第8話

「おー行ったぞー、雪乃ちゃーん」

「えい!」


カーン!


「お兄ちゃん!来たよ!」

「任せろ!陽菜!」


カーン!


「頑張れー、雪乃〜」

「…陽菜ちゃん頑張れ…」


初詣を終えた俺たちは現在、俺の家に戻り羽付きをしていた。


ももかちゃんを送り届けた後、すぐに皆と合流してお参りをした。その後、「甘酒でも飲もっか!」って流れになったけど俺だけは遠慮しておしるこにした。……酒、怖い……。甘酒って実際アルコール度数は1%未満と低くアルコールではなく、清涼飲料水に分類されるらしい。それでも酒に弱い人は注意が必要だけど。


漫画とかじゃ甘酒で酔うっていう展開は多かったけど実際そんなことは無かった。なんか…嫌な現実知った気分だな。一応アルコールがあるって事で姉ちゃんは飲んでない。まぁ、あの程度で酔う人ではないのは確認済みだか。


そのあとは絵馬を書いてお守りを買って初詣終了だな。雪乃ちゃんと陽菜ちゃんは揃って合格祈願のお守りを買っていた。以外と早くに終わったので、帰ってきた俺たちは荒木家恒例!羽付き大会をすることになった。


荒木家では三が日のうち風が弱ければ羽付きをするという慣習がある。ご丁寧に羽子板が2セットと羽根が2個揃えられている。それだけでなくネットと羽付きといえば!の墨までそろえられている。


まぁ用意周到なこと…。持ってる俺でもそう思うわ。羽付きのセットをこんなに本格的に揃えてるのは近年では珍しいんじゃね?


陽と北風も「「羽付きって初めて見た!」」って言ってたしな。


ネットは確か…、バドミントンと同じやつだった思う。庭が広いから丁度いいんだよな。今日は風もほぼない。ここら辺って田舎っちゃあ田舎だから結構自由きくしな。


始まりはもう何年も前の正月だ。


まだ外は寒く年末に降った雪がチラホラと街にも残っていた。


その頃は俺の両親も存命していて俺と父さんは家に籠り、母さんと姉ちゃんは仲良く福袋を買いに行っていた。今でもそうだが当時の俺はこんな寒い中外に出て人の多い中に行くのは嫌だった。


『……あぁ〜……、コタツ…さいこー』

『そうだな〜……かぐらぁ……』


俺と父さんは揃ってコタツに入り半分睡眠状態で過ごしていた。机の上には飲み物とみかん。動くことなく最高の環境だった…。


父さんはビールを飲みながらみかんを食べ、新しく始まるアニメの録画予約と年末撮りためたテレビを見ていた。


だが、その平和は突然として崩れ去った。


『『ただいまー』』

『『おかえり〜…』』


母と姉が帰ってきた。そして2人は止まることなく俺と父さんがいる居間に突入してきた。


今でも覚えてる。あの時の2人は本物の悪の軍団に見えたもんだ。なんでかって?だってあの2人完璧なスポーツウェアに着替えた上に両手に羽子板持ってんだからな。


コタツが友達の俺にはそれはもう絶望した瞬間だった。自然と手が「次の言葉を聞きたくない!」と耳に吸い寄せられてたからな。


『羽付き…やるわよ!』


(ぁあ゛ァァ〜!!)


こうなった時の母の行動力は凄い。時々この人…俺の母さんかな?ってぐらいに凄い。今思うと福袋買いに行って羽付き買うってどんな買い物してんだよ!って思うわ。


『か、母さん…外寒いからコタツ入ったら?』

『そ、そうだぞ!満月みつき!一緒にビールでも飲まいないか!?』


もうこの時の俺と父さんのシンクロ率はとんでもないほど高かった。完璧に以心伝心してたわ。


『神楽…。子供が正月から寝るなんてだめよぉ。外で運動しないと』

『神楽!一緒に外でやるわよ!』

『それと…あなた…年末に何も出来なかったからせめてと思って今夜一緒に飲もうと買ったちょっといいお酒…私が全部貰うわよ…』

『……神楽……、お外…行こっか……』


(裏切ったな!父うえぇ!!)


