第35話Side北風真美

 トイレで出来るだけ早く化粧を整えた私はすぐに非常階段にいる荒木くんの元に向かった。色んなことがあったせいであんまり時間が残ってないなぁ。まぁ、その分いいこともあったからいいんだけどね。


「行こっ♪」


 私は荒木くんに手を差し出した。よく考えて見たら最初の一回目以外で私から荒木くんに手を出したのは初めてだ。どうしよう!?もし、繋いでくれなかったら!と思ったけどあっさりと繋いでくれた。良かった…。


 ここから目的の店まではかなり遠いけどそこまでの道はいつもと違い、ちょっとした会話しか無かったけどとても楽しかった。好きな人と一緒にいるってだけでとても楽しい。


 服屋さんに着いたら手は離してしまった。ちょっと残念だけど、荒木くんが隣にいてくれるってことだけで嬉しい♪


 彼氏の服を一緒に買いに行くって結構楽しみだったんだよね〜。私好みに変えることが出来るから。


 あ!コレなんかいいかも!コレとコレを組み合わせて見るといい感じかな〜。…コッチも捨てがたい…。荒木くんって結構イケメンだから何着ても似合いそうな気がするな〜。


 とりあえず試着してもらおう!実際に着てみないと分からないし。


 ということで荒木くんに似合いそうな服を選んだら順番にしちやくしてもらった。


 う〜ん。どれも似合ってるなぁ。荒木くんはワンセット選んでくれればいいって言ってたからここから一つだけ選ばなくちゃならないのか…。


「荒木くんは自分でどれがいいと思う?」


「あ〜、1番最初かな?着心地が1番良かった。」


 ……理由はともかく私が1番好みなのは1番最初の服で同じなんだよねぇ。ただそれは私の好みなんだけど…。


 荒木くんは着飾るよりもシンプルな感じが一番似合ってる。それにこの服なら私も似たような色持ってくるかも…。


 ペアルックはいつかしてみたいけど今は恥ずかしい!でも色だけでも一緒だったら充分嬉しい!うん!これにしよう!


「私もそれがいいと思う。荒木くんに似合ってる。」


「そうか。ならこれにするわ。」


 次は私の番だ!荒木くんは清楚な人が好きって言ってたから服もその感じのものを何着か着てみよう!その中で荒木くんが1番好きなものを選んでもらうのがいいだろう。そしたらそれは荒木くんの好みになるかもしれないし。今度荒木くんと遊ぶ時は絶対にそれを着よう。


 そんなことを考えながら私は店内を荒木くんと回ってこれから着る服を選びながら考えていた。


 でも清楚な服ってどんな感じなんだろう…?今までそういう服を買ってこなかったからどういうものが私に似合うのか分からない。もう少し勉強していれば良かったなぁ。


 とりあえず今の私に似合いそうなものをいくつか選んで試着して荒木くんの反応が1番良かったものを買おう!


 私は店内を荒木くんと回った。…荒木くんが少し退屈そうにしていたので1着だけ私の服を選んでもらったけど私には似合いそうになかった……。


 そのまま二人で試着室まで向かった。運が良く一つだけ空いていた。まぁ、仮に待ったとしてもその時間でもきっと楽しいものになるんだろうけど♪


「…一応言っとくけど覗いたりしたらダメだよ?」


「覗かねぇよ!そんなことしたら犯罪じゃねぇか!」


 む、ムゥ…。確かにその通りなんだけど…。そんなに強く否定されたら私に魅力ないのかな?って考えちゃう…。ちょっとぐらい覗かれても荒木くんならOKなんだけど…。でもそんなこと言ったら私が痴女みたいだから言わないでおこう。


 よし!一番最初はこれにしよう!私が自分の中では最も清楚っぽくて似合いそうな服!これで少しは注目してもらえるかな?


「これはどう?」


 荒木くんの前に出てくるっと一回転して荒木くんの前に立つ。…手を繋いだ時に横から見ても思ってたけど荒木くんって結構身長高いなぁ。私も女子の中では高い方なので荒木くんは男の子だと思い知らされる。


「似合ってると思うぞ。」


「…それだけ?他に感想とか…ない?」


「ん〜。まぁ、どんな状況でその服を着るのか知らないが結構危険があるんだなってことはわかるな。その服を買うなら部屋着にしとけよ?外で来たら事故が起こる。」


 1番自信があっただけに少しショックだった…。というか感想もよく分からない……。一応いちばん清楚っぽい服を選んだつもりなんだけどなぁ。


 よし!こうなったら残りの服で何とか荒木くんに私が可愛いって荒木くんに思わせてやる!


