第34話
陽菜ちゃんとの会話を終えた俺は北風が化粧をなおすまで待っていることにした。
すると割と早く北風は出てきた。目はまだ少し赤いけどな。
「行こっ♪」
北風は俺に手を差し出して来た。俺はゆっくりその手をとり、立ち上がった。
「そうだな。」
この後俺たちは本来の目的である服屋さんに行った。俺は着せ替え人形状態だった。しんどいが、俺の服なので我慢するしかない。しかし俺が何より苦痛というか苦労したのはその次だ。
北風が自分の服を選んでいた。時間がかなりかかったがこれはいい。問題はこの次だ。試着室に行った北風はどんどん着替えて「これはどう?」「これは?」と聞いてくる。
そんな中で事件?が起こった。「この服は?」と聞かれたので、「にあってる。」って返したら北風は少し悩んでからまた別の服に着替え出した。
その間に俺は何もせずにただぼーっとしてた。すると俺たちと同じように隣で試着してた2人組の女子が俺を通り過ぎようとした時にハンカチを落としたのだ。しかし、相手はそれに気づいてなかった。それを確認した俺はすぐにハンカチを持って…、
「あの…これ落としましたよ。」
すぐにその女性に届けたのだ。
「あ!ありがとうごいます!これ、母から貰った大事なハンカチで…。」
あぁ、わかるわかる。確かに誰かから貰ったものって大事に思うよな。それが親しい人なら親しいほど。俺も父さんから貰ったキーホルダーとか未だに大事に閉まってるわ。
「分かりますよ、その気持ち。お母さんを大事にしてあげてください。次は落とさないように気をつけてくださいね?」
「はい!それでもしよかっ……」
なんてちょっとゆっくり話してたら…、
「うぉっ!どうした?」
北風がいつの間にか横に来ていて俺の腕を引っ張ってきた。しかもちょっと怒っているのか頬が膨らんでるだけでなく顔が険しい。いや、本当にどうしたんだよ。服の判定ぐらいもう少しゆっくりでもいいだろう。
「…出たら荒木くんがいなかったから…。」
どうやら心配になったらしい。俺がいないから何かあったのでは?と。そんなことあるわけないのに。子供か!
それより腕を離して欲しい。北風さん強く腕を握りすぎじゃない?ちょっと痛いんだけど。あ、また強くなった。痛い痛い!
「それは悪かった。だから腕、離してくれない?」
「それで?何してたの?」
oh...。なんか北風さんが怖い気がするのは気のせいか?それに腕も話して貰えないんだけど。
「いや、何もしてないからな。本当に」
「あっ。それじゃあ私達は行きますね。本当にありがとうございました。」
「はい。お気をつけて。」
2人組の女子はそのままレジの方へ向かっていった。しかし何故か北風から腕は解放されずむしろさらに強く握りしめられている。だから痛い痛い!
「…さっきの人達は?」
「ハンカチ落としたから拾っただけだ。それでちょっと話しただけ。」
「そう。逆ナンされてるんだと思った。」
逆ナン?女子が男子にナンパするやつか。聞いたことあるけど実際に現場は見た事ない。
「違うからな。」
「…でも、さっきの人との会話ちょっと楽しそうだったじゃん。」
なんか…北風怒ってるのか?少し刺々しい感じがするんだけど。
「ヤキモチか?」
「なっ!?で、でもデート中に他の女の人を見る荒木くんが悪いよ!」
当たったみたいだが原因は俺である上に悪いのは俺みたいだ。確かにこの場合そうなる…のか?
「それは悪かったな。」
「ムゥ。それよりこの服どう?」
「似合ってると思う。」
無難な回答をしたつもりだがどうやら北風はさらに不満になってしまった。どうするのが今のは正しかったのか教えて欲しい。
「…ああいう人が好みなの?」
ああいう人…。さっきの2人組のことだよな?
