第46話
Side荒木神楽
「うぅ〜。寒ぃー。」
ガコンッ!
暖かい飲み物をカイロ代わりにしながら陽菜ちゃんと別れた場所まで戻る。
『…先輩笑うんですね…。』
先程の陽菜ちゃんとの会話が脳裏をよぎる。そしてもうひとつ頭の中をよぎるのは…、
『私以外の人といる時にさ、楽しくて無意識に笑っちゃうの私、やぁ、だよ?』
甘いような声を出す北風の声だった。
…あれはノーカウント…だよな?無意識だったような気はするけどすぐに気づいたし…。
いや、そもそもなんで俺が北風の言葉なんか気にしてんだよ。約束した訳じゃないし……。つうかなんで北風のことが出てくるんだよ。
あぁ。こんなのは俺らしくない…。俺らしいっていうのもなんかよく分からんけども。
そこら辺にイルミネーションが飾られて子供や大人の声が聞こえる。子供連れの親子を見て、俺にもあんな頃があったんだなぁと思うとどこか懐かしいような感じもする。親…かぁ…。
当たり前の存在っていうのはいつまでもいるとは限らない。それは当たり前の存在がいなくなって初めて気づく。そして後になって後悔することになるのだ。あの時…ああしていれば……、なんてな。
だから俺は出来るだけ後悔しないように結構今を全力で生きてるつもり。意外と思われるかもしれないけど今も楽しんでる。どちらかって言うと感動してるの方がふさわしいけど。そんな俺がこの状況でこんなことを考えているとは…。すこしらしくないよな。
さてこんな考えは置いといて…、まだ1番メインのイルミネーションは見てないんだし、楽しまいとな。陽菜ちゃんにも勉強の息抜きなんだし楽しんでもらわないと。
そろそろメインのイルミネーションが見れるはずなんだよなぁ。メインはイルミネーションが海のように広がってすごく綺麗に見えるんだそうだ。ちなみにこれは陽菜ちゃん情報。実は俺も楽しみにしてる。パンフレットで俺も見たけどすごく綺麗だった。
そんなことを考えながら歩いていると陽菜ちゃんの姿が見えてきた。
ん?陽菜ちゃんが誰かと話してる?けど絡まれてるって感じではなさそう。陽菜ちゃんも笑いながら話してるし。学校の友達か?男女1人ずつだからあれは…カップルだな……。
……最近、絡まれる現場に何度も立ち会ってきたからそういうのがよく分かる。
と、陽菜ちゃんの様子を観察していたら陽菜ちゃんが俺に気づいてこちらを指さしてきた。
コラ。人を指さすのはやめなさいって教わらなかったのか?
手招きされたので、陽菜ちゃん達の方に向かう。
「紹介しますね、私の学校の友達で……」
「初めまして、藤崎
「彼女の草野瀬菜です!」
「初めまして。」
手を差し出してくれたので藤崎くんと握手をする。
やっぱりカップルだった。それより驚いたのは礼儀の正しさだ。なんか俺の周りはあんまりそういうのを気にしない人(陽、北風など)が多いので感動した。すごく好青年ってイメージがついたわ。
「俺は、かて………」
「こっちが私の
「ッ!?」
俺が言うより早く、大きな声で陽菜ちゃんが俺の事を紹介してくれた。
というか…今…なんといった?聞き間違えじゃなければ俺の事を彼氏と紹介しなかったか…?
カップルの2人は俺の方を興味津々という目で見てくる。
「あ、そうだ。暖かいジュース買ってきたんだけど飲む?」
「ありがとうございまーす!」
陽菜ちゃんが早速1本好みのものをとる。少し暖を取ってから蓋を開けて飲み始める。
「ほら、どうぞ。」
「えっ!?僕達までいいんですか!?」
「あぁ。
なぜ俺が三本も買ったのかというと1本目は陽菜ちゃんのため。2本目は俺のため。そしてもう一本も俺用である。結構喉も乾いて、寒かったので2本飲みたい気分だった。三本とも違う味を買っておけば陽菜ちゃんの好みがあるかもしれないしな。まぁ、結局俺の手元には1本も残らないが。
ちなみに俺がもう飲んだというのは嘘である。なので結構喉が乾いている状態。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて…。」「い、いただきます!」
2人がゆっくりとあたたか〜い飲みものを飲んでいる隙に…、
「陽菜ちゃん、どういうこと?」
小さな声で陽菜ちゃんに問いかける。もちろん先程の発言についてだ。
「すみません…。事情は終わったら説明するんで今は「私の彼氏」っていうことにして貰えませんか?」
「…分かった。」
事情は何となく分かるな。おそらく友達に「誰と来てるの〜」みたいなことを聞かれて、状況的に都合が良かったので俺の事を彼氏ということにして「デートしてる」ってことにしたな…。
全く…昨日に引き続きまたも彼氏役かよ。しかも違う人。これが今年の俺のクリスマスかぁ。ある意味リア充か…な…?