 そんな気合いを入れて次の服に着替えるが…


「似合ってると思うぞ。」


 ムゥ!全く同じ感想!!もう少し具体的な意見が欲しいけど多分荒木くんにこれを聞いても期待できる回答じゃないだろう…。


 私はもう一度試着室に戻って次に着る服を選んで試着する。今度こそ!


「荒木くん!これど─……ってあれ?」


 カーテンを開けた先に荒木くんはいなかった。さっきまではそこにいたのに…。ちょっと周りを探したらすぐに見つかった!


 何してるんだろう?


「おーい!あら─!?!?」


 名前を呼ぼうとしたら荒木くんの目の前に2人組の女の子が見えた!ちょっとギャルっぽい今どきのJKって感じ。


 もしかして…これは逆ナン?あんなに荒木くんは私の事注意してたのに!


「はい!それでもしよかっ……」


 私は気づいたら荒木くんの腕にしがみついていた。


「うぉっ!どうした?」


「…出たら荒木くんがいなかったから…。」


 心配した…そう言おうと思ったけどやめた。少し不機嫌なまま目の前の女子を見据える。まるで「この人は渡さない」って言ってるみたいに。


「それは悪かった。だから腕、離してくれない?」


 腕だけは離したくない。離したらその人とどこか行ってしまうかもしれないから。別に行く行かないは荒木くんの自由でただの友達である私がそれを止めることは出来ないけど……、今日だけは荒木くんの彼女なんだ。


 ちょっとぐらい…わがままを言いたい。このまま私とデートして欲しい、私だけを見ていて欲しい。まだ…この関係のままでいたい。だから今はどこにも行かないで欲しい…。


「それで?何してたの?」


「いや、何もしてないからな。本当に」


「あっ。それじゃあ私達は行きますね。本当にありがとうございました。」


 そのまま2人組はどこかへ行ってしまった。それでもまだ離したくない。少しだけこのままでいたい。荒木くんの腕は固くて男らしい。だからかな?少し落ち着く…。


「はい。お気をつけて。」


「…さっきの人達は?」


「ハンカチ落としたから拾っただけだ。それでちょっと話しただけ。」


「そう。逆ナンされてるんだと思った。」


 本当に思った。あのシーンだけを見たらそうとしか見えない。多分私じゃなくてもそう見えたと思う。


「違うからな。」


「…でも、さっきの人との会話ちょっと楽しそうだったじゃん。」


 さっきまで荒木くんは笑顔で会話をしていた。もちろんそれが愛想笑いとかそういうことなんだろうってことはわかってるけど……。


「ヤキモチか?」


「なっ!?で、でもデート中に他の女の人を見る荒木くんが悪いよ。」


 本当に荒木くんのせいだ!本人に自覚がないことが恨めしい!鈍感!ちょっとは気づいて欲しい!こんなにアピールしてるつもり…なのに。


「それは悪かったな。」


「ムゥ。それよりこの服どう?」


「似合ってると思う。」


 結果はさっきと同じ感想だった。はぁ。どんな服がいいのかなぁ。分からなくなってきた。


「…ああいう人が好みなの?」


 さっきのギャルっぽい服ならまぁまぁある。あれならもっと上手く気飾れそうな気がするけど…。


「いや…、別に普通だけど。」


「…そうなんだ。」


 本当に荒木くんはどんなものが好みなんだろう…。清楚っぽくものを選んでいるけど反応もイマイチだし…。


 私は荒木くんの腕から手を離して試着室に戻った。


やっちゃった…。絶対に重いとか思われた…。めんどくさい奴とか思われた…よね?


 はぁ。しかも次の服が最後だなぁ。これはただ荒木くんと色を揃えたいという理由だけで選んだ白色の服…。どうしようか?次の服装を考えていたら外から声が聞こえてきた。


「北風、それが終わったらパフェでも食べに行くか?ここに来るまでにあったパフェ屋さん見てただろ?それともアクセサリー売ってた店でも行くか?あ、ぬいぐるみ売ってた店も見てたな。」


「う…。なんで知ってるの?」


 友達からきいてオススメだった店は荒木くんと歩きながらちょっと見ていた。でも基本は荒木くんと手を繋いで話すことに集中していたはずなのに。


「それ以外にも知ってるぜ〜。例えばちょっと怖そうな人が前にいたら俺の手を少し強く握って俺の方によってくるし。チラッチラッとカミラの方を結構見てたよな?」


「うぅ…。ちょっと恥ずかしいよ。」


 なんか自分の癖を暴露されてる見たいてま恥ずかしい。それにしても一つだけ納得した。私がちょっと強く握っても強めに握り返してくれたのは私のことをわかっていたからなんだ…。優しい…。


「な?よく見てるだろ。ちゃんとデート中は北風のこと見てたぞ。さっきの人は本当になんでもないからな。そもそも逆ナンされるわけもないしされても今日は北風が俺の彼女だしなー。」


