24話 時は流れて…。

 母さんとの修行?が終わり、母さんと別れてから更に時は流れた。


 その間、母さんに教わった修行は毎日続け竜魔法はもちろんの事、竜闘気ドラゴニックオーラに関しても不完全ながらも、それなりには使える様になっていた。


 そして、とうとう明後日には僕は15歳の誕生日を迎える様になる所まで時は流れていた…つまり、明後日には僕も一人前の成人としてステータスを手に入れる事になる(予定だ)。


 もっとも、一つ懸念があるとすれば僕はずっと人族の格好をしているが、本当は竜族だと言う事…その為、本当に明後日の誕生日にステータスが貰えるのか疑問でしょうがない。

 何故なら、竜族の成人は150歳を超えてから…と、母さんから聞いていたからだ。


 ちなみに…余談ではあるが、母さんと別れた日、僕は村長に凄く怒られた。

 そりゃそうだ…母さんが飛んでいった時、音速の壁を超えた為、周囲の森に被害が出たのだから…。


 そして、その惨劇を生み出した本人が居ない…となれば、その現場に残された僕が犯人とされ、もの凄く怒られた。

 まぁ、最終的には母さんの所為と分かって貰えて、僕はお咎め無しとなったから良かったが…それでも、ほぼ1日まるまる説教と言うのは辛かった。


 まぁ、それも今では楽しい…いや、楽しくはないが…良い思い出と言うヤツなのだろう。


 そして、朝食を家族揃って食べようとした時、来訪者が現れた…。


「ハァ、ハァ…ま、間に合った…。」


 『ガチャリッ』と音を立てて玄関のドアが開かれたと思ったら、その来訪者は家の中を覗き込んだかと思ったら、先程の一言を発したのである。

 正直、他人の家に許可無く入ってくるのはどうかと思うが、この家の人達は何とも思わない様だ。


「これはこれはアリス様、そんなに慌ててどうしましたか?」

「ようこそ、アリス様…はい、お水です。」


 訂正、何とも思わないのではなく、歓迎ムードだ。

 お父さんポルンお母さんレイナが、母さんアリスを喜んで出迎える。

 前々から思っていたんだけど、両親と母さんの関係って、いったいどう言う関係なんだろう…。


「お兄ちゃん、あの人誰?」


 それとは反対に、まだ幼かった妹のレインは母さんの事を覚えておらず、見知らぬ人が尋ねてきたとしか認識しておらず、キョトンとしている。


「あの人は、僕の本当の母さんだよ。」

「まぁ、あの人がお兄ちゃんのお母様なのね♪」


 そう言えば、レインは初めて会うんだっけかな?

 その所為か、胸の前で手を合わせて祈る様な漢字になっているが…。

 って、妹よ…何か母さんアリスに対しての反応が可笑しくないか?


