32話 冒険者への道【2】
冒険者ギルドに入ると、今まで聞いた事もない喧騒に包まれていた。
「おい、奥の倉を開けてポーションの備蓄を全部引っ張り出してこい!
あ、それと閃光弾も残らず持ってこいッ!」
「り、了解であります!」
「おいおい、何でこんな辺境にドラゴンなんて出るんだよ…この町は安全じゃなかったのかよ…。」
「クロノ、泣き言いってんじゃね~!出ちまったもんはしょうがないだろ!覚悟決めろやッ!!」
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…って無理!相手は黒竜だぞ?
俺は逃げるぞッ!!」
えっと…これは何の騒ぎなのかな?
ドラゴン?ドラゴンなんてそんなに珍しい物でも何でもない様な気がするんだけど…。
第一、ドラゴンと言えば、ぶっちゃけ僕の後ろにいる母さんもドラゴンなんだし…。
「まぁ、良いや…何かよく分からないけど、受付は空いてる様だし手続きをしよう。」
そう言うと、母さんを僕は伴って受付へと向かう。
まぁ、母さん同伴だから下手なテンプレでも来て、先輩冒険者に絡まれるかと思ったが、みんな忙しそうにしていて、幸いにも僕達の事を気にする者は誰もいなかったりする。
そのお陰で、あっさりと受付へと行く事が出来た。
「あ、あの…すいません、ちょっと良いですか?」
「よ、ようこそ冒険者ギルドへ…ほ、本日はどの様なご用でしょうか?」
「あの…冒険者登録に来たんですが、大丈夫ですか?」
「え…ぼ、冒険者登録ですか?」
そう言った受付嬢さんは、一瞬、キャトンとした顔を見せたかと思うと、周囲を見渡しオロオロとしていた。
「も、もしかして…冒険者登録出来ないんですか?
こう見えても先日、15歳の誕生日を迎えて、ちゃんとステータスは手に入れてますよ?」
「い、いえ、そう言う事ではなくてですね…今は、その…タイミングが悪いと言いますか…その…。」
「タ、タイミングですか?」
もしかしたら、以前と違い、決まった日にしか冒険者登録する事が出来ないとか、受付をする時間帯と言う物があるのだろうか?
「えぇ、つい先程、北の森に巨大な黒竜が降りたのを目撃した冒険者が駆け込んできたんです。
こんな田舎町にドラゴンが来るだけでも大事なのに、まさかの黒竜ですよッ!?
この町の冒険者達の戦力でどうにかなる相手だと思えませんが…それでも冒険者総出で対処しないと町が滅ぶかもしれないんです!
そんな時に冒険者登録なんてしたら、いくら初心者だと言っても戦闘に駆り出されて死んじゃいますよッ!!」
「マ、
黒竜と言えば、一匹いれば一国を墜とす事が可能と言われるほど強力な力を秘めたドラゴンである。
そんなドラゴンが母さん以外にもホイホイと現れるなんて信じられない出来事だ。
って…アレ?今、何か引っ掛かる物が…。
僕は、その原因を確かめるべく、受付嬢さんに再度確認をする。
「すいません…もう一度確認したいんですが、何処に黒竜が出たんですか?」
「ですから、北の森ですってば!」
北の森だって?それなら先程、僕達が出てきた場所である。
「それって、どれほど前の話なんですか?」
「え?確か…30分ほど前の事だったと思いますが、それが何か?」
可笑しいな…その時間帯に黒竜なんて現れていたら、僕達が見落とす筈が無いんだが…。
う~ん…でも、何か見落としている気がするんだけど…何だろう…。
「えっと…30分ほど前なんですよね?
それって、僕達が森を抜けた頃だったと思うんだけどな…。
ねぇ、母さん…母さんは何か見掛けなかった?」
「はて?妾は何も見掛けておらぬぞ?
そもそも、この辺りには妾以外の黒竜など居ないはずじゃか?」
「そ、そうなんださ…だけど、言われてみれば村でもドラゴンを目にする機会は幾度とあったけど、確かに母さん以外の黒竜は見た事がなかったよな…。」
すると、受付嬢が横から声を掛けてきた。
「あ、あの…先程から貴方達は何を言ってるのですか?
それに黒竜がどうとかって聞こえたんですが…。」
「あ、いえですね…僕達、その黒竜が目撃された時間帯に、ちょうど森から出てきたんですよ。
でも、僕達以外は誰も居なかったですよ?」
「えッ!?貴方達、北の森から出てきたんですか?」
「はい、それが何か?」
この町に入る時にも言われたが、北の森からだと何か問題があるのだろうか?
「それが何かって…この町の北の森と言えば『迷いの森』、もしくは『帰らずの森』何て言われる危険地帯なんですよ?」
「あ~…そう言えば、同じ様な事を門番さんに言われましたね。
その所為か、冒険者ギルドまでD級冒険者のバッソさんが此処まで案内してくたんです。」
「あら、そうなんですか?
