41話 期待の新人(ルーキー)【1】
「では、くれぐれも気を付けるのじゃぞ?」
「そ、そんなに心配しなくても大丈夫だって…ただの薬草取りなんだから…。
そりゃ、いきなりDランクからスタートしたのには驚いたけど、今回の依頼クエストはFランクのクエストなんだから問題なんてあるはず無いじゃん?」
実際、前世でもFランクの薬草取りは、いつも無傷で完了させていたし…。
それに、前世と比べて今の僕は、かなり強い…何せ、前世では碌に使えなかった身体強化の魔法だって問題なく使えるし、その上…だけではなく、更に上の強化すら可能なのだ。
しかも、アレックスさんは僕にCランクでも十分勤まると言ってくれている。
ならば、たかが薬草取りくらい、余裕でこなせなくてはSランクなんて夢のまた夢だ。
「そうは言うが、妾は心配なのじゃ…お主に何かあったら妾は…妾は…この世界を滅ぼしてしまうかもしれん!」
「いや、それは本気マジで辞めようね?」
そして、母さんの台詞を聞いていた、もう一人の人物が顔を青くしつつ、横から口を挟んできた。
「ワ、ワシからもお願いします!どうか、どうかそれだけはご勘弁を!!」
そう…何を隠そう、もう一人と言うのはギルドマスターのエルモア、その人である。
そして、今、僕達がいる場所こそ、エルモアさんの執務室である。
実は、Dランクの冒険者カードを貰った後、さっそく依頼を受けようとした。
しかし、時間が遅いからと次の日にクエストを受ける様になったのだが…何故か、母さんがずっと一緒にいたのである。
そして…いざ、クエストを受けようかとした時、ギルドマスターであるエルモアさんに呼び出されたと言う訳である。
まぁ、エルモアさんは、僕が冒険者になるにあたり、母さんと話す機会に恵まれた。
もっとも、エルモアさんには不幸だったかも知れないが…。
その結果、エルモアさんは、母さんが只の黒竜では無く『破壊神』と呼ばれる黒竜である事を知った。
その為、母さんが未だにクラウドの町に居る事に対し、常に警戒態勢で事を臨む様になっていたのである。
まぁ、ここまでは問題は…あるが、問題と言う程ではない。
だが、そんな母さんが僕の行動を監視する様に冒険者ギルドに居座るとなれば話は変わってくる。
『破壊神』である母さんの機嫌を、ちょっと損ねるだけで、クラウドの町は、そんなに時間を掛けずとも廃墟と化す。
そんな母さんのストッパー役として、エルモアさんが僕に目を付けない訳がない。
何せ、エルモアさんの目の前で母さんを叱り、暴走を何度も止めたのだから…。
そんな訳で、クエストへ行く前に執務室に呼び出され、母さんへの説得をしていた…と言う訳である。
「ううむ…やはり妾も一緒に行った方が…。」
「いやいやいや、どこの世界に母さんを連れて保護者同伴でクエストに行く冒険者がいるんだよ!」
「何じゃ、お主ルウドは妾が一緒だと不服と申すのか?」
「不服とか不服じゃないとかの問題じゃなく、僕はもう大人なの!
頼むからもう子供扱いしないでよ!
他の冒険者と一緒にって言うのなら分かるけど、親と一緒なんてありえないから!」
そもそもな話、冒険者ですら無い母さんを連れて依頼なんてやれる筈ない。
只でさえ、実技試験でアレックスさんとの試合で注目されたのに、母さんも一緒とか恥ずかし過ぎだ。
どんな罰ゲームだって言いたい。
「つまり…妾も冒険者ならば付いていっても良いと言う訳じゃな?」
「母さん、僕の話聞いてる?」
「聞いておるぞ?冒険者なら付いていって良いのじゃろ?」
「いや、だから母さん以外の冒険者ならって話で…。」
「確か、エルモア…じゃったな?妾にも冒険者カードとやらを寄越すが良い!
妾もルウドと共に冒険者とやらになろうではないか!」
「だから、人の話を聞けーーー!」
だが、そんな僕の叫びは母さんに聞こえないばかりか、エルモアさんにも聞こえなかった。
「は、はい!急いでご用意させていただきます!
それで、ランクは如何致しましょう?私の権限ではBランクまでなら何とかなりますが…。」
「ふむ…どうせ、妾はルウドと一緒に行動するする故、ルウドと同じで良いぞ?
所詮、そんな物は飾りじゃからの。」
「ですよね~、では、急いでご用意させていただきますので、少しの間、お待ち下さい。」
エルモアさんは、母さんにそう言うと大急ぎで部屋を出る。
そして、僕はと言うと…母さんの自由奔放さに頭を抱えるのだった…。
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