閑話 姉弟


Side荒木月夜


両親が死んだ。


2人で旅行して帰ってくる時に飛行機事故で死んでしまったらしい。


それを知ったときはとても泣いてしまった。今までいてくれた存在がいないんだ…って言うことをとても実感してしまって、心に大きな穴が空いたような感覚に陥った。


葬式までは沢山泣いた。ここでお別れだから。神楽もすごく泣いていた。


でも、葬式が終わったら泣くのはやめた。いや、泣くのは辞めてない。神楽の前では泣くのはやめた。


神楽には強いお姉ちゃんでいたかった。だから、絶対に私の弱い姿を見せないように振舞った。


両親はかなりのお金を残してくれたけれど、これで神楽の高校卒業まで足りるか、と問われるとあまり自信はない。


それに血の繋がりも神楽と私しかいない。だから、親戚に頼るということなんて出来なかった。


高校二年生の私はどうしたらいいのか分からなかった。


でも、そんな姿を見せずに神楽の前では家事を完璧にこなし、料理も作って、「心配しないで」って言い続けた。


学校指定のカバンから教科書を出しているとひとつの名刺が落ちてきた。


「…モデル事務所…Light…」


それは友達と遊んでいた時に声をかけられてずっと持っていた名刺だった。


私は外見はいいと思う。両親が美形だったし。神楽もかっこいいんだけど、あまり本人に自覚はなさそう。


私は「神楽はかっこいいよ」って言ってるけど、聞く耳を持ってくれない。


この名刺を貰ってからは将来はモデルもありかなって考えていた。


でも、モデルの技術がある訳では無い。


それにモデルって成功したらお金が儲かりそうだけど、そこまでが長いし、必ず成功するとは言えない。そういう点では不安だ。


どうしようかな…?ってひたすら悩んだ。誰かに相談したいけれど、こんなことを相談出来る親はもう居ない。神楽にだってこんなことは言えない。


そこで私は一大決心をした。多分これが私の人生の分岐点と言えるほどの。


私は携帯をとって、名刺に書いてある電話番号に連絡した。


「はい、モデル事務所Lightですが…」


「夜分遅くにすみません。えっと、前に名刺を貰ったんですけど・・・」


電話で今度事務所に来るように言われた。実際に行くと軽い面接?のようなものだった。


後日には採用された。


そこで思いっきて会社の社長さんに相談に乗ってもらうことになった。今思えば、とんでもないことだと思う。


私のここまでの経緯と、これからどうすればいいのか。


「なるほど…ね。それがあなたの理由ね。なら契約しましょう。私があなたのモデルになるためのレッスン代を払うわ。それをあなたがモデルで成功したら返してちょうだい。」


正直言って好条件すぎる。失敗したら返さなくていいのかな?って思ったら、


「あなたには素質がある。意思がある。だから、賭けてみたい。だけど、少し時間が足りない。だから、時間を増やして欲しい。」


私はすぐにその賭けに乗ることにした。学校も中退することになった。勉強はかなりできる方だったので、みんなに理由を聞かれたけど、夢を叶えるため!って言った。嘘ではない。


友達との別れは悲しかった。まぁ、いつでも会えるし、今でも会うことはあるんだけどね。


そこからはレッスンを受けながらバイトを掛け持ちした。


レッスンは厳しくて、何回も泣きそうなったけど泣かなかった。


正直、この時はかなりしんどかった。だけど、神楽には絶対にそんな疲れた姿は見せなかった。


家にいる時間もかなり減った。必然と神楽に家事を任せてしまうこともあった。こればっかりはどうしようもなかった。神楽はどうしても料理だけは出来なかったので、私が作り置きしておいた。


そこから神楽と顔を合わせる時間、会話をする時間も減った。それに神楽も私と話したくないのかあまり、部屋から出て来なかった。こんな時どうしたらいいのか分からなかったけれど、神楽なりに考えがあるのかな?とも思った。


これが間違いだった。


ある日に私はたまたま家に早く帰ることが出来た。なので、家を綺麗にして神楽の帰りを待っていた。


夜の11時を回っても帰ってこなかったので、心配していた。


「ただいまぁ。」


神楽の声が聞こえた。私は玄関の方に向かった。


「おかえ……り……」


そこで驚いた。神楽から血が出ていたからだ。服にも手にも。気が飛んでいきそうになった。神楽は私が帰ってきていることに驚いている様子だった。


「何してたの?神楽。」


「なんでもねぇよ。」


「なんでもないことないでしょ!その傷!どうしたのよ!?」


「チッ。姉ちゃんには関係ない。俺、今日はもう寝るから。」


「待って!待ちなさい、神楽!」


そう声をかけるが神楽は止まらない。


私は神楽の背中にしがみつき、気がつくと泣いていた。


「待って…神楽。…ごめん、ごめんねぇ。お姉ちゃんが立派じゃなくて、ごめんねぇ。」


今まで1度も弱みを見せないって決めていたのに、その誓いを破ってしまった。


でも、神楽は私の震える声を聞くと止まって私の方を向いてくれた。


「ごめん。月夜姉ちゃん。謝るべきなのは俺の方だよ。姉ちゃんが今まで俺を支えてくれたのに俺は1度もその恩返しを出来ていない。姉ちゃんが無理してんのわかってたのに。姉ちゃんが…泣いてんの知ってたのに。ここまで来ないと現実を理解できない俺が悪いよ。本当にごめん。俺さぁ…」