バッソさんったら、相変わらず面倒見が良いんだから…。」
そう言う受付嬢さんの頬がほんのりと紅く染まった。
「って、そうじゃなくて!
あの…本当に北の森から来たんですか?」
あ、何か妄想してると思ったら急に復活した…。
まぁ、本当に黒竜が現れたとしたら、のんびり妄想なんてしてられないんだけど…。
「えぇ、北の森から来ましたよ?」
「その時、黒竜は見なかったんですね?」
「はい、僕達は見てま…せ……ん?
…あの、すいません、ちょっと待って下さいね?」
「あ、はい…どうぞ?」
話の途中だが何やら嫌な予感がした為、受付嬢には申し訳ないが、話の中断の許可を貰い、僕は母さんの方を向く。
「ねぇ、母さん…確認なんだけど、北の森から出る時って、僕達しか居なかったよね?」
「うむ…魔兎や魔狼とかは見掛けたが、少なくとも妾以外のドラゴンなどは居なかったぞ。」
「それで…母さんに質問だけど、母さんは黒竜だよね?」
「そうじゃな…まぁ、妾は黒竜と言っても破壊神と言った方が人間達には馴染みがあるかも知れぬがの?」
「もしかしてなんだけど…その目撃された黒竜って、母さんの事なんじゃ…。」
まだ、現時点では憶測でしか無いのだが、この予想は正解だとしか思えない。
何せ、僕だけならまだしも、母さんに存在を気が付かせないドラゴンがいたら、黒竜がいたと言われるより、そっちの方が驚きだからだ。
「な、何じゃとッ!?妾はちゃんと、隠蔽の魔法を…おや?
よく考えたら防風の魔法を掛けた後、そのまま飛び立った気がするのう…まぁ、些細な事じゃな。」
「母さん、多分それ…些細な事じゃないよ?」
ドラゴンには些細な事かも知れないが、人族にその感覚は当てはまらない。
「そうなのかえ?人間と言うのは、今も昔も細かい事に拘る種族じゃのう…。」
すると、僕達の話を黙って聞いていた受付嬢さんが、こちらに恐る恐る声を掛けてきた。
まぁ、黙って聞いていたと言うか、受付の目の前で話をしていれば、嫌でも聞こえていただけ…なのだろうが…。
「あ、あの…聞き間違いかも知れませんが、そちらの女性が黒竜と聞こえたのですが聞き間違いでしょうか?
もし、聞き間違いじゃなかったとしたら…それはどう言った事でしょうか?」
流石に人の会話に、勝手に入り込むのは申し訳ないと思ったのだろう?
えらく腰の低い話し方で聞いて来た。
「何じゃ、お主、妾の事が気になったのかえ?」
「は、はい…少しだけですが…。」
「ふむ…確かに、お主が聞こえた様に妾は黒竜じゃ。
そして、こやつが妾の息子でな?冒険者になりたいと言うから住んでた村から一番近い、この町まで、妾の背に乗せて、この町まで飛んで来たと言う訳じゃ。」
「そ、そうなんですね………って、私は騙されませんよ!どうみても貴女、人族じゃないですか!」
確かに、受付嬢の言う通り、今の母さんなら何処から見ても人族にしか見えないよね…。
「失礼な!妾は誰もが畏れるドラゴンぞ!人族如きと一緒にされる謂われはないぞ!」
ドラゴンにはドラゴンのプライドがあるのだろう。
人族と言われた事を侮辱されたと思った様だ。
こうなると周囲に被害が出る可能性がある…急いでフォローしなくては…。
「ちょっと待った!今、母さんはドラゴンの姿じゃなく人の姿になってるからッ!!」
「なぬッ!?そう言われればそうじゃったな…お主に付いてくるのにドラゴンの姿では色々と迷惑が掛かると言われて、人の姿に化けていたのじゃった…。」
「そうそう、だから今の母さんの外見は、ただの人族の女性だよ。」
「ふむ…そう言う事なら非は妾にありそうじゃの…お主、すまんかったの。」
「い、いえ…それより、本当に貴女が黒竜なんですね?」
まぁ、仮に冗談だとしても、黒竜だ…なんて言ったら正気を疑われても仕方の無い話ではあるのだが…。
「うむ、間違いなく黒竜じゃ!
それも、そんじょそこらの黒竜ではなく破壊神と呼ばれておる程の…な。」
「…すいません、少し席を外させて貰います、少々お待ち下さい。」
一瞬、何か考えるそぶりをした受付嬢、次の瞬間には席を離れる事を告げる。
「うむ、了解した。」
母さんが許可を出すと、フラフラとした足取りで席を離れた受付嬢さん。
慌てて席と離れ、奥にいる年配の方の方へと向かって行った様だが、そんな状態で動き回って大丈夫なのだろうか?と、僕は見守っていたのだった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます