第12話

日曜日─

陽と約束したため、早めに家を出て、モールへ向かった。服装は、黒いパーカーに黒のジャージだ。陽と会うだけなんだから、気負う必要は無い。


いつも陽と会う時、あいつは30分ぐらい遅れてくる。1度も予定時間より早く来たことがない。毎回予定時間に来いと言っているのだが、


「いいんだよ!海咲とのデートの時は待ち合わせより早く来てるから!男同士なら遅れてもいいんだよ!」


と毎回言われた。それでもおれは、約束の10分前にはちゃんと集合場所にいるようにしている。理由は特にないが、こういうのはきちんとしておかないと、いつかボロが出てしまうからだ。


今日も10分前には目的の場所にいた。予想通り、陽はまだ来ていない。いつもは毎回ここで、携帯で英単語を見ているのだが…


「うえぇ〜ーん!!ママァー!!」


幼い男の子が、泣いていた。5歳ぐらいだろうか?


周りの大人は見て見ぬふりだ。はぁ、仕方ない。そう思って俺は陽に

[遅れる]

と一言だけメールして泣いている男の子の元に駆け寄った。


「どうしたー?少年。」

目線を下げて少年に合わせる。


「うっ、うっ、おに…いちゃん、誰?」

「うん、お兄さんかい?お兄さんはね、神楽って言うんだ♪」

「ヒックっ、うぅ、神楽お兄ちゃん?」

「そうだよ。君の名前は?」


「…し、知らない人に…名前言っちゃいけ…ないって教えれた。」

「…」

最近の教育はしっかりしている。おれがこれぐらいの年齢ならこんなにしっかりしていなかったと思う。最近どこかで聞いたな、このセリフ。


「うーん、でもお兄さんの名前教えたろ?だからほら、知らない人じゃないだろ?それに少年のお母さん、一緒に探してあげるからさ!」

気に食わないが、少年の返しで北風との会話を思い出したので、それを使うことにした。気に食わないが…


「本当に!?僕の名前は"つばさ"だよ!」

「そうか!つばさくんか!お母さんとどこではぐれたか覚えてる?」

「わかんない。いつの間…にか、いなく…なっちゃってて…うぅ…」

また、泣き出しそうになっていた。


「大丈夫だよ!つばさくん!神楽お兄さんが絶対に見つけるから!」

まぁ、こういうパターンはだいたい迷子センターに行くのが正解だろう。母親も探しているのならそっちに行くと思うし。


「よし、つばさくん!神楽お兄さんに着いてきて!」


そう言って迷子センターに向かった。


迷子センターに着くとこちらに気づいたカウンターで、何かをお願いしていた女性がいて、不意にこちらを向き、涙ぐみながら走ってきた。


「翼!」

「ママァ!」

「良かったぁ、良かったぁ」

やはりつばさくんのお母さんだった。俺に気づいた翼くんのお母さんが、俺に「本当にありがとうございました…ずっと探してて…」そう言って俺に礼をしてきたが、


「いえいえ、お気になさらず。ただのお節介ですし。」

そう言って適当に受け流し、

「つばさくん、もうはぐれたらダメだぞ?あと、知らない人には名前、言っちゃダメだぞ?」

それだけ言って立ち去ろうとすると、後ろから

「うん、ありがとう!お兄ちゃん!」「本当にありがとうございました!」

という声が聞こえてきたので振り返り、手だけ振って陽との待ち合わせ場所まで急いだ。


今は1時40分既に40分のオーバーだ。どういう言い訳をしようか…などと考えてるうちに待ち合わせ場所まで戻ったが、用の姿は見えなかった。


遅いな…そう思っていると、後ろから背中をつつかれた。きっと陽が俺にくだらないイタズラをしようとしているのだろう…


そう思った俺は、警戒しながら後ろを振り返った。

「なんだ、陽来てたのか。悪いな…遅れち……まっ………て………………」

そこにいたのは

「遅いよ♪荒木くん!結構待ったんだからね!」


なんと私服姿の北風だった。

白のブラウスにブルーのデニムを来て、肩に小さかバッグをかけている。


だが、おれがそんなことよりも驚いたのが




「…き…北風だよ…な?そ、その髪型…どうしたんだ?」

そう髪型である。修学旅行までは、長い茶髪がウェーブになっていたのに、今はストレートである。


「…むっ!そうだよ!失礼な。北風真美です!髪型変えたぐらいで、見分けがつかないの?それともあんまり似合ってなかった?」


「あ…いや、悪い。めちゃくちゃ似合ってると思う…」

本当に…そう思う。前の髪型でも可愛いと思っていたけれど、俺的には今の髪型の方が好みだ…。こんなこと言えないがな…


「そっか…。それは嬉しいな。ありがと♪」


「ぁっ、どう…いたし…まして…?



ってそうじゃない!!どうして北風がここにいるんだ!?」

ここで俺の思考が勢いを取り戻した!

「あれ?川野くんからきいてないの…?」


「なんのことだ?」




「前、助けてもらったお礼をしたいってこと。」


全く聞いてないな…。あいつ、俺に隠してやがったな…

陽のことだ。この状態のことを昨日の夜から見据えていたのだろう…。だとすると、多分…あいつは…


『もしもし〜?どうしたのぉ?神楽くーん?』

やっぱりな。ワンコールで電話に出た。きっと俺が電話することを見越して、携帯の前で待ち構えていたのだろう。策士だな…


「お前、こうなることをわかった上で何も言わなかっただろう?」

『なんのことかなぁー?僕さっぱり分からなーい?』

めちゃくちゃ腹が立つがここは我慢だ!

「とぼけるな…!冗談なら後でいくらでも付き合ってやる!だから、事情を俺に説明しろ!」


『はぁ…わかったよ。2日前に海咲から連絡があった。「ファミレスに来て欲しい」ってな。そこに行くと、北風さんと海咲がいた。北風さんから詳しい事情は聞いていないが、お前に助けられたからお礼がしたい。だけど連絡先も何も知らないからお前と会える機会を作って欲しいって言われた。そこで今回の計画を思いついたってことさ!』


全く陽も陽なら、北風も北風だ。どうやったかは、知らないが俺の交友関係を知ったのだろう。そして俺の唯一の友達である陽を知り、その彼女で北風と同じクラスである雨宮さんに頼んだってことか…

しかし…


「お前、知っているだろう?俺がお礼なんかされても嬉しくないこと。そんなんならお前から俺に渡してくれればいいだろう?それにおれは…」

北風が苦手なんだ…とは、目の前に本人がいるので言えるはずなく、その先は言わなかった。だが、ようには伝わったようだ。


『言ったさ。あいつはお礼なんか求めてないって。お礼なら俺があいつに渡すからって。それでも彼女は私が直接渡したいって言うから、さりげなくあいつに渡しても喜ばれないぞって言ったよ。それでもいいからって、頭下げて来たんだぜ!?そりゃあ、男として、お前の親友としてこれは叶えてやらなきゃって思ったわけだ。』


はぁ…こいつを責めるに責めれない。それに北風に責任を求めるのはなんか違う。今回は、俺が撒いた種が原因だからな。


「わかった。ありがとよ。ただ、罰として代休開けたら1回昼食丸々奢りな。」

そう言って電話を切った。『えっ…あっ、ちょ、待っ』なんて声が聞こえたが無視だ。


北風がこっちを不思議そうに見ていたので、

「だいたいわかった。話がしたいんだろう…?ここで話すのもなんだから、近くの喫茶店でも行くか。」


そう言って、俺たちは喫茶店に向かった─

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