23話 厄災との別れ
竜魔法を覚えてからと言うもの、母さんのテンションが思った以上におかしくなった。
まぁ、相変わらず
そんなある日、母さんが僕に言った。
「お主には悪いのじゃが、ちと急用が出来てしまったのじゃ。
すまぬが、お主の修行はこれまでと言う事になるが良いかのう?」
「う、うん…急用なら仕方がないんじゃないかな?」
残念と言えば残念だが、それでも今の僕であれば、そんじょそこらの魔物なんて余裕で倒せる様になっている。
まぁ、それでも油断をすれば怪我とかも負うので、油断だけはしない様にしている訳だが…。
「そ、そんなに寂しがるでない…わ、妾もさび…じゃない、かな…でもない…ゲフンフゲフン…。
妾もお主の修行を見てやると言ったのに、すまぬとは思うのじゃが何せ妾しか対応が出来ぬ案件みたいでの…また少しの間、留守にする事になったのじゃ。」
そっか…また少しの間留守にするのか…。
ちなみに、母さんは僕を産んで直ぐに、少しの間留守にした…そう、ほんの10年ほど…。
つまり、今度、いつ帰るか分からないと言うのと同意語である。
まぁ、それでも僕もいつまでも親に甘えている子供じゃない。
いや、まぁ…確かに体に関してはまだ成人するには5年ほど掛かるのだが…。
「大丈夫だよ、母さん。
僕だって、何時までも子供じゃないんだから…でも、約5年経ったら僕は村を出て冒険者になるからね?」
「うむ、お主はS級冒険者になるのが夢じゃからのう…妾も、お主が冒険者になるのは賛成じゃ。」
「うん、だから…僕の15歳の誕生日までに帰って来なかったら、母さんを待たずに冒険者登録しに行くからね?」
「な、何じゃとッ!?つまり、お主の誕生日までに帰って来なかったら、お主の勇姿を見られないと言う事ではないか!
こ、こうしてはおれん、い、急いであの阿呆どもを駆逐せねば!」
母さんはそう言うと、ドラゴンへと姿を変え飛んでいった。
「あ~ぁ…母さんったら挨拶も無しに飛んでっちゃった…。」
まぁ、母さんは元々、ドラゴンなのだから、その手の事には疎いのかな…。
少し寂しい思いなったが、僕は家に戻る事にし先程、母さんがいた場所に背を向けた。
そして、一歩、足を踏み出した瞬間…。
『ズシンッ!!』
背後に腹に響くほどの大きな地響きが聞こえた。
慌てて振り向いた僕の目に写ったのは…。
「…母さん?」
そう、母さんそっくりなドラゴンである。
ちなみに、僕にはドラゴンの顔を見分ける事は出来ない。
それ故、母さんなのか母さんに似たドラゴンなのかは判断が出来なかったりする。
「そうじゃ、妾じゃ。」
うん、どうやら母さんで合ってたみたいだ。
ってか、ドラゴンの姿でも普通にしゃべれるんだ…。
「もしかして、もう用事は済んだの?」
だとしたら、とんでもない早さだ。
「さ、流石に妾でも数秒で用事を済ますのは無理じゃぞ?
そ、そうではなくての…別れの挨拶をじゃな…。」
「あぁ、そう言う事ね…うん、僕も母さんと挨拶が出来なくて、ちょっと寂しかったんだ…。」
「そ、そうじゃったのか…それはすまぬ事をした。」
「ううん、気にしないで。
それで…別れの挨拶って、何をするの?」
人族であれば、普通に『いってらっしゃい』とかで済むのだが、母さんは竜族だからね…。
「そ、それなのじゃが…。」
ドラゴンの姿で急にモジモジする母さんに僕は困惑する。
何故かって?この様な動作をした母さんの行動は、僕にとって良い思いがないからだ。
「母さんッ!」
続きを言わない母さんにイライラして来た僕は、怒鳴る様に催促する。
すると母さんは1度頷くと意を決して続きを言った。
「そ、その、じゃな…い、いってらっしゃいのチュ~をじゃな…。」
母さんの台詞に僕は唖然とする…。
僕の前世の記憶が確かなら、そんな事をするのは恋人同士か新婚さん…もしくは、一部の貴族位じゃなかったかな?
「って、チュ~ッ!?」
「す、すまぬ…今言った事、忘れて欲しいのじゃ…。」
母さんの台詞にビックリする…が、一部の貴族や新婚の仲間が頬にキスをするのを前世で何度か見た事があるからか、直ぐに冷静さを取り戻す事に成功する。
そして…。
「まったく、仕方がないな…ほら、母さん、頭下げて?」
「う、うむ…。」
僕に言われるまま、素直に頭を下げる母さん…その結果、僕の目の前には大きな竜の顔があり…何だか奇妙な感じがする物の、そっと、その頬へとキスをする。
母さんだと思うと、かなり恥ずかしいけど我慢しながらもキスしたを訳だが…母さんだと思わなければ…何でドラゴンの頬にキスしてんだろ…と、気分がサゲサゲである。
でもまぁ、これは人族の姿では無く、ドラゴンの姿だからこそ戸惑いつつもキスが出来たんだけど…ね。
「で、では、いって来るのじゃ♪」
いってらっしゃいのキスを貰えた事に、気分がアゲアゲになった母さんはそう言うと、再び空へと飛び上がる。
が、今度の勢いは先程とは違い、その影響は凄かった…。
『ビュオーーーッ!ドパンッ!!』
いきなり激しい突風が吹いたかと思ったら、ほんの僅かな一瞬で母さんの姿は遥か上空にある。
そして、大きく羽ばたいたと思ったら、今度は空気の壁を突き破って見えなくなってしまった…。
「これ、村長に怒られないかな?」
母さんのしでかした惨状…所々、枝やら幹やらが折れた森を見て、僕は大きなため息をつくのだった…。
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