31話 冒険者への道【1】

「なッ!?此処から北へ…だと?」


 守衛と言ったら良いのかな?

 何故か門で受付をしていた人が、驚きの声を上げる。


「あ、あの…北からだと何か問題でもあるんですか?」

「え?い、いや…その…君達は本当に北から来たんだよね?」


 から…って、何かの駄洒落ですか?

 と、くだらない駄洒落だと思いつつも守衛さんの様子が気になったので続きを催促してみる事にした。


「はい、それが何か?」

「と、言う事は…迷いの森を抜けて来たって事で良いのかい?

 だけど、迷いの森に村があるなんて聞いた事もないんだけどな…。」

「あの…すいません、迷いの森って何ですか?」

「あぁ、此処からでも少し見えるだろうけど、北にある森は『迷いの森』と言って凄腕の冒険者でも道に迷う程の土地なんだよ。

 そんな訳で、素人同然の冒険者が何人も戻って来ない物だから、別名『帰らずの森』なんて呼ばれてる危険な森なんだよ。」

「そうなんですか?でも、僕もそうですけど、村の人達は誰も迷った事なんて無いですよ?」

「ふむ、そうじゃな…確かに妾も迷った事などないのぅ。」

「だよね?」


 やっぱり、母さんも迷った事がない様だ。


「そ、そうなのかい?」


 迷った者がいない…そんな言葉に疑問を持ったのか守衛さんが確認の意味を込めて再度聞いてくる。


「はい…そもそも、あの森で人が迷うなんて初めて聞きました。」

「う~ん…何はともあれ、特に問題はない様だし町への入場は認めよう。

 あ、そうそう…門の所で入場料の徴収をするから、一人、銀貨3枚を用意しておくと、入場がスムーズになるからね。」

「はい、分かりました!一人、銀貨3枚ですね。」


 村に関しては、本当にあるのか…と、不審に思われはした物の、特に異常が無かった為、僕達は無事にクラウドの町への入場を許可された。

 なので、町へ入る為の入場料を門の所で支払うと、はれて僕達はクラウドの町へと足を踏み入れたのだった…。


◇◆◇◆◇◆◇


「そんな訳でクラウドの町へ入ったんだけど…母さん、冒険者ギルドの場所って知ってる?」

「お主、そんな事も知らぬのか?

 とは言え、妾もクラウドの町に入ったのは初めて故、場所など分かるのじゃが…。

 そうじゃ!そこらに居る者に尋ねたら良いのではないか?」

「そう言えばそうだね…初めての町だから浮かれてて気が付かなかったよ…。」


 何でこんな事に気が付かなかったのだろ?

 まぁ、母さんが居なくても、すぐに気が付いたと思うけど…と、心の中で強がりを言ったみた。


「あの、すいません…つかぬ事を伺いますが、冒険者ギルドが何処にあるかご存じないでしょうか?」


 ちょうど近くを歩いていた人がいたので、これ幸いとばかりに冒険者ギルドの場所を尋ねる。


「何だ坊主、冒険者ギルドの場所を探してるのか?

 それならほれ、あそこの背の高い建物がそうだぞ!

 それはそうと、坊主みたいな子供が冒険者ギルドに何の様だ?」

「あの…コレでも15歳なので大人なんですが…。」


 坊主と言われて、ちょっとガッカリする。

 まぁ、確かに背が小さいのは自覚していたんだけど…ね。


「おっと、それは悪かったな!と言う事は、冒険者にでもなるつもりなのか?」

「はい、S級Sランク冒険者になるのが夢なんです!」

「ハッハッハッ!確かに夢を持つ事は良い事だ!

 ただなぁ…坊主みたいなのが冒険者ギルドに行くと絶対に絡まれるだろうから、俺も付いていってやるよ!」

「良いんですか、オジサン!」

「オ、オジ…なぁ、坊主…こう見えても俺はまだ20代なんだぞ?

 そこは、お兄さんって呼んでくれても良いじゃないか?」

「え?えぇぇぇッ!?」


 まさか20代の方だったとは思わなかった。

 どうやら老け顔を気にしていたのか、悲しそうな顔で訂正を要求してきた。

 まぁ、確かに20代でオジサン扱いは、いかがな物だろう…と思うので、僕は素直に訂正する事にした。


「あ…ごめんなさい、お兄さん!」

「い、いや、分かってくれたら良いんだよ、分かってくれたら…まぁ、その…なんだ、案内してやるから付いてきな?」

「はい、よろしくお願いします!」


 この間、母さんは少し離れた所で、僕の行動を見守っていたのだった…。


◇◆◇◆◇◆◇


「なぁ、坊主…さっきから気になってるんだが、親しそうに坊主の後ろを歩いてる綺麗な女性は知り合いか?」

「後ろですか?えっと…もしかして、アリスの事ですか?」

「へ~、アリスさんと言うのか…ちなみに、お姉さんか何かなのかい?」

「いえ、僕の母さんですよ?あ!もちろん、義理ではなく僕を生んでくれた母親ですよ。」

「そ、そうか…人妻なのか…それじゃ、声なんて掛けれないか…。」

「もしかして、お兄さんの好みのタイプとか?」

「な、何の事かな?オジサンには何の事か分からないな~。」


 オジサンって…お兄さんと言えと言ったのは貴方ですよね?


「えっと…お兄さん、今の、聞かなかった事にしときます。」

「あぁ、そうしてくれると助かる…っと、坊主、着いたぞ。

 ここがクラウドの冒険者ギルドだ。」


 話ながら歩いていた所為か、いつの間にやら僕達は冒険者ギルドに到着した様だ。


「お兄さん、道案内ありがとう御座いました。」

「良いって事よ!先輩冒険者としての勤めってヤツよ!

 そうそう…そう言えば、自己紹介がまだだったな…俺はD級冒険者のバッソだ!

 よろしくな、後輩!」

「バッソさんですね、僕の名前はルウドです、よろしくお願いします先輩!」


 顔は老け顔だけど、優しくて良い人の様だ。


「ルウドだな?覚えた。

 それと、さん付けはいらない、バッソだけで良いぞ!」

「で、でも…先輩に対して呼び捨ては…。」

「ルウド、冒険者ってのは基本的に敬語は使わない物なんだぞ?」

「そうなんですか?」


 生前の僕以外も、敬語使ってる人いたんだけどな…。


「あぁ、中には敬語を使う者もいるにはいるが…敬語なんて使ってると下に見られてバカにさせる。

 それに、冒険者って事は同業者でありライバルでもあるが…仲間でもある。

 そんなヤツに敬語なんて、逆に失礼って話だ。

 あ…だが、例外として、ギルドマスターとかには敬語を使った方が良いぞ?」

「ははは、そりゃそうですよ…。」


 ふむふむ…転生までにどれだけ時間が掛かったか分からないけど、どうやら、この時代でも基本的な部分は同じ様だ。

 これなら、何とか冒険者としてやっていけそうな気がしてきた…と、一安心したのだった。

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