「いや…、別に普通だけど。」
「…そうなんだ。」
北風はそのまま試着室に戻ってしまった。えぇ?この後どうしたらいいのだろうか。陽に相談しようかとも思ったが次の試着までに間に合いそうにないな。
「北風、それが終わったらパフェでも食べに行くか?ここに来るまでにあったパフェ屋さん見てただろ?それともアクセサリー売ってた店でも行くか?あ、ぬいぐるみ売ってた店も見てたな。」
北風はカミラをチラッチラッと見てからほかの店を見ていたんだが、この3店は特に注意深く見ていたことに俺は気がついていた。
「う…。なんで知ってるの?」
北風が着替えを終えて試着室から出てきた。少し機嫌が治ってるように見える。あと一押し!
「それ以外にも知ってるぜ〜。例えばちょっと怖そうな人が前にいたら俺の手を少し強く握って俺の方によってくるし。チラッチラッとカミラの方を結構見てたよな?」
「うぅ…。ちょっと恥ずかしいよ。」
まぁ、確かにそうかもな。自分の行動を他人から言われるのは少し恥ずかしい気がする。
「な?よく見てるだろ。ちゃんとデート中は北風のこと見てたぞ。さっきの人は本当になんでもないからな。そもそも逆ナンされるわけもないしされても今日は北風が俺の彼女だしなー。」
北風は恥ずかしくなったのか、シャッ!っと試着室の中に戻ってしまった。
しまった。さっきのはやりすぎたか。まぁ、少しは機嫌が治ったと信じようかな。
「荒木くん…その…ありがとう…。それとさっきはごめん。」
試着室の中から北風のそんな声がはっきりと聞こえた。
「どういたしまして。それとまぁ、俺もごめん。北風に一言言っておけば良かったな。」
確かに北風はナンパに怖がっていた。もし試着室を開けてすぐにナンパが来たらどうしよう?と不安になることもあるかもしれないな。
そんな事態になったら男は匂いでつられてるのかもしれないが。そうなったら本物のナンパホイホイか?
「ねぇ、この服どう?」
「似合ってると思う。」
「さっきと同じ答えじゃん!」
そして何より苦労したのはこのあとの「どれが1番似合ってると思う?」の質問の答えだ。「どれも似合ってるー」って言ったら「それはダメ!」って返された。
いや、本当にどれも似合ってるんだけど。俺は服のセンスが壊滅的だ。だから、北風の質問に答えて北風がそれを買うとその服は間違いだったってことになる気がして怖いんだよな。
まぁ、北風が選んだ服の中でどれが1番似合ってるのかを俺が決めるからそこまで大きなハズレを選ぶことはないと思うけど。それに俺が選んだやつを北風が買わなければいい話だ。って思って俺が1番好みな服を選んだ。すると北風は…
「ふむふむ。じゃあ、これ買うね!」
とマジで俺が選んだやつを買いに行ってしまった。
「い、いや待てよ、北風!俺の服のセンス知ってるだろ?ならその服はやめといた方がいいんじゃない??」
「えっ?でも、この服が荒木くんは好みなんだよね?」
「い、いや、まぁたしかにそうちゃそうだけど!俺の感覚が全男子の感覚と同じとは思わない方がいいぞ。むしろ離れてるから!」
「なら、問題ないや!」
問題しかねぇよ。北風は本当にその服を買ってしまった。どうするか。今度その服を着て北風がどこかへ出かけたら。北風が少しバカにされないか心配だ。
部屋着にしてもらうようにしよう。そうしよう。それなら雪乃ちゃんと北風の家族だけで抑えることが出来る。
俺も北風が選んだ服を買った。結局部屋着なんか誰かに見せる機会ないから変えなくていいかなって思ったので冬用の外行きの服を買った。
これでこの服と合わせて2着あることになる。それなら回せるだろう。そもそも誰かと遊びに行くなんてことが珍しいからこの服を着る機会があるのかは定かではないが。
俺が北風の荷物も持つことになって両手が塞がった。一応カミラも俺が持ってる。北風が今日が終わったらカミラは荒木くんに会えなくなるからだって。俺はどの立ち位置なんだ?
