第5話

「……もしかして……かーくんさんですか?」


えっ?……だれそれ?もしかして北風の彼氏か?


「えっと、俺は荒木神楽って言うんだけど、その…かーくんって誰?もしかして北か……お姉ちゃんの彼氏の名前?」


「荒木…神楽…ですか。荒木先輩ですね。……すみません。私の勘違いでした。先程の私の発言は忘れてください。」


「えっ?」


いや、忘れるなんて出来ないだろ!そんな簡単に人の脳はできていないんだよ!


…なんかモヤモヤする。


「おまたせー…ってあれ?雪乃?帰ってきたんだ。おかえり。」


「ただいま、お姉ちゃん。」


なるほど。北風の妹は北風雪乃って言うんだな。ってそんなことしてる場合じゃなくて!


「…き…北風…」


「「はい」」


「あ、ごめん姉の方」


「どうしたの、荒木くん?」


「別に俺は知ったところで噂にしようとか誰かに教えようとか思ってない。だから、正直に答えて欲しいんだ。」


「う、うん。」


「本当に彼氏はいなんだな?」


「い、いないよ!どうしたの!?」


「なら、かーくんって誰だ?」


「うぐっ!それは……」


動揺しているように見えた。視線が俺と合っていない。やはり、これは…


「な…内緒ね?実は…」


やばい。心臓の音が早くなっている気がする。なんでだろ?


「………歩香の彼氏なの。」


木村さんの彼氏……か。なんだろ?急にさっきのモヤモヤが消えて、スッキリしている。それに何故か安心した。何に安心したのだろうか?


「…そ、そうなのか。悪い。変に疑って。」


「別に気にしないで!あ、雪乃、今日荒木くんと晩御飯一緒に食べる予定なんだけどいい?」


「私は別に気にしない。荒木先輩なら多分、大丈夫だと思うし。」


見ただけで俺が人畜無害だとわかるのか。まぁ、今の俺の姿は普通の陰キャだからな!単にヘタレって言われてるのかもしれないけど…。そんなことは気にしない!


北風にそのまま玄関まで案内された。後ろでは北風と雪乃ちゃんが会話しているようだった。何を話しているのかは聞き取れないけど。


「お…お邪魔します…。」


今になって気づいた。俺、友達?の家に入るの初めてだ。しかも異性の家に。もちろん、変な気を起こすことは無い。今日は晩ご飯を頂いて、料理本を貸してもらったら帰るだけだ。


少し緊張するな…。未知の世界に入ったようだ。


そのままリビングまで案内された。きちんと整理されていて、生活感と清潔感がある。あまり余計なものは置いていないようだ。


「そ、それじゃあ、私ちょっと着替えてくるね?」


「私も荷物を置きに行きます。」


「そこのソファーでゆっくりしてて。すぐに戻ってくるから!」


そのまま2人ともリビングから出て行ってしまった。俺はソファーに座ったまま周りを見渡していた。


何していいかわからん。初めて他の人の家に来たもんだから何をしたらいいのかさっぱりわからん。とりあえず何もさわらず、何もしないでおこう。万が一問題を起こしたらシャレにならんからな。


初めて入った家は未開拓地のように思える。さながらここはダンジョンだな。そうすると俺は迷い込んだ冒険者か…。


なんて言う馬鹿なことを永遠と考えていると…


「おまたせー。」


着替えてきた北風と雪乃ちゃんが戻ってきてくれた。良かった。いつも1人なんて余裕なのに、今だけは耐えることが出来なかった。


そして、着替えた北風姉妹を見て思う。


控えめに言って可愛い…と。


部屋着だと思って油断してたけど、女神と見間違えるぐらいに可愛いわ。他の誰が見ても同じ感想だと思う。


服装を見るまで忘れていたが、私服を着た北風は10秒でナンパに遭遇しているのだ。北風(姉)はポニーテールだ。今から料理をするのだから当然と言われたら当然なのかもしれないけど。ちょっと髪変えただけでイメージが全然変わるな。そのおかげでシンプルな服なのに、北風が違う人に見える。


俺の部屋着とは、全く違うな。これを部屋着というのか。今度姉ちゃんにちゃんとした部屋着を購入してもらおう。


「?どうしたの?」


やっべ。フリーズしてた。


「い、いや、ごめん。他人の家に入るの初めてで緊張してたのと、2人の服装見てちょっとフリーズしてた。」


こういう時に上手く誤魔化す方法を知りたい!


「それは可愛いという意味ですか?」


雪乃ちゃんがそう質問するが…。


「?いや、もちろんそういう意味だけど?」


今の自分の姿を鏡で見てほしい。多分その姿なら相手が女の子でも、可愛いって言うと思うぞ?


「あ、ありがと…。それじゃ!私は晩御飯の用意があるから!」


ちょっと顔を赤くして、北風はキッチンに向かった。ちょっと照れてるようだった。こんなこと言われ慣れているだろうに。実はウブなのか?


「俺も何か手伝おうか?」


「うーん。荒木くんは米は洗えるんだよね?」


「おう。」


というか米を洗うこと以外料理関係では何も出来ない。…よく考えたら俺はいらないのでは?


