第25話Side北風真美

今日は文化祭!!



私たちのクラスはメイド喫茶をやるんだけど、私はメイド。最初は乗り気じゃなかった。男子が私のことを変な目で見てくるから。


だけど、今ではそんなこと気にしなくなっていた。友達が作ってくれたメイド服着て、友達と一緒にメイドさんやって…。そういうことがとても楽しかった。だから、今日という日が最高になると確信していた!


最近は荒木くんとも挨拶をする関係にまで進展した。これを進展っていうのかは分からないけど。


でも、話をすることは出来ていない。私は荒木くんともっと話したい!って思ってるけど実際は思い通りにいかない。周りがそうさせてくれないっていうのもあるけど。


文化祭の1週間前の金曜日にたまたま学校に課題を忘れて取りに戻ったら、荒木くんが1人で看板を描いてた。邪魔しちゃいけないって思ったから話しかけなかったけど、1人で頑張ってる姿を見て感動した。


でも、誰かに「助けて」って協力を呼ぶことができないんだろうなとも思った。こういう状況なら普通は協力すると思うから。不器用な人なんだなぁて思った。それが悪いことじゃないけど、1人より2人の方が楽に決まってるし。


最初は手伝おうって思ったんだけど、それを言っても彼は拒否するだろう。それに私と2人だと彼が嫌な気分になるのは明白だ。だって彼は私のことが嫌いだから。そうなると彼の邪魔にしかならないから、手伝わなかった。


彼ってこういう行事は参加するのを嫌がりそうなんだけどな…。


でも、いつか彼ともう一度話すことが出来たら今日のことをからかってやろう。そして次からは誰かと手伝った方がいいよって教えてあげよう。



そんな日を夢見ると楽しくなってきた。その日はそんな日が来ることを願いながら帰った。


最近は荒木くんのことをよく考えてるなって思う。彼と挨拶するだけでも、楽しいと思える。やっぱり私は変なのかな?


自分が変わったって思うけど、原因を考えると荒木くんしかいない。でも、それに嫌悪感を覚えたりはしない。きっといい方向に変わっているのだろう。


そんなこと思っていると、文化祭が始まった。私は最初から働く。始まった時はメイド喫茶にたくさんの人が来た。この時点でメイド喫茶は成功かな…?って思えるぐらい来た。


始まってすぐに川野くんが来ているのを見つけた。だから、期待した。荒木くんはいつも川野くんといるイメージだからもしかすると来てくれるかもしれない!って。それならメイドとしてお世話出来るし、話すことも出来る!


指名制度なんかはなくて私たちが適当に店内を回るスタイルだから、彼が来たらすぐに行こうと思った。


でも、川野くんが出ていっても荒木くんが入ってくる様子はなかった。


ちょっと、いや大分期待していたから彼が来なかったのはショックだった。


それに加えて男性客からの嫌らしい目線を感じるのが嫌になる。ここが動物園にしか思えない。でも、みんなも頑張ってるし私1人が文句を言う訳にもいかないので、休憩まで頑張る!時々、歩香や同じメイドの友達と話すことが活力の源だ。


前までの私なら、1番人気は私だ!って張り切ってたかもしれないけど、今はそこまでそれが理由で頑張れない。これも荒木くんに変えられたからかな?理由はよく分からないけど。


そうして何とか休憩時間まで働いた。私は他のみんなよりちょっと休憩が早い。だからいつもの4人で回ろうと思っていたけど、歩香達が終わるまでは適当にぶらついてそこから合流しようと思っていた。


それが間違いだった。


1人で歩き回るなら荒木くんのやっている出店に行けば話せる!って思いついた時は思わず自分を褒めてやりたくなった。彼と話すのは楽しいから。


呑気に、でもちょっと早歩きで心を弾ませながら6組の出店に向かっている途中の出来事だった。


「久しぶりだなぁ、真美」


後ろからそんな声が聞こえた。それは、ここにいるはずがない人の、そして忘れることが出来ない人の声だった。


ゆっくりと振り返るやっぱりそこに居たのは


「オレのこと忘れたか?」


南高の高橋将吾くんだった。忘れるはずがない。彼は去年の夏に私に告白して、歩香たちに相談してお試しってことで付き合うことになった。「好き」ってどういう事なのか、「付き合う」ってどういう事なのかを知りたかったから。


今考えたらとても不誠実な考えだと思う。でも、当時はそんなこと考えてなかった。


南高ってこと以外何も知らなかったことをその後に後悔した。最初はデートとかして、割と普通のお付き合いだったと思う。そして、1週間ぐらいしたら彼のことを知った。高橋くんは不良の多い南高でもトップにいるような不良だった。喧嘩もとても強いって知った。


でも、私の前ではそんなに怖くなかった。だから大丈夫だ!と安心してしまった。それが過信だった。


彼は急に私のことを襲ってきたのだ。私の合意もなしに。その時は上手く逃げて警察を呼んで事なきを得た。


そうして彼と別れた。私は男が怖くなったけど歩香達のおかげで、割と直ぐに立ち直れた。高橋くんに恋愛感情がなかったというのも大きい。


そこからだろう。男は怖くなくなったけれど、猿にしか見えなくなったのは。私を見てくる目が高橋くんに似ているのもあったし、身体を見てくるような目が私を「道具」としか見てないようにも感じたから。


結局「好き」ってどういうことか今も分からない。


そんな思い出したくないけど、忘れることの出来ない過去を思い出した。


「な…何しに来たの…?高橋くん」


怖くて体が思うように動かない。


「覚えてくれていて何よりだぁ。あれからお前のことを結構探したよ。」


「な…何しに…来たの…?」


「それは後で教えてやるよぉ。ついてこい。別についてこなくてもいいぜぇ。その場合はお前たちのカフェで暴れてめちゃくちゃにしてやるからよぉ。」


「っっ!!!??それはやめて!!」


それは嫌だ!今日まで友達と一生懸命作って来たんだ!私だけじゃなくて皆であんなに楽しく作った思い出をこんな奴にぶち壊されたくない!


「なら、わかってるだろぉ?ついてこい。」


私は彼に従うままついて行った。


そうして連れていかれたのは体育館裏だった。周りは誰もいない。みんな体育館の劇に夢中になっているから。


「さて、あの時の続きをしようかぁ…。」


「っ!?それはやめて!なんでそんなことするのよ?!」


「うるせぇ!」


「ぁう!」


痛い!右頬を殴られたのかな?口の中に血の味がする。唇が切れたのかな?


「あの後からなぁ!俺は学校の笑いものだよぉ!女に逃げられた情けない野郎ってなぁ!認められねぇだろ!?俺が笑いものなんて!」


そんなことで…?


でも、これでは逃げることはできないし、助けを呼んでも来ないだろう。


因果応報かな。これも報いなのかな。


こんな時でも彼の顔が思い浮かぶ。あの時ナンパから助けてくれたように…、橋で泣いてた時のように…、もう一度助けて欲しい。


でも、それはいくらなんでも都合のよすぎる夢だよね…




「何してんだ?」


いるはずのない、でもずっと聞きたかった声が聞こえた。幻聴かもしれない。でも、いまはそれにさえすがりつきたかった。私は声のした方を振り向く。そこに居たのは


「…うぅ…荒木くん…!」


「呼んだか?北風」


髪を整えてヒーローのようなお面を被った私がずっと会いたかった人だった──





後書き

久しぶりの北風視点でした!


少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は★とレビューをください!


「クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える」

もよろしくお願いします!!!

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