8話 犯人捜し

 さて、落とし穴が却下されたからに次の手を考えないといけなくなった…。

 ここで疑問に思うのだが、何故、犯人はわざわざ二度も僕の家を狙った…と言う事だ。


 そもそも、魔導石と言うのは、それなりに普及している。

 いや…今では、大きな街の家庭には必ずあると言っても過言ではない。

 それ故、わざわざ僕の家を選ばなかったとしても他の家から盗めば良いだけな話なのだ。


 それと同じ事になるが、二度も、同じ家から魔力を盗む理由も分からない。

 何故なら、同じ家を狙うと言う事は、警戒している家から盗むと言う事。

 つまり、警備の厳重になった家から盗み出す必要があると言う事だ…。


 確かに、魔導石に溜まった魔力は、普通に考えたらかなりの量の魔力が手に入る事だろう。

 だが、それならば…何故、同じ家を選んだのか?

 そこには、必ず何か理由があるはずだ。


 そんな訳で、狙われた理由が何かを考える為、僕は魔導石を調べる事から始める事にした。


「って言っても…魔導石の構造なんて知らないんだけどな…。」


 とは言え、ただ見るだけなら構造を知らなくても問題はない。

 そして、目に付く紫色の…。


 魔導石の影…ちょうど死角になる部分に、ほんの僅かだが紫色の付着物が見えた。


「何だろアレ…。」


 僕はそう呟くと、その紫色の付着物へと右手を伸ばす。


『ブワシャッ!』


 何と、その付着物は爆発でもしたかの様に広がり、僕の伸ばした手に、まとわり付こうとする…。

 そこで、生前の記憶から、類似した記憶を呼び覚まされる。


☆★☆★☆


 そう…あれは、冒険者に成り立ての頃、見知らぬFランクの冒険者達でパーティーを組んである魔物を狩りに行った時の記憶だ。

 当時、駆け出しだったは、雑魚と言われていた魔物だが数が多いので討伐して欲しいと言う依頼を合同で受ける事にした。


 その結果、6人で受けた討伐クエストは成功した…ただし、帰ってきたのは4人…悲しい事に2人の冒険者は逆に魔物に倒されてしまった。


 その魔物の名は…スライム。

 倒し方を知らなければ…ほぼ、物理攻撃を無効化する厄介な魔物だったのだ。

 否、物理攻撃無効と言うのは語弊がある。


 確かに剣などで斬る事は可能なのだ…ただ、斬った端からくっつく厄介者なのである。

 さらに言うなら、スライムは弱点が多い魔物だ…それ故、その倒し方を知っていれば、確かに雑魚だったのだろう。

 ただ、俺達が相手にしたのが通常種だったのは僥倖ぎょうこうだと言えるだろう。

 多勢に無勢だったとは言え、特殊攻撃をされなかったのだから…。


 だが、初心者と言っても過言ではない俺達が、その弱点など知っているはずもなく、その弱点を見付けるまでに2人の犠牲者を出したのだ。

 そして、その犠牲者となった2人の冒険者達は、スライムの体内で、少しずつ溶かされて吸収されていった。


 皮膚が溶かされ、筋肉や血管が見える…溶かされた事による痛みなのか、取り込まれた冒険者はスライムの中で暴れ回る。


 しかし、逃げ出す事はおろか、抵抗らしい抵抗すら出来ず、更に消化が始まる…。

 血管に穴が空き、大量の血が吹き出る。

 その為、青かったスライムの体内は真っ赤に染まる。


 もっとも、その赤く染め上げた血も、ほんの少しの時間だけで、すぐにスライムに吸収されてしまった…。


 それ故、その惨状を目にした冒険者達は恐怖し我先に逃げだそうとした…元々、長い間パーティーを組んでいた人達とは違い、急遽、結成されたパーティの連携は破綻したのだ。


 では、何故、当時の僕達が助かったのか…それは奇跡に近い偶然だった。

 僕の振り回した剣が偶然にもスライムの核に当たり、スライムを倒す事が出来たのだ。

 しかも、その剣は僕の手から離れ、少し離れた木に刺さったしまった。

 つまり、絶体絶命のピンチである。


 しかし、そんな俺を救ったのは、突如として、その剣に向けて空から一筋の雷が放たれたからである。


『チュドーーーーンッ!!バキバキバキ…。』


 雷を受けた木は、その威力に二つに裂かれ、そして炎上…そのまま、周囲に燃え広がった。

 そして、直ぐ側にいたスライムを焼き殺したのだ。

 偶然にも、スライムの弱点である核への攻撃、そして火に弱いと言うのが分かった瞬間だった。


 それからの行動は早かった。

 幾ら初心者の冒険者でも、それなりの技量がなければ冒険者になれない。

 そして、弱点さえ知っているならスライムは雑魚だと言われる理由の通り、何とかスライム達を全滅させる事が出来たのだった…。


☆★☆★☆


「ヤバイッ?!」


 慌てて、出していた手を引き抜こうとする…だが、それよりも一瞬早く、僕の手には何かがまとわりつく。

 そして、僕の身体から、一気にが奪われたのだった…。


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