既に時刻は6時。もう外は暗くなっていた。
「北風、そろそろ帰らないか?」
「あー、ホントだ。もう時間だね。そろそろ帰ろっか。」
北風を家に送ってから帰ったら俺が家に着くのは結構遅いだろうな。今日はカップラーメンでも食べるか。
「ねぇ、荒木くんさえ良ければ今から私の家に来ない?」
マジで言ってるのかな?
「いや、何でだよ。まだ貸してもらった料理本だってマスターしてないのに。」
「そうかもしれないけどさ。ほ、ほら!肉じゃが今日作ろうと思ってたからついでにその作り方を教えることができたらな…と。」
あぁ、俺の願い事覚えてたのか。負けたんだから別に叶えなくてもいいんだけどな。ただな?あれは肉じゃがの作り方乗ってる料理本貸してくれないってことだったんだよ。
それにしても北風は忘れたのかな?俺は北風家に行って結構精神削られたんだけど?
どうする!?確かに俺は姉ちゃんに肉じゃがでも作ろっかな〜?って考えていたが!!
うん?
「ごめん北風ちょっと待って。」
メールが来た。誰だろう?って思ったら雪乃ちゃんだった。
ノータイトル。本文は『荒木先輩今から私達の家に来るそうですね。歓迎します。どんな事があったのかお姉ちゃんだけでなく荒木先輩からも聞きたいんで待ってます。ついでに勉強でも少し教えてください。来る時はブラックコーヒー2本買ってきてください。お金は後でお支払いしますので。では家で待っています。P.S.お母さんも楽しみに待っているそうです。』
断りずっら!!今更行きませんとは言えないじゃないか!っていうか雪乃ちゃんなんで今の状況知ってんの!?北風から既にメールが来たのか??俺まだ行くなんて言ってなかったと思うんだけど!?
しかもお母さんまでいるのかよ!?冗談だろ??楽しみに待ってる訳ないだろ??それ絶対俺に文句言うためだよ。どうしようか。
「ほ、ほら!今日いろいろしてもらったからさ!お互いのお願いを叶えてチャラにしようよ!」
「いや、俺的にはもう既にチャラになってるから大丈夫だ。」
「う…!今日は1日私の彼氏でしょ!ちょ、ちょっとぐらい彼女のお願いを叶えてもいいじゃん!!」
十分に叶えてあげてると思うんだけど?そもそも北風が映画に行こうって言わなかったらこんな設定なんかなかったからな??
「付き合っているのは設定だろ?」
「ムゥ。じゃあ荒木くんは帰ったら何作るの?」
マジか。カップラーメンなんて言ったら北風の思うツボだ。
「か、カレー作るつもりだ。」
本当は作るかわからんけど。というか作れるかわからん。多分カップうどんのカレーうどん作るな。
「カレーって結構時間かかるよ?しかも荒木くんが作るなら今日食べれるか分からないよ?それにカレー作れるなら肉じゃがは作れるはずなんだけど?」
五分で作れるんだよなぁ。お湯入れて待つだけだから。しかもまさかの凡ミス。確かにCMでも肉じゃがからカレーを作るやつがあったな。そんな罠にかかるなんて!
「………分かった。ギブアップだ。」
はぁ。わかってた。こうなる未来が見えてたんだよ。そもそも北風が家族にそういう話をした時点で俺がどんなに言おうと俺がYESって言うまで諦めなかっただろうし。別に北風の料理は美味しいから文句ない。ただまた色んなことがあるんだろうなぁと思ったらちょっとしんどいだけである。
「やった!具材は家にあるからこのまま帰ろっか!」
「はぁい。」
帰り道の自販機でブラックコーヒー買っていこうと思った。
後書き
昨日の投稿をミスしてしまったことを謝罪します。今後はこのようなことがないように致します。
既に33話は改稿致しました。まだ見ていないという人は見ていただけたら幸いです。今後もよろしくお願いします!
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