第13話

「だいたいわかった。話がしたいんだろう…?ここで話すのもなんだから、近くの喫茶店でも行くか。」


そう言って喫茶店に向かおうとしたのだが、北風に腕を掴まれて歩みを止めた。


「…なんか、私を見て言うこと、無い?」

「無い、全くない。一言もない。」

本当に何も無い。というか早く喫茶店に向かって、早く用事を済ませたい。


「む、ムゥ!!わかった!じゃあ!私の服装見て、なんか言うことない!」


そこまで言われて、もう一度北風の服装を見る。そもそもの素材がいいからどんな服も似合わないって言うことないと思うんだが、今回は髪がストレートで清楚っぽいイメージがあり、それが服装とマッチしていた。一言で言えばとても可愛い。10人見たら12人が、「可愛い」と言うだろう。


「…似合ってると思うぞ、その服装。」

それだけ言うと少し怒りが収まったように見えたが、どうやらまだ怒っていた。不正解だったようだ。そもそも女の子と出かけたことなんてないので、何が正解か分からないが。


「…ありがとう…。それじゃあ、私の今の髪型と前の髪型どっちが思う??」

可愛いの部分が強調されていた。それでわかった。北風は、可愛いと俺の口から言わせたいのだろう。そして、「今の方が可愛い い」的な発言が正解なのだろう…。だが俺は、


「ん〜、今の髪型の方が"似合ってる"と思うぞ。」


言わせたいことはわかっているが、わざと言わなかった。すると、


「ムウゥ!わざとでしょ!わかっててその返しをしているんでしょあ!?」


「さぁ??なんのことか僕にはさっぱりだなぁ???」

それだけ言って喫茶店に向かうことにした。


勝ったっ!!!!!!心の中でそう思い、その勝利の味を噛み締めた!すごく心地いい!すると、後ろから急に


「とぼけるつもりなんだぁ、


そんな声が聞こえた。う、嘘だろ?それはさっきつばさくんが俺を呼んでいた時の呼び方だ。ま、まさかずっと観察されていたのか?まだ偶然の可能性もある。そう思いおれは、


「な、なんでそれを知ってる?」

と尋ねた。すると返って来たのは…


「さぁ??なんのことか私にはさっぱりだなぁ〜???」

さっきの俺とほとんど似た返しだった。しかも、腹が立つほどニヤニヤとした顔を俺に向けてきた。


こ、こいつ!やっぱりあの時の光景絶対見てやがった!!!いつから居たんだよ!


そう感じたが…聞くことも出来ず、俺の敗北を悟った。さっきのお返しは絶対にするからな!


決戦の始まりだ!!!


一体何と戦ってるのか分からなくなってきた…


優越感に浸っている北風を置いて俺は、ちょっと早歩きで喫茶店に向かう。


「ねェー、そこの可愛い君〜。いま暇でしょ〜?俺と遊ぼーよー」

「ごめんね〜☆今日は彼氏と用事があってさー、お兄さんと遊ぶ余裕は無いかな〜」


う、嘘だろ!?俺が歩き始めたのは約10秒前だぞ!?その間にあいつはナンパにあったというのか…


ゴキブリホ○ホイでもGを捕まえるのに10秒は不可能だぞ!どれだけ強力なナンパホイホ○なんだよ、北風は。


「そんなこと言わずにさー、俺の方が絶対に楽しいよ〜。ほら、彼氏が来るまででいいからさ〜」


し、しつこいタイプのナンパだ。北風が必死にあしらっているが、それでもナンパ野郎は続ける。すごいな…北風のナンパの扱い方のスキルにも驚くが、ナンパの熱意がすごい。


俺なら1番最初でダウンだ。まぁ、ナンパなんてする気は無いが。


あ、今北風の腕を握った。うわぁ…すげぇ嫌そうな顔してるなぁ、北風。


俺としてはこのまま眺めていてもいいのだが、時間がもったいない。それに陽に裏切られたこともあり、少々機嫌が良くないからな。


「すみません、その手離して頂けますか?」


「うぉっ!?なんだ、おまえ!真っ黒くろすけじゃねぇか!お前がこの可愛い子の彼氏か?」


めっちゃ傷ついた。確かに今日の俺は全身黒の服で前髪も目の辺りまであるけどさぁ!その言い方はないだろう!


「違います。彼氏ではありません。"この可愛い子"と同じ学校の生徒です。」


「んだァ!同じ学校の生徒だと!いきがってんじゃねぇぞ!?陰キャ風情が!」


喧嘩売られてるのかな?売られてるよな?


すごくムカついたので北風を握っている手を割と本気で握ってやった。


「い!?いっっでぇ!」


まぁ、毎日筋トレとランニングはしているのでそれなりに痛いと思う。陰キャを舐めたからだ。アホめ!


北風から手を離したのでそれに合わせて俺も手を離す。


「何しやがる!?」


「別に何もしていない。お前がこの子にやったことと同じことをしただけだ。」


やってるじゃねぇか!っと陽ならツッこむだろうな。


「このっ!」

ナンパ野郎がおれに殴ろうとしているが…


「そこの君っ!止まりなさい!」

近くを巡回していた警察官がやってきた。近くの人が通報したのかもしれない。


しかし、警察に捕まる訳には行かない。別に悪いことをしてはいないのだが、捕まると時間がかかる。それでは元も子もない。


ということで…


「行くぞ」


北風の手を引いて逃げることにする。北風が赤面しながら「キャッ!」なんていう声も、警察の「あっ、待ちなさい!」なんて言う声も無視だ。すみません、事情なら近くの人と陰キャを馬鹿にした熱心なナンパ野郎から聞いてください。


「はぁ」とため息をつきながらおもう。


北風と関わるとろくなことがねぇ…


と。

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