
『も、もしもし神楽先輩!?どうしたんですか、急に!で、電話なんてしてきて!』
「いや、ほら陽菜ちゃん前に言ってただろ?ガールズトーク恐いねぇって話。」
『え、あ、はい。しましたね。それがどうしたんです?』
「あれ、俺嘘だと思ってたから謝ろうと思って。あの時疑ってごめん。」
『えっ?何かあったんですか??』
「まぁな。やっぱり女子って…怖いな。」
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