偶然目的地…というかメインを見に行くようなので一緒に行くことになった。この中で唯一俺だけ歳上だから話しづらい…。
とは言っても基本的に陽菜ちゃんと話すことが多いだろう。カップルの会話を邪魔するなんてことはあんまりないだろうし。あとは4人で話すことぐらいだろう。
つうか、陽菜ちゃんの友達すげぇな。めちゃくちゃラブラブじゃん。え?中学生ってあんなもんだっけ?もしかすると陽達よりラブラブなのでは?陽と雨宮さんのデート見た事ないけど。
はぁ。俺は中学生にすら負けてんのか……。ちょっとショック。
今も飲みもの交換してるし…。あれ、俺が買ってきたんだけどな。まぁ、俺が押し付けて渡したんだけども。
「…先輩…、飲み物ちょっといります?」
隣に居る陽菜ちゃんがすこし顔を赤くしながら陽菜ちゃんが飲んでいた飲みかけを俺に差し出した。
「いや、遠慮しとく。陽菜ちゃんが飲んでいいよ。」
喉がカラカラなのは事実だが、冬ということもあって耐えれない訳では無い。それにさっきの光景を見たあとではすこし気が引ける。
「でも、先輩のど、かわいてますよね?わざわざジュースを2本買ってくるぐらいですし…。それにさっき飲んできたって嘘でしょうし。」
「いや、まぁそうなんだけどな…。」
鋭いな…。いや、結構分かりやすかったか?
はっきり言って飲みたい。陽菜ちゃんが今飲んでいるのはホットの「蜂蜜レモン」。俺が1番飲みたかったものである。
「半分ぐらいは残ってますよ。まだ暖かいですし。これ、少し甘くて結構おいしいですよ!」
ヤバい…。どんどん飲みたくなってきた。
「ふふっ。ほらぁ。どんどん飲みたくなってきたでしょ…。」
…なんか、催眠かけられてないか?しかしどんどん飲みたくなってきた。この気持ちは本物だ…。なんか…陽菜ちゃん楽しそうだな。すげぇノリノリだし。
「くっ…!い、いただき……ます…。」
「はい!どうぞ!あ!私もまだ飲みたいんで残っているうちの半分ぐらいは残して欲しいです!あと、滝飲みは禁止でお願いします!」
注文が多いな…。陽菜ちゃんの飲み物だから文句はないけどさ。
「滝のみは無理だろ…。こんな暖かいものでそんなことするのは芸人ぐらいだ。…っていうかいいのか?俺がその…くち…つけるの。抵抗感とかないのか?」
「いえ、全く。…あ!先輩だけですからね!」
?全く意味がわからんが、そんなに抵抗はないみたいだな…。だがな…、う〜ん…。これはどうなんだ?
「ささ、ぐいっといってください!もう一本買うなんてもったいないですし!」
なんか…すげぇ推してくる。ここまでされたら今更飲めないっていうのはできないな。
「んじゃあ、いただきます。」
ごくっごくっと蜂蜜レモンを頂く。
「うまっ!」
「でしょ!」
久しぶりに飲んだがすごく美味い!甘くてレモンの酸味がちょうど良くてパーフェクト!今度金が余ってたら箱買いでもしよっかな…?お年玉で買いたいな。
「ご馳走様。」
俺は蜂蜜レモンを陽菜ちゃんに返す。
「ふふっ!どうでした?美少女との間接キスのお味は?」
陽菜ちゃんは憎たらしいぐらいの満面の笑みで俺を追い詰めてくる。こういう所は陽に似ている。すごくな。
お返しにグッ!と力を貯めてデコピンをお見舞いする。
「痛いっ!です!」
「家庭教師をからかうもんじゃない。」
「それ、関係あります?っていうか中学生って先輩が思ってるより子供じゃないんですよ!ほら、あのカップルを見てください!」
チラっとだが陽菜ちゃんが指さした少し前を歩くカップルを見てしまう。
「…あぁ、確かにな……。本当にそう思うよ……。」
いや、マジで。なんであんなにラブラブなの?意味わかんない。俺の心にどんどんダメージが入っるんだけど。
「でしょ!」
「だが、それとこれとは関係ない。」
そう、きっとあのパターンが特殊なのだ。間違いない!きっと、多分!……ちょっと今度雪乃ちゃんに聞いてみようかな…。
「ムゥ!先輩のバカ!」
なんで俺がバカ扱いされなきゃならんのだ。
「知ってるか?バカって言った方がバカなんだってよ」
「小学生みたいなこと言わないでください!先輩の方が子供じゃないですか!」
失礼な。俺はバカと言われても動揺なんてしない。昔はすこ〜し発言者を痛めつけただけだ。今は笑ってる。すごい成長してるだろ?つまり大人だ。
「川野、すごく楽しそうだね。」
「うん。陽菜のあんな顔…初めて見た。きっと先輩のことすごく好きなんだろうね…。」
「そうだね…。僕達も負けていられないね。」
「そうだね!治くん!」
あ!なんか知らねぇけど、また藤崎くん達がいちゃつき出した!マジで中学生なのか?
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