52話 調査依頼【4】

「母さん…お金を作るって、どう言う事?

 分かってると思うけど、偽造は犯罪で…バレたら大変だよ?」


 まさかとは思うが、念の為、母さんに忠告しておく。


「ルウド…お主、妾を何だと思っておるのじゃ?

 そうではなく、素材を売るのじゃよ。」


 良かった…どうやら僕の勘違いの様だ。

 だが、ここへ来る前に、殆どの素材は売ってしまったので、売れる様な素材はもう無いはずなのだが?


「今、お主が何を考えておるのか妾には分からぬが、妾の言う素材とは、妾の鱗とかじゃ。

 そこいらにおる下級ドラゴンの素材ですら高く売れるのであれば、黒竜たる妾の素材ならば、高く売れるであろう?」

「へ?母さんの素材?」

「うむ…妾の鱗を数枚売れば、それなりの金額になると思うのじゃが?」

「そ、そりゃ、まぁ…確かに高く売れるとは思うけど…良いの?」

「妾は構わぬぞ?鱗ならば、その内、嫌でも生え替わるからの…それに、魔法の鞄マジックバッグは、あると便利じゃからの…鱗数枚で買えるのであれば、問題ないであろう?」


 どうやら、冒険者ギルドから借りた魔法の鞄の性能に、母さんも有用だと思った様である。


「そ、そっか…だったら、魔導具ギルドへ行ってみよう!

 あそこなら、ドラゴンの鱗も高く買い取ってくれるだろうし…。」


 魔導具ギルド…その名の通り、魔導具を研究し、オリジナル…または、ダンジョンから発掘された魔導具の複製品レプリカを作り出す事に情熱を注いでいるギルドである。

 しかも、素材から魔石まで、色々と拘る連中で高い性能であれば、性能が良ければ金を湯水の如く使う事でも有名だったりする。

 まぁ、一部の人は魔導具を金儲けの手段としか見てない人もいるが…。


「ふむ…ならば、善は急げと言うからの。

 さっそく向かうとしよう…案内するが良い。」

「うん、でも、僕も正確な位置は分からないからね?」


 冒険者ギルドで、有る程度の場所は聞いてはいるが、何せ初めて来た王都である。

 詳しい場所など知るはずがないのだ。

 そんな訳で、僅かな情報を基に手探りで魔導具ギルドへと向かったのだった…。


☆★☆★☆


「ル、ルウドよ…そう落ち込むでない…。

 それに、欲しかった魔法の鞄は両方とも買えたではないか…。」


 そう…僕は魔法の鞄を両方買えたのにも関わらず、この時落ち込んでいた。

 何故なら…母さんが鱗を、たったの3枚売っただけで、魔法の鞄が両方買えるだけの金額になってしまったからだ。


 事の発端は、魔導具ギルドに着いてから素材を売ろうとした時に遡る。


「すいません、素材を売りに来たのですが…。」

「素材…ですか?生憎、今は素材の買い取りをしていないのですが…。」


 と、断られてしまったのだ。

 しかし、ここで素直に諦めないのが母さんである。


「ほぅ…つまり、売りに来た素材が何かも聞かずに、追い返すのが、このギルドの方針だと言うのじゃな?

 ならば、は、他のギルドにでも持って行くとしよう。

 そうさのう…商業ギルドにでも持って行けば、買い取ってくれるじゃろう…ルウドや、商業ギルドへ向かうぞ。」


 そう言って、母さんは魔導具ギルドを出て行こうとする。

 だが、それを聞いて慌てたのは、魔導具ギルドの人だった。


「な、何ッ!?黒竜の鱗だとッ!?

 それは本当なのか?」

「うむ…本当じゃ、じゃが、もう此処に用はないからの…邪魔しては悪いので、お暇させて貰う。」

「ま、待ってくれ!それが本当なら是非、見せてくれないだろうか?」

「はて?素材を買い取らないと言ったのは、お主であろう?


 何故、素材を見ようとするのじゃ?」


「そ、それは…。」


 ここからは母さんのペースで会話が進み、魔導具ギルドが探していた素材として適していたのが滅多に入手が出来ない黒竜の鱗と言う事もあり、母さんにとっては先程の無礼な振る舞いだった事も関係して、通常よりも高額販売となった。

 その結果、魔法の鞄を両方買う事が出来たのだが…。


 ただ、黒竜の鱗の代金で魔法の鞄を買えたと言う事は、苦労して魔物の素材を売ったりした意味が無くなったのと同じ意味である為、僕の苦労はいったい…と、落ち込んでいたのだった…。

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