「それじゃあ、私が米を洗い終わったら呼ぶから!その後料理の練習しよっか!」


「いや俺、あんなこと言っといて米洗うこと以外何も出来ないぞ?」


「だからだよ!私が見てあげるから、ちょっとだけ練習したら?」


確かに…。俺の料理の基本スキルはほとんどない。ここで教わるというのは魅力的だな。しかし…


「…いいのか?迷惑になるだろ?」


「気にしないで!これもお礼だから!雪乃もいい?」


「私は大丈夫だよ!」


「なら、決定!それじゃあ米洗って来るから2人でゆっくりしてて!」


「お姉ちゃん、私が洗うよ?」


「わ、私がやるよ!それに今はちょっと2人っきりは…」


「はぁ。わかったよ。洗い終わったら言ってね。」


?2人の会話は聞き取れなかった。お互い耳元で囁いていたから聞こえるはずがないんだけど…。


すると、北風はキッチンへ、雪乃ちゃんは俺と距離を置いてソファーに座った。


しかし、会話が始まらない。


気まずい…!!なんて話しかけたらいいのか全く分からない!今まで後輩とか関わったことなんてほぼない!文化祭で陽の妹、陽菜ちゃんと少し話したぐらいだろう。あれも会話と呼べるレベルなのか定かではないが。水道の音だけが聞こえる。どうしよう…?話題を探さないと…。


「あの…」


「はい!」


急に話しかけてきた。ちょっと驚いてしまった。


「…そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?私、年下ですし。」


そうは言われてもなかなか難しいんだよ。雪乃ちゃんも北風と同じ遺伝子のなので美人だ。学校でも人気だろうな。それに加えて、年下だからどうしたらいいのか分からない。


「…ごめん。それで?」


「お礼を言っておこうと思って…。」


お礼…?俺なんかしたっけ?雪乃ちゃんとは今日初対面だと思うだけど。


「お姉ちゃんを助けていただいたみたいで。」


あぁ〜そっちか。多分文化祭のことは話したんだろうな。別にそれは構わないが、どこまで伝わっているのだろうか…?俺の黒歴史は伝えてくれてないことを願う。


「文化祭のことか。別に大したことしてない。北風にも言ったけど、ムカついたからぶん殴っただけだし。それにお礼なら今、北風から貰ってる。別に雪乃ちゃんが気にする必要ないと思うけど?」


料理本を貸してもらうことに加えて、料理を教えてもらうが増えたけどな。ここまで来ると、俺が助けたこととお礼が釣り合ってない気がする。お礼過多だろ。


「それもあるんですけど、私がお礼したいことは別です。」


あぁ〜、修学旅行の事だったか。ちょっと恥ずかしいな。堂々と言い切っちゃたんだけど。


「…お姉ちゃんは最近変わりました。昔の私が好きだったお姉ちゃんに。多分荒木先輩のおかげだと思うので。」


修学旅行でもなかったか…。


「俺は何もしてない。変わったのは北風の頑張ったからだ。俺がやったことは背中おしただけだ。俺が北風を変えたって言ったら、北風の努力が無駄になっちまう。」


雪乃ちゃんは北風が好きなんだろうな…。話してる時の目が北風の方を向いていた。


姉が好きって気持ちは少しわかるな。俺にも月夜姉ちゃんがいるから。もちろん家族愛だ。


「…なるほど……。」


「ん?なんか言った?」


「荒木くん、キッチンの方に来てー。準備できたよー!」


「いえ何も言ってません。それよりお姉ちゃんが呼んでます。キッチンの方に行ってください。」


「そうか。んじゃ行くわ。」


俺はソファーから離れて北風のいるキッチンの方に向かった。


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Side北風雪乃


荒木先輩はお姉ちゃんの元に行く姿を見ながら先程の荒木先輩との会話を思い出して合点が言きました。


家に入る前にお姉ちゃんから、荒木先輩がお姉ちゃんを助けてくれた人だと聞いてちょっとびっくりしてしまいました。正直全然強そうに見えないです。お姉ちゃんが言うことが正しかったら荒木先輩は南高の不良を余裕でボコボコにしたことになります。荒木先輩もそれらしいこと言ってましたけど。


でも、荒木先輩がお姉ちゃんを変えたのは間違いありませんね。あんなことを言うってことはお姉ちゃんを変えたことに関わっているってことでしょう。


名前からもかーくんさんが、荒木先輩であることは間違いないです。


お姉ちゃんは荒木先輩が好きだけど、恋人同士ではないと。現状はこんなところでしょうか?


確かに荒木先輩が悪い人ではないということはさっきの会話でわかりました。荒木先輩は謙虚でお人好しなんだと思います。私が話しかける前も何とか必死に話題を探してる感じがしました。ちょっとその姿が面白くて話を切り出すのが遅くなってしまいました。荒木先輩には悪いことしましたかね?


私より年上で、お姉ちゃんの恩人なのだからそんなに緊張しなくてもいいと思うんですけどね。確かに面白い人です。


荒木先輩のそういうところにお姉ちゃんは惚れたのだと思います。わからなくは無いです。


お姉ちゃんも私もかなりの美形だから、最初は変な目で見られることがほとんどです。私はそんなに気になりません。そうなっちゃうのは仕方ないよね?って割り切ってますし。私もイケメンとか見たらそうなると思います。私に関してはそんなに見た目で損したことないですし。むしろ得してます。でも、お姉ちゃんは見た目で嫌な思いをしたことがあるのでしょう。


けど荒木先輩からはそんな目で見られる感じがしませんでした。単にお姉ちゃんで慣れたせいだとも考えられますけど。


確かに興味があるかないかでいわれるとありますね。恋愛感情はありませんよ?私もそういう人には初めてですし、お姉ちゃんの好きな人と言われれば興味が出ます!


お姉ちゃんは、恋愛に詳しくないと思います。というかこれは間違いないです。何となく今のお姉ちゃんの感じって初恋の女の子って感じがすごくします。ここは妹としてお姉ちゃんの恋愛をサポートしてあげましょう!







後書き

放課後はまだまだ続きます!

少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は★とレビューをください!


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