 正直、こんな説明をして良いのか分からないが、両親も妹には僕が自分達の子ではないと言う事は教えている。

 とは言え、本当の子供と同じ様に愛情を注いで育ててくれているので不満はない。

 むしろ、妹に関して言えば、血の繋がっていない兄妹と言う事もあり、僕のお嫁さんになるんだと張り切っている位だったりする。


 でもまぁ…それも後、あと数年もすれば、心変わりするだろうけど…。


 何せ、僕は明後日、ステータスを手に入れたら、直ぐに旅に出て冒険者となりS級Sランク冒険者を目指すのだから…ね。

 で…だ、それはそれとして、話を母さんに戻そうと思う。


「お帰り、母さん…それで、何をそんなに慌てるの?」


 まぁ、明後日の誕生日に間に合う様に帰ってきたんだろうけど、一応…ね。


「そ、それはもちろん、ルウドの誕生日に間に合う様に帰ってきたかったからじゃ。

 ルウドがまだ家にいると言う事は、妾は間に合ったのじゃろ?」

「まぁ、間に合ったかと聞かれたら間に合ったけど…僕の誕生日、明後日だよ?」

「え゛ッ!?」


 次の瞬間、母さんの動きがピタリと止まる…。


「…母さん、大丈夫?」

「だ、だだ、大丈夫じゃ、うん、全く持って大丈夫じゃ。

 むしろ、妾の何処が大丈夫じゃないと言うのじゃ?」


 目を泳がしながら母さんが僕に聞いてくる。

 うん、これは関わらない方が無難だ…と、母さんの性格を知っている僕は関わらない事を決めた。


「そうだね、僕の勘違いだったみたいだ、あはは…。」


 僕がそう言うと、少しだけではあるが母さんが落ち着きを取り戻した。

 もっとも、僕が言った台詞は感情の籠もっていない棒読みではあるが…。


「そ、そうじゃろ?いったい、妾の何を心配していたのじゃ、まったく…。」

「それで、母さん…僕の誕生日を気にしていたみたいだけど、祝いに来ただけなの?」


 そう…正直な話、これが一番の疑問なのだ…そもそもの話、どうやら僕の誕生日だから戻ってきたと言う話だが個人的に誕生日だからと帰ってきた事自体、僕にとっては不思議でしょうがないのだ…。


 だって、考えて欲しい…生まれたての僕を今の両親に預け、10年間放置していたのが母さんだ。

 5年掛からず戻ってきたのは凄いとは思うが…まぁ、成人を迎える事になる特別な誕生日であるのは間違いないが、そんな事を気にする様な親ではない…と言うのが、僕の中での母さんのポジションなのだ。


「も、もちろんじゃ!まぁ、その後、近くの冒険者ギルドまで案内してやるつもりではあるがの…。

 それに、ちゃんと誕生日プレゼントも用意しておるぞ。」


 母さんはそう言うと胸の谷間から大きめの羊皮紙(スクロール状の物)を取り出し、僕に渡してきた。


「…母さん、これは?」

「プレゼントじゃ、開けてみるが良い。」


「うん…。」


 そして僕は母さんに言われるがまま、羊皮紙を開く…すると、そこに書かれていた物は…。


「…地図?」


 そう…それも、そこらの雑貨屋で売られている様な、どこか適当な地図…等ではなく、かなり精巧に描かれている地図である。


 ある意味、国境こそ書かれていないが世界地図…ワールドマップと呼んでも良いほどの物である…。

 って、言うか…ダンジョンの位置まで描かれているのってどうよ?

 これを国王にでも献上すれば、一生…どころか、数世代遊んで暮らせるほどの報奨金が貰えるのでは?と思うほどの一品だった。


「ねぇ、母さん…僕にコレをどうしろと?」

「どうしろとは?お主は冒険者になるのであろう?

 ならば、地図の一つや二つ持っていなくては困るであろう?

 それ故のプレゼントじゃ。」


 うん…そうだね、確かに、母さんの言う事は正しい。

 が、残念ながら、その地図の規模が違う…。


 そもそもダンジョンだけでなく、他国の重要拠点から秘密鉱山までもが、しっかりと記入されている地図を、まだ冒険者にすら成っていない僕に渡してどうしろと言うのだ…。




「母さん、冒険者が使う地図って言うのはね…基本的に自分の国って言うか、活動する周辺の地図であって、他国まで載っている地図じゃないんだよ?


 しかも、こんな精巧な地図なんて、この国の王様だって持っていないと思うよ?」


「そ、そうなのかえ?ま、まぁ…アレじゃ、何と言ったかの…そうじゃ、大は小を兼ねると言うヤツじゃ!」

「そ、そうだね…。」


 どう見ても規模が大き過ぎるだろ!と

 僕は呆れながら、母さんに同意する…もう僕の手には負えない案件だ。


 それにこの地図は大きすぎて使えない。


 とは言え、これ自体は凄く精巧に描かれている為、貴重品だ。


 ただ、このままで使えないとは言うだけで、部分的に書き写して何枚もの地図にすれば問題なく使える。


 もちろん、そのままの縮図を書き写すのではなく、敢えて縮図を変える…デフォルメと言うのだろうか?


 敢えて下手に写す事により、他人に見られても良い様にする必要があるのは手間ではあるが、正直、このワールドマップはかなり有効なのは間違いない。


「とりあえず、ありがとう母さん…僕、大事に使うよ。」


 実際に、使う機会は皆無に近いだろうが…と、心の仲で呟いた。

 とは言え、手間は掛かるが、僕の為に母さんが用意してくれた地図だと言う事。

 その重要性も、冒険者になる僕には重宝する物だった。


 なので、改めて気持ちを整理したら、自然とお礼の言葉が口を出ていた。


「う、うむ…。」


 母さんは、それだけ言うと、何故か顔を真っ赤にして俯いてしまったのだった…。

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