19話 厄災との修行【3】

 翌朝、朝食を食べ終わった僕達は村から少し離れた森の中で修行は始めた。


「よいか、ルウド…昨日、妾が見せた身体強化は、お主が使っておる身体強化とは次元が違う。

 それが何か分かるかえ?」


 そんな事を言われても、僕の身体強化とは別物なのだから分かるはずがない…。


「いえ、全然分かりません。」


 と、僕は即答した。


「お主、今、考えなかったじゃろ?」

「そうは言われましてもね~昨日から、ずっと考えてても分からないんだから、もう即答しても良いんじゃないですか?」


 ぶっちゃけ、Eランク止まりだった冒険者に知恵を求めてはいけないと思う。


「ふむ…確か、一理あるのう…ならば、答えを教えようぞ。

 お主の使う身体強化とは、魔力での強化なのじゃ。」

「魔力のみ…。」

「そうじゃ、魔力のみじゃな。

 それに引き替え、妾の身体強化と言うのは、魔力にを混ぜておる。

 強者ほど、闘気を自在に操るのに長けているが、妾の使う身体強化はその闘気と魔力の複合技と言う訳じゃな。

 もっとも、正確には妾の身体強化には竜闘気と魔力の混合じゃが…な。」


 ハイ、また僕の知らない単語が出てきた。


「えっと…その竜闘気って、何ですか?」

「竜闘気…ドラゴニックオーラとも呼ばれている物じゃが…我ら竜族には、その身に竜闘気と呼ばれる特殊な闘気を秘めておるのじゃ。

 しかも、その竜闘気を使えば、肉体的にも魔術的にも強くなれる。」

「…それって、竜闘気だけで身体強化出来るって話じゃ…。」

「そうとも言う…じゃがな?

 真の身体強化とは、竜闘気のみや魔力のみでの身体強化とは比べ物にならない程の力を生み出すのじゃ。」


 まぁ、確かに昨日見た母さんの身体強化は、別次元の物だとは思ったが…。


「って、人族の僕に竜闘気なんて無いんじゃ…。」


 そう、竜族には備わってる能力と母さんが言っていたではないか…それに引き替え僕は人族だ。

 そんな僕に、どうしろと…。


「何を惚けた事を言うておる…お主は妾の眷属ぞ…。」

「………はい?」


 しばし思考が停止する。

 僕が眷属だって?つまり、竜族の一員だと言うのか?

 いや、何処からどう見ても、僕は人族でしょ?


 いくらこの村が殆ど人が来ない村だとしても、鏡くらいは見た事がある。

 そうでなくても、顔を洗う時や川に行った時など水面に映った自分の顔を見る事は多々ある。

 何度も見ている顔だ…間違えるはずがない、その顔は、確かに人族のソレだった。


「お主、もしや気が付いていなかったのかえ?」

「気が付くも何も…人族でしょ?」

「…お主、人化を使っておるとは言え…妾が竜族だと言うのを忘れておらぬか?」

「まさか!母さんが竜族なのは僕が一番知ってるよ?」


 そもそも、母さんが人化のスキルを使うまで、ドラゴンの姿しか知らなかったんだから…。


「ならば…じゃ、竜族から人族が生まれると、本当に思っておるのかえ?」

「あ…。」


 言われてみれば確かにその通りだ…そもそも、母さんは僕を転生させたのであって、子供に戻した訳じゃない。

 しかも、母さんは僕とのに、僕は能力が高くなる様に母さんの子供として産み落とされたのである。

 そう…僕の魂だけは再利用された様だが、それ以外は母さんが作り出した物なのだ。


「つまり、僕は人族では無く竜族なんだ…。」

「やっと、理解したか…ほんに、手の掛かる子じゃな…。」

「アレ?でも、そうなると何で僕の身体は人族のソレなの?」

「何、簡単な事じゃ…これも契約の内とも言えるのじゃが…お主の願いはS級の冒険者になる事…。

 故に、そのS級冒険者と言うのは、人族でないとダメなのじゃろ?

 ならば、妾が誰にもバレぬ様に、お主を人族の姿に変化させれば良いだけなのじゃ。」


 誰にもバレずに…ってのは、まだ良いとして、僕にすら秘密だったのはどうなんだろ?

 アレ?でも、それって…。


「…それって、僕も母さんみたいに竜の姿になれるって事なの?」

「うむ…お主が望めば、それもまた可能じゃな…じゃが、今のお主には〖人化〗のスキルは使えぬぞ?

 つまり…じゃ、竜の姿になった場合、お主の夢であるS級冒険者になる事は叶わなくなるのではないか?」


 確かにそうだ…今、母さんが人の姿を取っているのは〖人化〗と言うスキルだ。

 僕に〖人化〗と呼ばれるスキルがない以上、むやみに竜の姿になる訳にはいかない…。

 あれ?何で母さんは、僕に〖人化〗が無いって分かったんだ?


「ねぇ、母さん…一つ聞きたい事が出来たんだけど良いかな?」

「何じゃ?妾に答えれる事なら答えようぞ。」

「どうして母さんは、僕に〖人化〗が無い事が分かったの?」

「何じゃ、改まって言うから、もっと凄い事を聞いてくるのかと思ったわ。

 その答えも簡単な事じゃな…妾には〖鑑定〗のスキルがあるからの~、故に、対象であるお主を鑑定すれば、どんなスキルを持っているかなど、一目瞭然じゃ。」

「〖鑑定〗…極稀に商人が持っているって聞くけど、母さん、商人なの?」

「何を言っておる…〖鑑定〗とは、その物の真偽を見抜く為の物。

 また、その物の価値を計る物…それ故、人族では商人とやらに多く発言するだけの事じゃ。

 妾達の様に自然に生きる物にとっては、食べられる物を探すだけで十分〖鑑定〗を取得する条件を満たすのだぞ?」

「そ、それなら、僕もこれから〖鑑定〗を覚えられるの?」

「それは無理じゃろうな。」


 母さんが無理と言うのなら、無理なのだろう…〖鑑定〗があれば、色々と便利だと思ったんだけど…。


「そ、そっか…残念だな…。」

「お主、何か勘違いしておらぬか?」

「へ?…勘違いって?」

「既に持っておるスキルを、覚える事は出来ぬと言ったのじゃ!

 とは言え、先程からのお主の発言で分かった事がある…。

 お主、一度も〖鑑定〗を使った事がないのではないか?」

「うん…って言うか、僕に〖鑑定〗が使えるなんて、初めて知ったよ。」

「なるほどの…まぁ、使えると理解したのなら、自分の力なのじゃから直ぐに使いこなせる様になるじゃろ。

 そうさね…自分の手を見て、その存在を理解しようと思ってみれば、もしかすると、すんなり分かるのではないか?」


 と、母さんが無責任に言い放つ。

 まぁ、確かに母さんの言う通り、僕には出来る…そんな予感がしたのだった…。

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