54話 調査依頼【6】

「それでは、出発である!」


 学者の号令で、アンデッドと化した殺人蟷螂キラーマンティスの通ってきたであろう道を遡って進んで行く事になった。

 それから一時間ほど進んだ頃だろうか?先頭を歩く者達から、疑問の声が上がり始める。


「なぁ、この道で合ってるのか?大型の魔物が通った気配がないんだが…。」

「あぁ、それは俺も気になってたんだが…。」

「いや、だが学者様が決めた道だぞ?間違ってるはず無いんじゃねーか?」


 確かに、大型の魔物が通ったのであれば、あるはずの痕跡が未だに発見出来ないのは可怪しいと、彼らも思い始めたようだ。

 しかし、彼らは間違ってると思っていながらも、『学者』が正しいと信じて、そのまま進む事を選択している様である。


「ねぇ、母さん…この道って、絶対に間違ってるよね?」

「うむ、お主も気が付いておるのじゃろ?」

「うん…あいつが通って来たのなら、まだ何処かに残留魔力が残ってる筈だからね。」


 そう、いくらアンデッドだったからとは言え、魔力は存在するのだ。

 しかも、キラーマンティス以外にも複数の魔物が通ってきた道であるならば、もっと荒れていなければ可怪しいのだ。

 にも関わらず、木々は鬱蒼と生えているし無傷のままである。


「あの…学者の人達に、道が違うのでは?って言わないんですか?」

「はぁ?そんな事言える筈無いだろ?相手は貴族様だぞ?」

…ですか?」

「あぁ、貴族様相手に下手な事を言うだけで、不敬罪になる事だってあるんだ…だから、誰もそんな事言うヤツなんていないだろうよ…。」


 と、半ば諦め気味で言う冒険者達…田舎から出て来たばかりの僕には、到底、理解出来ない話である。

 だが、前を行く冒険者達がそう言うのであれば、素直に従っておいた方が良いだろう。

 特に、不敬罪なんかに問われたら、後が面倒だから…。


 だが、ここでも母さんがやらかしてくれた。


「そこのお主!ちと聞くが、この道、間違っておるのではないか?

 先程から、まったく魔物が通った痕跡がないのじゃが、その事に付いて、どう思っておるのじゃ?」

「ちょッ!?何言っちゃんてんのッ!!」


 慌てて止めに入ろうとするも、既に時遅し…である。


「貴女、素人ですか?まだ一時間ほどしか経っていないのに、痕跡が見付かる筈無いでしょう?」

「そうですね、半日かけて痕跡が見つかれば、御の字と言った所ですね。」

「そんな事より、私達にその様な口の聞き方をすると、不敬罪で処罰しますよ?」


 聞いていれば…何とも理不尽な話である。

 そもそも、現場で残留魔力を探知して行動すれば、もっと早く痕跡を見付けれるのではないか?

 そんな簡単な事も分からないで、何が学者だと言いたくなる。

 だが、今はそんな事よりもやる事がある。


「す、すいません…お仲間がとんだ失礼を…さぁ、向こうへ行くよ?」

「こ、こら!妾に何をする!?は、離さぬか!」

「まぁまぁ、良いから良いから…黙って付いてきてね?」

「ま、待つのじゃ、まだ話は終わっておらぬのじゃ~!」


 これ以上、貴族に関わると問題になりそうなので、半ば無理やり母さんを引き離す。

 その際、名前を呼んで、覚えられない様に注意する。

 もっとも、母さんが本気で拒絶すれば、僕なんかの力では止める事など出来ないのだが…。

 それと、他の人の前では母さんと呼ばない様にも気を付けた。


 流石に、母親同伴でクエストに来てると、他の冒険者に知られると、何を言われるか分からないからだ。

 そして、母さんを貴族から引き離して、元の配置に戻ってきた時、他の冒険者から声を掛けられる事となる。


「おい、大丈夫か?今のは危なかったんじゃないか?」

「あ、はい…ちょっと僕も危なかったかと思いました…。」

「何が危ない…じゃ、間違っておる事を、間違っておると言って何が悪いのじゃ!」

「それはそうなんだけど…相手は貴族だから?

 下手に敵対行動を取ると、後が大変なんだよ…。」

「何を言っておるのじゃ?彼奴らが敵対するのであれば、叩きのめしてしまえば良いではないか!」

「それでも、僕達は今は冒険者として此処にいるんだから、ダメだよ?」


 まぁ、冒険者として此処にいなくても、叩きのめすのはダメなのだが、それはこの際置いておく。

 ただ、冒険者として…と言った事で、S級冒険者にと言う契約を守る事を優先させてくれた様で…。


「冒険者として…か、ならば仕方あるまい、今は引き下がるとしよう…。

 じゃが、妾とて何時までも我慢出来ると思うでないぞ?」

「うん、それはよく分かってるから…。」


 只でさえ、黒竜は一頭で国を滅ぼす程の力を持っている。

 それなのに、母さんはその中でも別格で、破壊神である。

 場合によっては、気分一つで大陸すら滅ぶのではないか?と、普段から心配しているのだ。

 その為、出来る限り、母さんには穏やかで居て欲しいのだが…。


「お主、何か不穏な事を考えているのではないか?」

「そんな事考えてないよ?早く、学者達が間違ってる事に気が付くと良いなって思ってただけだよ。」


 結局、母さんが大人しくしている姿を想像出来ず、ただただ何事もない事を祈る事しか出来ないのであった…。

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とある冒険者の物語~目指せS級冒険者~ 破滅の女神 @goddess_of_ruin

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