30話 旅立ち【3】

 妹に注意された事により、母さんアリスは移動の際に起こる風圧から身を守る為の結界を張ってくれる事になった。

 ちなみに、この結界が無かった場合、僕の身体がどうなっていたか予想も付かない。


 まぁ、ここからは単純計算になるから一概には言えないが、時速4kmで12時間歩いたとして移動距離は48km。

 その距離を僅か5分(未満)で移動する事が出来るって話だから…つまり、時速で計算すると約576km/hと言う事か?


 そんな速度を生身の身体で移動するとなると身体に掛かる負荷は洒落にならない事になっていたはずだ…ってか、生きてる事が出来るのだろうか?と疑問に思った。


 とは言え、そんな疑問も既に問題ではない。


 何故なら、僕の目の前には既に目的の町が見えているからである。

 ある程度町が見える距離まで移動すると母さんは地上に降り、そこからは徒歩となった。

 その後、少し歩くと町が見えて来て今に至る訳で…。


「送ってくれてありがと…それじゃ、母さん…行ってきます。」


 僕はそう言うと母さんへ背を向け町へと向かって歩き出す。

 だが、そこで予想外にも母さんから待ったが入った。


「待つのじゃ!お主、妾を置いて何処へ行こうとしておるのじゃ!」

「へ?何処って…もちろん町に決まってるじゃん?」

「ならば何故、妾を置いて行こうとするのじゃ?」

「…はい?」


 一体どう言う事なのだろう…と、惚けていると母さんから追撃があった。


「もしや…お主、ここから先、1人で向かうつもりじゃったのかえ?」

「え~っと…もしかして、勘違いかもしれないけど、母さん…付いてくるつもりだったりする?」

「もちろんじゃ!息子の巣立ちを見届けるのも親の役目じゃからな。」


 と、母さんが胸を張って言う。

 だが、果たして母さんにそんな事を言う資格があるのだろうか?

 正直な話、母さんは僕を産んだ後…正確には卵から孵った後、育ての親であるお母さんレイナ達に預け、殆ど放置していたのである。


 それを考えたら、よくグレずに成長したものだと、我ながら感心する。

 まぁ、それだけ両親育ての親達が愛情を注いでくれたと言う事なのだろう…と、自己完結してみた。


 何はともあれ…ここは1つ母さんに言って置かねばばならないと思う。


「ねぇ、母さん…凄く言い辛いんだけど…これから冒険者になろうって言うのに、親を連れてくる人なんていないと思うんだけど…。」


 そんな僕の言葉に対し、母さんの反応は…暫くの間、呆れた様な顔をしていたのだが…。


「何じゃ、お主…そんな事を気にしていたのかえ?」


 と、聞いてきた。


「そ、そりゃそうでしょ!確かに母さんにしてみたら、僕は未熟かもしれないけど、コレでも成人して大人になったんだよ?

 それなのに何時までも子供みたいに親が同伴なんて可笑しいじゃんッ!」

「そうは言うが、妾とてお主との契約があるからの…それ故、見守る義務があるのじゃ。」

「えぇ~!」


 よもや、ここに来て契約の話が出るとは思わなかった。

 だが、確かに僕が母さんアリスとした契約では『Sランク冒険者になる』と言う契約である。


 つまり、冒険者に成れないと契約事態が意味を成さなくなると言う事になる。

 そうなれば竜族である母さんに取って、それは許されない話になるのだろう…。


「どうやら、納得したようじゃな…ならば、一緒に向かうのじゃ!」


 いや、納得してないんですけど?

 だが、母さんはそう言うと、嬉しそうに僕の手を取り町の入口へと向かうのだった…。


 ☆★☆★☆


「次の方!」


 町の入口である門まで来た僕達が見たのは、街へ入る人を調べる門番だった。

 とは言え、それほど厳しい検査をされる事は通常では無い筈だった…。

 だが、この時ばかりは、異様に時間を掛けて、念入りに調べられていたのである。


「ふむ…なるほど、ルドラの村から冒険者になる為に、ここクラウドの町へ来たと…。

 だが…ちょっと聞いた事の無い村だな。

 なぁ、ヨーゼフ、ルドラの村って聞いた事あるか?」

「いや、俺も聞いた事が無いが…って言うか、地理に関しては俺よりペータの方が詳しいだろ…。」

「いや、そうなんだが…俺も覚えがないから聞いてるんだが?っと、すまない。

 それで…君達に聞きたいんだが、ルドラの村とは、何処にあるんだ?」


 どうやら門番の人はルドラの村の事を知らない様だ。

 まぁ、基本的に旅人も寄りつかない田舎だしな…。

 そんな訳で説明しようとしたのだが…。


「ふむ…村の詳しい場所は言えんのじゃが、そうじゃな…人族の足であれば、此処から北に1日ほど歩いた場所にある村と言った所じゃな。」


 と、母さんが先に答えてしまったのだった…。

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