33話 冒険者への道【3】

「…すいません、少し席を外させて貰います、少々お待ち下さい。」


 そう言って僕達の下を離れた受付嬢は、フラフラになりながらも駆け足で奥へと入って行こうとしていた。

 だが、少し進んだ所で足を止め、近くの人に声を掛ける。

 声を掛けられた人は、受付嬢に代わり、奥まで行くと大声で叫んでいるガタイの良いオジサンの下へと行き、何やら話し込んでいた。


 それから少しした後、受付嬢の下に来たその男は受付嬢を連れて戻ってきた。


「アリス様、ルウド様、大変お待たせしました。

 こちらが当冒険者ギルドのギルドマスターで…。」

「ギルドマスターのエルモアと言います。

 それで、貴女が『黒竜』のアリス様…ですかな?」

「うむ、妾が破壊神のアリスである。それと、こっちが妾の息子のと紹介すれば良いのかのう?

 どうも、人族の挨拶とやらは分かり辛くてかなわん…。」

「ど、どうも初めまして…ルウドです。」


 やはり、黒竜とか破壊神なんて名乗っている為、何とも言えない雰囲気になっている。

 とは言え、自己紹介は大事なので、一応、僕も名乗っておいた。


「そ、そうですか…では、ここで立ち話も何ですので、奥に部屋を用意させますので、そちらで事情をお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 ギルドマスターであるエルモアさんが、申し訳なさそうに尋ねてくる。

 まぁ、確かに黒竜が出たと言う情報が流れてからと言う物、かなり騒然となっているギルドである。

 そんな中、人が一杯いる場所で、自分が黒竜だと名乗った場合、考えられる事として一番に思い付くのが暴動である。


「わ、分かりました、それではエルモアさんに従います…母さんも良いよね?」

「まぁ、ルウドがそう言うなら、妾は構わぬが…。」

「本当ですか!?そうしていただけると、こちらとしても助かります。

 では、案内しましよう…こちらへどうぞ。」


 そう言っていたエルモアさんの瞳は、僕を見ずにずっと母さんアリスを警戒する様に見ていたのだった…。


◇◆◇◆◇◆◇


「そ、それでは…話をお伺いしたいのですが…。

 本日は、当冒険者ギルドへ何のご用でしょうか…。」

「何じゃお主、先程からブルブルと振るえておる様じゃが、もしや寒いのかえ?」

「い、いえ…その様な事は決して…。」

「ふむ、それなら良いのじゃが…そうそう、何の用じゃったな?

 それはじゃな、このルウドが昨日、めでたく15歳になっての…かねてからの夢である冒険者登録に来たと言う訳じゃ。」

「そ、そちらの御方の冒険者登録で御座いますか?

 ほ、他には何か御座いますでしょうか?

 た、例えば…この町を滅ぼしに来た…とか?」


 ビクビクしながらも、母さんに質問をするギルドマスターのエルモアさん。

 だけど、何で町を滅ぼすなんて話が出てくるんだろう?


「お主…先程から何を言っておるのじゃ?

 妾は、先程、このルウドの冒険者登録をしに来たと申したではないか!」

「ひぃッ!!」


 母さんが僕の冒険者登録に来たと言っているのに、他にも何かあると考えたのかギルドマスターのエルモアさんが、それ以外にも何かあるのでは?と質問をした。

 だが、それは母さんの話を聞いていない事と同意語である。

 その事に怒りを感じたのか、少しばかり母さんから魔力が漏れ出した。


 その瞬間、ギルドマスターのエルモアさんが悲鳴を上げる。

 って、仮にも冒険者のギルドマスターをやってる人が、そんな簡単に悲鳴を上げるなよ…と思った。

 でもまぁ、母さんから漏れ出す魔力に反応してる様だし、それも仕方がないのだろう…。


 え?僕?もちろん、僕は何ともないよ?

 とは言え、何時までもこんな事をしている訳にはいかないので、助け船を出そうと思う。


「母さん、今日は僕の冒険者登録に来たんだから、邪魔しないでよ…。

 それとエルモアさん…母さんは、本当に僕を送ってきただけですので何も心配しなくて良いですよ?」


 先程、エルモアさんが『この町を滅ぼしに来た』と心配していたので、その事についてもフォローを入れておく。


「ほ、本当でしょうか?」


 何故かまた母さんに聞くエルモアさん…それじゃ、フォローしたの意味が無くなるのでは?


「くどい!先程の申したが、妾はルウドの言う通り只の道案内…と言うより付き添いと言った方が正しいかもしれぬかのう…。」

「ふぅ~!それは僥倖です…今回は偶然にもつい先日、S級Sランクに昇格した冒険者が来ていたとは言え、こんな田舎の冒険者ギルドには、それほど多くの冒険者が居ないんですよ…。

 これで、もしも町を滅ぼしに…何て言われたら、こんな町、簡単に滅んでいましたよ…。」


 と、大きな溜め息と共に続けて言った言葉は、エルモアさんにとって、どれだけの負担だったのかが目に浮かぶようである。


「っと、こうしてはおれん!申し訳ないのですが、少し席を外させて貰います!

 貴女達が攻めて来たのでないのならば、戦闘の準備を止める様に言わねばなりませんので、失礼します!」


 それだけ言うと、エルモアさんは急いで冒険者達に戦闘の準備をしなくて良いと言う旨を伝えに行ったのだった…。

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