あの時ほど父が恨めしいと思ったことは無い。こうなれば逆らえるはずもなく外に連れ出されるはめになった。


『しょうがないわねぇ…。神楽は私に勝てたらコタツでぬくぬくしていいわ』

『え!?ほんと!母さん!!』

『えぇ!ほんとよ!』


あの時の俺は純粋だった。母さんに勝てると本気で思ってたんだから。


『じゃあ、やりましょっか…最初は……神楽とお母さんでやる?』

『うん!やる!!』


結論から言おう…。ボロ負けだった。さすが月夜姉ちゃんの母だ。とてつもなく負けず嫌いな上に運動神経は我が家随一。それを惜しげも無く使ってきよる。


母がジャンプサーブした時はもう泣いたわ。年甲斐もなくギャンギャンとな。だってつまんねぇもん。サーブ権ないし、取れないし。


そのあとダブルスになって俺とお父さんVSお母さんと姉ちゃんになったんだが、もう人選が悪い。俺と父さんの顔は真っ黒になった。お母さんと姉ちゃんは大笑いして母さんはそれを写真に収めていた。


結局俺も悔しくって何回もやった。まぁ、今じゃあいい思い出だけどな。そこから恒例行事になったんだよなぁ。正月じゃない時にもやったわ。結構面白いんだよ、羽付き。


バトミントンにも似てるけど俺が思う1番違う点は落とさなきゃなんでもOKってことか。


だから羽子板で何回でも触ってもいいし。元々お遊びのつもりだったから本当になんでもあり。


「先輩!そっち!行きました!」

「おー、まかせぇい!」


俺は羽子板を上手く使い、羽を真上に上げて2回目で相手のコートに返す。


「ほらよ!陽!」

「お兄ちゃん!そっち!」

「陽菜!パスー!」


カコーン!


「楽しそうだねぇー」

「……うん。楽しそう…」


「「あ!」」


陽菜ちゃんが返した羽はネットに引っかかるが上手くそのまま俺たちのコートに落ちる。ネットインだ。


「「やったー!」」


ハイタッチする陽と陽菜ちゃん。なんだかんだあの二人仲良さそうだな。結果は2人の勝ちだ。


「今のは取れないですね…」

「あれは読めないわ」


「おつかれー」

「「月夜さん!」」


家から出てきた姉ちゃんはお盆に人数分の飲み物を持ってきていた。さっきプレーしていた4人は一斉に水分補給を行う。


「次、誰がやる?」

「私やりたい!」「……私も」


さっき休憩組だった2人がすぐに立候補した。まぁ、見ていたら楽しそうに見えるよな。よく分かる。2人はすぐにペアを組んだ。


「なら、私もやろっかなー」

「え゛?」


2人に続くように立候補したのはまさかの月夜姉ちゃんだ。


「なに?神楽は不満でもあるの?」

「いや、全く…」


ただ、心配なだけだ。この人に負けなんて言葉はない。手加減なんかするはずもないだろう。ただの殲滅戦にしかならない。そうなると……相手が可哀想だ……哀れ…北風と雨宮さん。


姉ちゃんのペアは雪乃ちゃんに決まった。


「あ、そうだ!神楽、せっかくだし墨でも用意して来てよ」

「あー、OK。水性ペンでいい?」

「一応、洗って落ちるタイプの墨もお願い」


ということで審判役は陽と陽菜ちゃんに任せて俺は家に帰り、罰ゲームを用意するか。


「神楽先輩!私も手伝いましょうか?」


と、おもっていたら陽菜ちゃんが手伝いを申し出てくれた。ちらっと陽の方を見ると俺の事に気づいてへらっと笑っていたから大丈夫だろ。


「なら、お願いしてもいいか?」

「はい!」


「お、おじゃましまーす」

「どうぞ…。ってもあんま広くないけどな」


陽の家の方がよっぽど広かった。そういえば……


「俺の家に家族以外の人が入ったのって久しぶりだな…………」


いつぶりだろう?少なくとも両親が死んでからは家族以外誰も入ってない気がする。それより前だと……思い出せないぐらい前だな……。陽とは遊ぶが、外しかほとんどないしな。


「そ、そうなんですか!それは光栄です!わぁ、先輩の匂いがします…。いい匂いですね…」

「そ、そうか。まぁ、俺の家だしな。早いとこ墨取って戻ろっか」

「はい!」


陽菜ちゃんは俺の家をキョロキョロと見ている。そんなに珍しい物も変な物もないと思うんだがな…。本当に必要なものだけを置いている。


えー…と、確かどこ置いたっけな?