神楽は今までの出来事を私に話してくれた。学校で親や、私のことを悪く言われてその子を殴ってしまったこと。そこから現実に目を背けて夜に喧嘩していたこと。この血はその時だということ。学校でも独立していること。私のために反抗してくれたのは嬉しかったけれど、今までしていたことは説教した。


非常に反省していた様子なので、許すことにした。


「俺、中学出たら働くよ。何するかはまだきめてないけど。」


「ダメ!それだけはダメ!」


「な、なんでだよ!?」


それだけはして欲しくなかった。


「私は途中で辞めちゃったけれど、高校生活はとても楽しくて、一生大事に思える友達も出来た。恋愛とかはあんまり出来なかったけれど…。だから、神楽にもそれを経験して欲しい!私の続きを見て欲しい。バイトならすればいいから。」


「わ、分かったよ。高校には通う。今からすげぇ勉強していい高校目指すよ。その間は喧嘩も何もしない。でも、その代わりに俺を頼ってよ。」


「えっ…?」


どういうことだろう。あまり意味がわからない。


「姉ちゃんが無理してたの知ってる。俺の前で強がってたのも、全部俺のためだろ?全部…は無理だけどちょっとぐらい頼って欲しい。家事だって手伝うし、相談だって乗る。愚痴とか不満だって聞くよ。だから、その、何もかも1人で頑張ろうとしないで欲しい。それで姉ちゃんが無茶して病気とかになったら嫌だから。俺とねぇちゃんの2人だけしかもう家族がいないから。」


そこまで言われて初めて気づいた。ずっと見ないうちに神楽は成長していた。ずっと守らなきゃって思ってたけど、そんなことする必要なかった。支え合えば良かったんだ。


そんな姿を見て私はまた泣いてしまった。


「もっと泣いてよ。そっちの方が安心する。」


その日はかなり遅くまで泣いていた気がする。


次の日からは心が軽かったというか、なんか気持ちが良かった。昨日までとは違う気がした。


「おはよう、姉ちゃん。」


「おはよう、神楽!」


長らくしてなかった朝の挨拶もして、私は家を出た。そこからはレッスンにも集中することが出来た。神楽は頼ってっと言っていたが、モデルの仕事だけは自分の力だ。


今まで以上に真剣に取り込んで、徐々にだけどモデルのオーディションを受けたりすることも増えてきた。


軌道にも乗れてきたと思う。


私が泣いた日から1度だけ!たった1度だけど、神楽が私に料理を作ってくれたことがあった。その日は私の誕生日だった。私は忘れていたけど。


神楽が作ったのは肉じゃがだった。具の大きさもバラバラで、味付けも微妙だったけれど、今までで1番美味しいと思える料理だった。忘れることが出来ない味だった。


神楽は手を切っていたから言及してみると、


「いや、これは違う。勉強中に怪我した。」


なんて言う可愛いことを言っていた。


私と神楽が料理を食べ終わると…


「はい、これ」


「なに、これ?」


縦長の箱を私に渡した。中を開けると


「ネック…レス?どうしたの?これ。」


「いや、今まで使ってなかった俺の小遣いで買った。ほら、毎年誕生日になると母さんと父さんがプレゼント買ってくれただろ?」


「でも、姉ちゃん何が欲しいのか知らないし。何がいいか分からなかったからそれにした。」


とても嬉しかった。神楽から何かを貰うっていうのは初めてだったから。


「ありがとう。神楽。これ、一生大事にするよ」


「いや、そんなに大事にしなくていいよ。潰れたらまた買うし、それが潰れた頃にはもっといいもの買えるだろうし。」


「こういう時は、「おう、大事にしてくれ。」とかって言うもんじゃない?」


「いや、知らねーよ!」


「彼女が出来たらいつかそう言った方がいいよ〜。」


そんな軽口を叩いていた。私が嬉しくて泣いていたのを神楽は見ていたんだろうけど、何も言ってこなかった。


そこからはより一層モデルの仕事に力を入れた。社長にも返済できるほどになったし、テレビにも数える程しかないけど出るようになった。


けど、そこまで来ると家から行くのは難しい。だから、神楽に相談した。神楽に相談したのって、これが初めてだと思う。


事情を聞いた神楽は悩む様子もなく、


「姉ちゃんの好きなようにしたらいいんじゃね?家なら俺が何とかするし、俺の方も心配いらない。高校にはもう合格したしな。ここまで俺がたくさん迷惑かけてきた。だから、姉ちゃんの好きなようにしたらいいよ。」


その言葉を聞いて、私は家を出ることに決めた。今の神楽なら多分大丈夫だと思う。それにこの仕事は続けたいと思う。


仕送りだけ、送るようにして私は家を出た。連絡とかは結構こまめにとっていた。でも、会うことはほとんどなかった。私も忙しかったしね。


神楽が高校に入ってから初めて学校に誘われた。会うのはいつぶりかな?


これまでのことを思い出しながら、神楽がどんな風に成長しているのか、期待を膨らまして私は故郷に帰ってきた─





後書き

陽くんと雨宮さんはこの話を聞いて号泣していました。神楽は何も言わなかったですが、実は文化祭には神楽がプレゼントしたネックレスをつけています。


次回からは2章に入ります。


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「クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える」もよろしくお願いします!

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