 ずっと見ていてくれていたんだ…。そういえば荒木くんは今日ずっと携帯も触ってなかった。少なくとも私の前では…。…それに私のこと本当に彼女としてみてくれているんだ。それは…嬉しい。


「荒木くん…その…ありがとう…。それとさっきはごめん。」


「どういたしまして。それとまぁ、俺もごめん。北風に一言言っておけば良かったな。」


 私はポケットから文化祭で荒木くんから貰ったハンカチを取り出して胸の辺りに抱える。


「……かーくん、大好き」


 絶対に荒木くんには聞こえないように小さな声でボソッと呟いた。それから1度深呼吸をしたらカーテンを開けて荒木くんの前に出た。


「ねぇ、この服どう?」


「似合ってると思う。」


「さっきと同じ答えじゃん!」


 だけどさっきとは違いあまり嫌な気持ちになることは無かった。むしろちゃんと見てくれていることがわかったので嬉しい。


「んー、荒木くんはどれが1番似合ってると思う?」


「どれも似合ってるー」


「それはダメ!」


 さすがに4着を買うお金はない!それにせっかくだから優劣をつけて欲しい。


「ん〜じゃあ最後のやつかな?俺の中で北風は白ってイメージがあるからにあってた。まぁ、単に俺が白が好きなだけって理由もあるけど。」


「えっ!?」


 それって……私のこと…好きってこと!?いや、荒木くんのことだからそれは無いかなぁ。


「ほら、白ってなんか純粋ぽいっていうか強さを感じるからな。」


ってことは私はそう見えるってことかな?それは嬉しいな…。


 私は荒木くんに背中を見せて顔を絶対に見せないようにする。今の私はちょっと顔が赤くなってる気がする。


 冗談でも荒木くんに好きって言われたら嬉しい!


「ふむふむ。じゃあ、これ買うね!」


心が落ち着いたらゆっくり振り向いた。


「い、いや待てよ、北風!俺の服のセンス知ってるだろ?ならその服はやめといた方がいいんじゃない??」


「えっ?でも、この服が荒木くんは好みなんだよね?」


「い、いや、まぁたしかにそうちゃそうだけど!俺の感覚が全男子の感覚と同じとは思わない方がいいぞ。むしろ離れてるから!」


「なら、問題ないや!」


 元々荒木くんの好みの服を買うことは決定事項だったし。


既に時刻は6時。もう外は暗くなっていた。


 …どうしようか?このままだと家に送ってもらって終わりそう…。出来ればもう少しだけ一緒に居たい。まだ…今日を終わらせたくない。


 そうだ!家で一緒にご飯を食べるのはどうだろう!荒木くんのお願いは肉じゃがの作り方を教えてだったからこの理由なら行ける!なら早速お母さんにメールしないと!


「北風、そろそろ帰らないか?」


「あー、ホントだ。もう時間だね。そろそろ帰ろっか。ねぇ、荒木くんさえ良ければ今から私の家に来ない?」


「いや、何でだよ。まだ貸してもらった料理本だってマスターしてないのに。」


「そうかもしれないけどさ。ほ、ほら!肉じゃが今日作ろうと思ってたからついでにその作り方を教えることができたらな…と。」


 これで無理ならちょっとずるい方法で行こう。


「ごめん北風ちょっと待って。」


 ?珍しく荒木くんが携帯を見ていた。どうやら誰かからメールが来たみたい。誰だろう?川野くんかな?誰かからの食事の誘いだったらどうしよう!?


「ほ、ほら!今日いろいろしてもらったからさ!お互いのお願いを叶えてチャラにしようよ!」


「いや、俺的にはもう既にチャラになってるから大丈夫だ。」


「う…!今日は1日私の彼氏でしょ!ちょ、ちょっとぐらい彼女のお願いを叶えてもいいじゃん!!」


 彼女のお願いという最終手段を使うことにした。ちょっとずるいけどこれなら行けるはずだ!


「付き合っているのは設定だろ?」


 それを今言っちゃうのか…。設定だって忘れてたのに!


「ムゥ。じゃあ荒木くんは帰ったら何作るの?」


「か、カレー作るつもりだ。」


「カレーって結構時間かかるよ?しかも荒木くんが作るなら今日食べれるか分からないよ?それにカレー作れるなら肉じゃがは作れるはずなんだけど?」


「………分かった。ギブアップだ。」


 良かった…。荒木くんがあんまり料理に詳しくなくて…。


「やった!具材は家にあるからこのまま帰ろっか!」


「はぁい。」


 よし!これでまだ私が荒木くんの彼女でいられる時間が長くなった!

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