29話 旅立ち【2】

 妹の説得(?)が無事に済んでから暫くした後、少しだけ問題はあったが、その後は平和そのものだった。

 ちなみに、その少しだけの問題と言うのは、妹に僕が今まで使っていた剣を渡した事がバレたからである。


 まぁ、妹がいつまでも大事そうに剣を抱えていたら、目に付くのは当然と言えば当然な話なのだが…。

 もっとも、怒られはしたが妹が剣を取り上げられる事は無かったのでよ良かったのではないだろうか?


 そして、次の日の朝…とうとう僕が村を出る日がやってきた。


「それじゃ、みんな…行ってきます!」

「あぁ、気を付けて行ってくるんだぞ!」

「もちろん!」


 お父さんポルンに言われて元気よく返事をする。


「ルウド、何時でも帰ってきて良いんだからね?」

「お母さん、もう子供じゃないんだから…。」

「あらあら、でもね?私にとっては、貴方は幾つになっても私達の子供なのよ?」

「そりゃ、そうかもしれないけど…。」


 お母さんレイナにそう言われてしまえば下手に反論は出来なくなってしまう。


「お兄ちゃん、私、頑張って稽古するから…待っててね。」

「レイン、待っててって?」

「私も大きくなったらお兄ちゃんと同じ冒険者になる。

 それで、お兄ちゃんのパーティーに入るからお兄ちゃんの横、空けといてよね?」

「……はいはい、レインの気持ちが変わらなかったらね。」

「(もう、勇気を振り絞って言ったのにお兄ちゃんの)バカ…。」

「え?何か言った?」

「バカって言ったのよッ!」

「な、何でッ!?」


 何故か見送りの言葉なのに、級に機嫌が悪くなったレインにバカと言われてしまった。

 とは言え、そんな妹もやはり寂しいのか、目には薄らと涙を浮かべていた。


 そして…。


「もう、別れとやらは済んだかえ?」


 と、声を掛けてきた者がいた。

 そう、僕の本当の生みの親にして竜でもある母さん…アリスである。


「いやまぁ、確かに挨拶はしたよ?

 だけど、そんなに慌てて行かなくても良いんじゃない?」


 母さんが連れて行ってくれなければ、途中で野宿をするつもりだったのだ。


「何を言う!お主は知らないかもしれないが、この森はかなりの広さがあるのじゃぞ?

 それなのに、こんな所で時間を使っていては町まで辿り着くのに時間が掛かってしまうではないか!」

「あれ?でも、町までは母さんが乗せてってくれるって言ってなかったっけ?」

「ん?もちろん乗せて行くが…それがどうしたのじゃ?」

「…母さん、この村から母さんに乗って町まで行くのに、どれだけの時間が掛かるのかな?」

「何じゃ、そんな事か…妾の翼ならそうじゃな…5分も掛かるまい。」


 …確か、長老の話では1番近い町まで歩いて丸1日は掛かるって言ってたはずなんだけど…まぁ、だからこそ途中で野宿を…と考えていたのだが、たったの5分ですか…。


 でも、考えてみたら森の中を歩くとなると足を取られたり色々大変だったりする。

 それを空を飛んで移動するなら足場を気にする事も無いし、崖やら川やら障害物も無いから迂回する必要も無い。

 そう考えれば、5分と言うのも納得が…行くかッ!!

 何で?たったの5分だって?流石に早すぎじゃないか?


「母さん、1つ質問があるんだけど…その…母さん、背中に誰かを乗せて飛んだ事ってあるの?」

「妾を誰だと思っておるのじゃ?そんな物、あるはずが無かろう!」


 いや、威張られても逆に困るんだけど…。


「それって、乗って大丈夫なの?」

「何じゃ心配しておるのか?仮に落としたとしても拾えば良いだけの事じゃ!」


 と、胸を張って言う母さん…それって、落ちる事が前提の意見ですよね?

 ってか、落ちる可能性があると言う事ですよね?


「アリス様、それって…お兄ちゃんが落ちた死んじゃんじゃないですか?」

「何じゃ、レインも心配しておるのかえ?」

「だって…人族は空を飛べないんですよ?それに、人族は高い所から落ちたら死んじゃうんですよ?」

「ふむ…それは不味いのう…ならば、落とさぬ様に結界でも張って飛ぶとしようかの?」

「やっぱり…。」


 そんな事をしれっと言う母さん…つまりレインが気が付かなければ、僕はそんな危険な空の旅を何の保護もなく飛んでいたと言う事になる。

 予期せぬ妹の機転により、命の危機を脱した事に嬉しくなって、気がついたら妹の頭を撫でていた。


「レイン、気が付いてくれてありがとな。」

「ん…お兄ちゃんを守るのは私の役目だから…。」


 レインはそう言って暫くの間、ニコニコしながら頭を撫でられていたのだった…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る