それにしても北風達は可哀想だな。あの姉と戦うのだ。確実に負けるだろうな。


陽菜ちゃんにも一緒に探してもらって墨と筆そして水性のペンを持って再び外に出た。


そこで俺は衝撃的な出来事を目撃した。


「お、おかえりー。今、丁度試合が終わったぞー」

「そうか」


きっと北風と雨宮さんは今頃絶望の中にいるだろうな。圧倒的だったろうし。分かる。その気持ちはよくわかるぜ!


「北風&海咲ペアの勝ちだ」

「あぁ、知ってる………。って何だって?」


いま、陽はなんと言った?俺の耳がバグったのか?姉ちゃんが負けたっ意味あいの言葉を聞いた気がする。


「んぁ?だから北風&海咲ペアの勝ちだって……。ほれ」


陽が指さす先は羽付きのコート。そこにはハイタッチして喜ぶクラスメートと反対に姉が妹を宥めるようにしか見えない2人組がいた。


「あ、荒木くん!私たち勝ったよ!」

「…ぶい」


俺たちに気づいた北風と雨宮さんが誇らしげに自慢している姿が目に映る。


「……陽、雨宮さんって運動できたっけ?」

「いんや、平均以下だったぞ」

「だよな」


俺もそう記憶している。北風も平均よりはできるだろうがそれでもその程度だ。


雪乃ちゃんは平均と同じぐらいだった。少なくともドジっ子じゃないし、運動が出来ないわけでは決してない。


つまり……つまりだ………。


「神楽先輩どうしたんですか?顔色悪いですよ……」


陽菜ちゃんの心配する声が聞こえるがそれどころではない。俺の頭の中では高速の回転の末に出てくる答えが棄却されては提案されていく。だが、どれだけやろうと同じ答えしか出てこない。


バカな……。ありえない。そんなはずは……。


俺の手からはポロリと墨などの道具がこぼれ落ちる。

「わぁ!?せ、先輩!?本当に大丈夫ですか!?」


まさか……あの姉が手加減をしたというのか!!?!?


さすがの姉でも勝負に負けることぐらいはある。母さんには偶にしか勝ててなかったし、さすがにプロ相手では負ける。だが、手を抜くということはなかった。どれだけ相手が弱くてもだ。


「アハハ。負けちゃった!あ、神楽、墨持ってきてくれたのね」

「うぅ…。悔しい」


その瞬間俺の頭に雷撃が走った。


ば、馬鹿な!?あの姉が負けて笑っているだと!?ありえない…!!この正月羽付き大会では顔に墨で落書きされる度に拗ねていたあの姉が!?


つまりこれは……わざと手を抜いた…と!?その場を盛り上げるためだとしてそんなことがあるのか!?


「………陽…」

「ん?どした?」

「明日、世界が終わるかもしれん」

「……お前、マジでどうしたんだよ………」


北風は雪乃ちゃんに、雨宮さんは月夜姉ちゃんに落書きしていた。女の子同士ということもあり、落書きは可愛くキャラクターとかだった。


落書きを終えたあとも雪乃ちゃんと笑いあっていた姉には恐怖しか覚えなかった………。


まぁそうだよな……。こんな所で全力でやるなんて大人ないわな……。俺も楽しむとするか……。


「あ、神楽先ぱーい!次一緒にやりませんか?」

「おー、やるかー」


そこからは純粋に楽しむことが出来た。場も盛り上がっている。全員が罰ゲームをしていて既に顔は黒く染まっている。


そして……


「じゃ、そろそろ最後にしよっか!」

「そーだな…。時間も時間だし……」


既に太陽は真上を過ぎていて気づけば1時を超えていた。お腹も空いてきたころなので丁度いいだろう。


「お、なら最後に神楽ー、やろーぜー。地味に神楽と組んでないし」

「OK。ならやるか」


おれが陽と組まなかったのは純粋に運動神経の差を考慮したためだが、遊びだしいいかと思い俺は陽と組むことにした。


「じゃあ、真美ちゃん、私と組まない?」

「はい!喜んで!」


俺と陽の相手は月夜姉ちゃんと北風に決まった。最初の頃にあった緊張はどこにもなく今は全員が和気あいあいとしていた。


その中で最終ゲームが始まった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


羽付き…結構楽しいですよ。私もたまにします。ルールは基本自由です。ネットがなくても全然楽しいです。


正月やることがない人は是非!


ついでにお知らせです。私の最新作

「加護なし少年の魔王譚」が公開中です。タイトル通りのお話ですが、よろしくお願いします。


お星様を貰えたら嬉しいです…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る