20話 厄災との修行【4】

 〖鑑定〗スキルとは…物事の真偽を見極め、その価値を見いだすスキルである。


 その為、武器や防具の性能…だけに留まらず道具アイテム、挙げ句の果てには他人のステータスの一部すら見通せる不思議な力である。


 基本的には、目利きが必要とされる商人に多く発現するスキルではあるが、全体から見れば微々たる物だったりもする。


 そんな貴重なスキルではあるが、母さんアリスの言うには、どう言う訳か僕も持っているとの事だった。

 そして…人族と言う物は、持っている力を使いたい…等と言う欲望には滅法弱い生き物である。

 そんな訳で、母さんに使い方を聞いて試してみた…。

 その結果…。


「だ、ダメだ…全然、分かんない…。」


 そう、何度やっても〖鑑定〗スキルが発動しないのだ。


「ねぁ、母さん…本当に僕に〖鑑定〗スキルなんてあるの?」

「うむ…妾の〖鑑定〗では、お主のスキル欄には確かに〖鑑定〗の文字が書かれておる。」

「…それじゃ、どうして僕には母さんのステータスが見えないんだよ!」

「そ、そうは言われてもじゃな…妾が〖鑑定〗を使う方法は教えたのじゃから、それで使えないとなると、妾にはお手上げじゃ!

 それに…じゃ、そもそもお主はまだ自分のステータスを知らぬのじゃろ?」

「それはそうだけど…それが何の関係があるんだよ…。」


 僕はガッカリして投げやりな返事をしてしまう。


「何を言っておる…ステータスを表示させると言う事は、その力を使える様になったと言う証明ではないか!

 そもそも、ステータスが開けないのにスキルを使えると言う方が非常識なのじゃ!」

「そ、そうなの?」

「そうなのじゃ!」

「そうだったんだ…でも、母さん…。」

「な、何じゃ?」


 母さんが心配そうに僕を見つめてくる…だが、僕は続きを言わずに、敢えて間を開けた。


「ど、どうしたのじゃ?」


 母さんが、どもりながら続きを聞いてくる…。

 よし、十分、間は開けたよな?


「ステータスも開けない僕が〖身体強化〗何てスキル、使えるの…かな?」


 上目遣いで母さんを見上げる…そして、僕は、ここで目に涙を浮かべるのを忘れない。

 チョロイン(チョロイ、ヒロイン)ではないが母さんの反応が変わる。


「だ、大丈夫じゃ!」

「むぎゅ…。」


 以前は無関心を装う母さんではあるが、帰って来てからと言う物、何かとデレたりする母さん。

 そして…今回は、抱擁と言う形を取ってきた。

 しかも、そんな僕は、身長差からその豊満な胸に顔を埋める事になる。


 そのお陰で、凄く柔らかく良い匂いもする…とは言え、このまま堪能する訳にはいかない理由がある…。


『パンパンッ!』


 僕は母さんの身体を何度か叩く。


「ど、どうかしたのか、お主ルウド?」


 母さんが少し離れ僕の顔を覗き込む。


「ぷは~!ぜぇぜぇ…ぜぇぜぇ…あ~、死ぬかと思ったッ!」

「な、何じゃとッ!?それはイカン!急いで最上級治癒魔法を掛けねばッ!!」

「いや、もう大丈夫だから…。」

「じ、じゃがッ!?」

「いや、母さんの胸が大き過ぎて窒息しかけただけだから…。」


 そこからの母さんの反応は凄まじかった。

 一瞬の内に、僕から10m以上離れる…当然ながら、僕にはその動きが一切見えなかった。


「こ、これは…そのじゃな、何と言うか…その…。

 け、決して他意は無いのじゃ…お主が、その…落ち込んでいたから、慰めようとしたと言うか…。

 そ、そうじゃない!いや、そうなのじゃが…わ、妾はさっきから何を言っておるのじゃッ!?」 


 それは、僕の方が聞きたいです、

 うん、完全にパニクってるな…流石、母さんだ…。


「大丈夫だよ、母さん…ありがとう♪」

「う、うむ…?よく分からんが、どういたしまして…なのじゃ。」


 母さんはそう言うと、ゆっくりと近付いてくる。

 よく見ると深呼吸をしている様で、少しずつ落ち着きを取り戻している様だ。

 そんな…からかい甲斐のある母さんを見て、僕はつい悪戯してしまいたくなった。


「母さん、苦しかったけど気持ちよかったよ♪」

「な、な、何を言っておるのじゃ、お主~~~ッ!!」


 次の瞬間、自分の意思とは関係なく反射的にしゃがみ込んだのは奇跡と言えるだろう。


『ビュンッ!!バキッ!ボキボキボキボキッ!』


 照れ隠しのつもりなのだろうか?

 母さんは、僕を突き飛ばそうと右手を前に突きだした。


 その結果…奇跡的にしゃがんだ僕の頭上を通り抜けたその手は空を斬る。


 だが、その手より発せられた衝撃波は後方にあった木だけではなく更にその後方の木々を破壊していったのだ…。



「ハッ!?妾とした事がッ!お主、大丈夫かッ!?」


 母さんが慌てて自分が破壊した木々の方へと目を向ける。


「う、うん…偶々たまたまだけど、躱せたから…。」


 僕はそう言いながら、ゆっくりとその場に立った。

 当然ながら、背後の状況は確認済みである。


「よ、良かったのじゃ…妾とした事が手加減を忘れてしまっての…お主を殺してしまったのでは無いかと心配したぞ…。」

「そ、そうだったんだ…。」


 ちょっと、からかっただけで死に掛けるってどんなだよ!

 と思ったが、今のは流石に悪ふざけが過ぎたかも?と自覚がある分、何も言えない…。

 むしろ、謝らないといけないだろう…。


「ごめん、母さん…悪ふざけが過ぎたみたい…。」

「わ、妾の方こそ…危うくお主を殺す所じゃった…すまぬ…。」


 今回尾の事で思った事がある…人族の常識からは、かなり掛け離れてはいるが、基本的に彼女母さんは純粋ピュアである事。

 そして、と言う部分に関して、まったく免疫がない…と言う事だった。


 そう言えば、転生した手の頃、母さんが僕に言ったよな…『妾も、流石に、この歳になって子供を産むとは思わなんだが…』と…つまりそれは、かなりの歳を取ったと言う意味だけではなく、う言う事をする相手がいなかった…と言う意味も含まれているのかも知れない。


 もっとも…母さんに、こんな事を面と向かって言えば今度こそテレ隠しで死んでしまうかも知れないので、この先、一生、聞く事はないだろう…。


「そ、そんな事より…母さん、〖身体強化〗の修行をお願いするね?」

「そ、そうじゃな…妾に任せるのじゃ!」


 こうして、僕達は修行を再開するのだった…。


 追伸:母さんが折った木々は、後日、薪として利用させて貰いました。(自然は大切に!)

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