18話 厄災との修行【2】

「た、ただいまッ!それとお母さん、母さんを僕の部屋に運ぶの手伝って!」


 家に帰るなり、僕はお母さんに言った。

 が、考えてみれば、を…とは、言葉的におかしな話である。

 ただ、反抗期になってからと言う物、ママからお母さんへと呼び方が変化していたのは不味かったと思う。


「え?お母さん、ルウドの部屋に行けば良いのかしら?」

「え?あ~そうじゃなくて、母さんアリスが帰ってきたんだけど、倒れちゃったから、僕の部屋で休ませたいんだよ!」


「えぇぇぇぇぇ!アリス様が倒れたんですか!?」

「はい?アリス…様?」


 普段見る事のないお母さんレイナの慌てぶりに、若干、引きながらも気になった事を聞く。

 そもそも、母さんアリスを様付けで呼ぶ事自体、不思議でならないからだ。


「た、たた、大変…ど、どどどうしましょう…。」

「とりあえず、お母さん…深呼吸して落ち着いたら?」

「そ、そうね…スッスッハー!スッスッハー!」

「お母さん、それ深呼吸じゃなくて、ラマーズ法…。」


 何をどう間違えると、そんな間違いになるのか不思議でならない。


「え?そ、そうね…お母さん、間違えちゃったわ。

 深呼吸…そう、深呼吸よね?大丈夫、お母さん、深呼吸くらい出来るわ!」

「うん…って言うか、深呼吸しなくても落ち着けるなら、深呼吸する必要ないからね?」


 本当に大丈夫か?と思ったが口に出さず、その代わりに、自分で部屋のドアを開け家の外に座らせていた母さん…アリスをお姫様抱っこで抱え上げると自分のベッドに寝かせた。

 すると、深呼吸をして落ち着いたお母さん…レイナが、ひょっこりと部屋を覗く様に顔を出していた。


「えっと…どうしたの、お母さん?」

「な、何でも無いののよ?

 ただ、本当にアリス様なんだな~って思って…。

 それで、ルウド…いったいどうしてアリス様がお倒れになったのか分かる?」

「それが分からないんだよ…母さんと一緒に身体強化の練習を開始した所までは良かったんだけど、急に母さんの様子が変になったかと思ったら倒れちゃって…。

 だから、慌てて連れて来たんだけど…どうしよう、お母さん!」

「だ、大丈夫…アリス様は強い人ですから…でも、もしも病気なら移るといけないから、ルウドは部屋の外に出ていなさい?

 お母さんが、アリス様に聞いてみるから…。」


 お母さんはそう言うと、僕を部屋から追い出すと扉を閉めて、母さんに何かを聞いている様だった…。


 残念ながら何を話しているのか分からなかったが、時折、笑い声が聞こえたので、大した事はなかったのだろう…と、僕は推測した。

 それから1時間程経った頃、お母さんは母さん…アリスを連れて部屋から出てきた。


「母さん、もう大丈夫なの?」

「「えぇ…あッ!」」


 に反応して、アリスもレイナも反応してしまう。

 そんな二人の様子を横目に、苦笑しながら名前を付けて言い直した。


「あ~…アリス母さん、もう身体は大丈夫なの?」

「う、うむ…お主には心配を掛けた様じゃな、すまぬ。」


 そう言うと、軽く頭を下げる。


「まったく…アリス母さん、急に倒れるんだから心配したんだからね?」

「わ、妾とて、倒れるなど思わなんだのじゃから、許してたもれ…。」

「こら、ルウド!アリス様を困らせるんじゃありません!」

「えぇ!何で、僕が怒られてるの!?」


 アリス母さんを心配しただけなのに理不尽にも、僕が怒られる様になってしまった。

 とは言え、部屋から出てきたアリス母さんは、何処も悪く無い様なので安心だ。


「それで…アリス母さん、何で倒れたの?」

「そ、それはじゃな…その…つまりじゃな…。」

「つ、疲れ…そう、長旅の疲れが出たんですよね?アリス様?」

「そ、そうじゃ!長旅の疲れが急に出たんじゃ!」


 再び顔を赤く染め、レイナお母さんの言葉に便乗するか如く、慌てて答えるアリス母さん…いったい、僕の部屋で何を話していたんだろう…。

 何はともあれ、長旅の疲れで倒れたと言う割には、元気そうで何よりだ…と僕は思ったのだった。


◇◆◇◆◇


 その日の夜、一騒動があった。


 と言っても、仕事を終えた父さん…ポルンが帰ってきた時に、アリス母さんが居るのを見て慌てた所為で、椅子に躓き転んだだけ…なのだが、そのあまりの驚き様に家族だけではなくアリス母さんも爆笑した。


 その後は、平和な物で、父さんが終始緊張していただけで、二人の母さんも妹のレインも楽しく過ごし…とうとう、寝る時間が来た。


「そう言えば、アリス母さん…今日は何処で寝るの?」

「妾かえ?妾ならば、庭先を借りようかと思っておるが…それがどうしたのじゃ?」

「庭先って、外じゃんッ!?

 この時期に、外で寝たら風邪引いちゃうよ!」

「何じゃ、心配してくれるのかえ?

 じゃが、心配する事はないぞ?妾は風邪など引かぬからな。」

「そんな事言ってもダメだよ?今日だって長旅の疲れで倒れたんでしょ?」


 普段は平気なのかも知れないが、体調が悪いとどうなるか分かった物じゃない。


「そ、それはじゃな…。」

「そうだ!アリス母さん、僕のベッドで寝なよ?

 僕ならリビングのソファーで寝たって平気だから。」

「そうは言ってもじゃな…持ち主を追い出してベッドを占領すると言うのは流石に…じゃな…。」


 だが、この時、思い掛けない事が起きた。


「ねぇ、お兄ちゃん、だったら…アリスさんと一緒に寝たら?」


『ピシッ!』


 妹のレインの何気ない一言に、アリス母さんの動きが止まる。

 いや、今は小さい子供の姿であるとは言え、僕は転生前からの記憶がある訳で…。

 流石に、色々と問題がある発言である。


「それは流石に…。」

「まぁまぁまぁ♪そうね、アリス様ならルウドと一緒に寝ても問題ありませんわね。

 では、アリス様、どうぞルウドの部屋へ♪」

「お、おい、レイナ…いくら何でも、それはアリス様に失礼じゃないか?」


 父さんポルンがお母さん…レイナに言う。

 だが、お母さんの暴走は止まらなかった。


「それなら、アリス様に聞いてみましょう。

 アリス様、ルウドと一緒に寝るのは、そんなに嫌ですか?」

「い、いや…か、構わないぞ…うん…。」


 何となく、お母さんがアリス母さんを追い詰めているイメージが頭に浮かぶ。

 だが、聞いてる事自体はアリス母さんが僕と寝る…ただ、それだけである。

 実際に、アリス母さんは僕の生みの親である。


 まぁ、僕が10歳…子供なので親子で寝た所で問題は無いと思うのだが…何だろう、この背徳感は一体…。


 だが、アリス母さんが、僕と寝ても構わないと了承した所為で、僕達は同じベッドで寝る事が決定してしまった…何とも理不尽な話である。

 その為、僕とアリス母さんは僕の部屋に戻り、同じベッドにはいり寝る事になった。


「え、え~っと…おやすみ、母さん…。」

「そ、そうじゃな…おやすみ、ルウド…。」


 や、やばい…緊張して眠れない…。

 そう思ったが、昼間の身体強化とかの修行の所為で、気が付いたら僕は寝てしまっていたのだった…。

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