21話 厄災との修行【5】

「ハァハァ…ハァハァ…ダメだ、やっぱり上手く出来ないや…。」


 母さんに修行を憑けて貰う事になって3日が経った。

 だが、残念な事に、未だに母さんの言う竜闘気ドラゴニックオーラと魔力を使った身体強化が出来なかった…いや、出来る気がしなかった。


 その代わりと言っては何だが、魔力だけの身体強化の精度は桁違いに上がっている。


「って言うか…竜闘気の制御が難しすぎるよ…。」


 考えてみれば当然の事なのだが、元々が人族だったが転生して、今のになった訳で…人族が竜族に転生した事による障害として、身体を動かす感覚?に、ズレがあるのだ。

 しかも、どう言う理屈か知らないが、母さんの力により、僕の身体は竜の身体ではなく人族の身体で固定されている。

 その為、どうしても竜闘気の制御が上手くいかないのだ。


「お主、竜闘気の制御なぞ、こう…グッと溜めてドバッと開放するだけではないか…そんなに難しい事では無いはずじゃが?」


 それに、この擬音での説明が分かり辛いのも問題だと思うんだよね…。

 何だよ、グッと溜めてドバッとって…。


「それは、母さんが竜だからだよ…僕は、元々、人族だったんだから…。

 あ~ぁ、コレが竜闘気じゃなく、普通の闘気だったらな…。」


 そう…身体強化に使うのが竜闘気ではなく普通の闘気だったなら、Eランクの冒険者だった前世でも多少は扱えていたんだよな…。

 それを考えれば、慣れない竜闘気を操る事よりも、元々操る事が出来ていた闘気を操る方が、何十倍も楽である。


「ん?お主、闘気を使えるなら無理に竜闘気に拘らずとも闘気でも問題はないぞ?

 まぁ、確かに竜闘気での身体強化に比べれば、その威力は段違いに落ちるじゃろうが、身体強化を覚えるだけなら問題はないはずじゃ。

 それに、身体強化さえ覚えてしまっておれば、竜闘気を扱える様になれば、すぐに竜闘気を使った身体強化も覚えるじゃろ。」


 と、母さんは何でも無い事の様に言う。


「あ、あのさ、母さん…この身体で闘気って使えるの?」


 僕は母さんに修行をつけて貰う事になってからと言う物、母さんは最初に僕に竜闘気の使い方を教えてきた。

 そして、何とか竜闘気を使える…とは言わないが、細々と発動出来る様にはなった。

 ただ、その際に、この身体で闘気が使えると言う事は聞いていない。


「何を言っておるのじゃ?当然、使えるに決まっておるではないか…。

 竜闘気とは、竜族のみが許された特殊な闘気と言うだけの事で、竜族以外が使う闘気を竜族が使えぬ筈がないではないか…。」


 と、母さんに呆れられてしまった。


「そ、そうなんだ…。」


 僕は母さんの説明にガックリと頭を垂れながら、闘気が使えるか試す事にした。

 結果は、いとも容易く闘気を使える事を知った。

 しかも、この身体になったからか、今まで使えるだけだった闘気を、思い通りに使える様になっていた。


「は、ははは…自分の身体じゃないみたいだ…。

 って、これで身体強化を試してみたらどうなるんだろ…。」


 思い通りに制御出来る様になっていた闘気と、魔力を出来るだけ均等に混ぜ合わせ、身体に纏わせていく。

 そして、全体に隈無くその力を纏わせた僕は、その力を試す様に全力で動いてみた。


『ドゴッ!ビュン!バキッ!』


 勢いよく踏み出した僕の足下が爆散する。

 風を切って加速した僕の身体は予想外に早く対応が遅れた。

 そして、近くの木に激突し…木が根元から折れた…。


「あいたたた…力加減間違えた…。」


 痛いと言ったが、実際には痛くも痒くもない…反射的に口から出ただけである。

 それにしても、あまりの強化ぶりに、僕の頭は少しだけパニックを起こしかけていた。


「ほほぅ…竜闘気を闘気に変えただけで、身体強化をマスターするとはお主、予想以上に凄いのう。

 まぁ、マスターしたとは言え力加減に関してはまだまだ甘い様じゃがの…。」


 母さんはそう言うと、僕に笑顔を見せてきた。

 そんな母さんに、僕はドキッとしたが、今は母さんの言う通り、身体強化による上昇率に困惑をしていた。


「あのさ、母さん…この身体強化って、凄く強化されてて扱いが大変なんだけど…何かコツって言う物ってあるのかな?」

「何じゃ、そんな事か…そんな物、身体強化に使う闘気や魔力を減らすだけで良いのではないか?」


 と、母さんが何でもない事の様に言う。

 言われてみれば確かに、使う力は大きくなくても良い…僕は少量の力で身体強化をする。

 すると、確かに微かに身体能力が上昇していた。

 慣れてしまえば、何と言う事はない…そこからは力の大きさを調整していき、使い勝手の良いレベルにまで調整をする。


 そして、とうとう僕は自分で制御出来るちょうど良い所を見付ける事が出来た。

 実際に計った訳ではないが、おおよそ身体強化をしていない時の5倍ほどの力が、僕にとって自在に扱えるであろう力だと言う事が判明した。


 ただし、5倍の強化だとパニックになりかけるので普段使うのなら3倍までが無難だと思う。


「あ、ありがとう、母さん…竜闘気での身体強化はまだまだだけど、何とか身体強化を覚える事が出来たよ♪」

「ふむ…竜族なのに竜闘気を自在に扱えないのは残念じゃが、それでもよくぞ身体強化をマスターした。」

「うん、ホント、母さんのお陰だよ!」

「そ、そんな事はないぞ!お、お主が…その、そう!お主が諦めずに頑張ったからじゃ!」


 頬を赤く染め、僕を褒める母さん…だけど、その行為で僕は逆に冷めてくる。

 あのさ、母さん…諦めずにって…たったの3日だよ?

 たった数日頑張っただけで、ベタ褒めはどうかとおもうんだけど…。


「な、何はともあれ…じゃ、身体強化を覚えたとなると、次は何を教えようかの…。」


 と、母さんは呟くと、人族として…ではなく、竜族として…の修行を開始しようとする。

 どうやら、僕に感謝された事により自重を忘れてしまった様だ。


「あ、あの…母さん?」

「大丈夫じゃ、必ずや妾が、お主を立派な竜に育ててみせるから、何も心配する事は無いぞ!」

「いや、だから、僕は人族として冒険者に…。」

「ふむ、そうじゃ、次はアレにしよう…うむ、それが良いッ!」

「いや、だから…僕の話を…。」


 僕の言葉が聞こえてないのか、母さんの暴走が始まる。

 とは言え、こうなった母さんを止める事など僕には出来るはずもなく…どうする事も出来ず、流れに身を任せる事しかできなかったのだった…。

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