40話 実技試験【3】
『ボキッ!』
と、言う音と共に何かが宙を舞う。
観客席からだと気が付くのが遅れたかもしれないが、当事者である僕達には直ぐにそれが何か分かった。
「いや~、まさか此処までとは…流石に木剣では耐久性に問題があったか…。
とは言え、私の木剣が折れた事を考えると、この勝負、私の負けみたいですね…。」
「そ、そんな…アレックスさん、まだまだ余力残ってるじゃ無いですか!」
そう、先程から本気を出すと言っていたが、それでもまだ実力を残したままなのだ。
そう言う意味では、流石、Sランク冒険者と言った所か?
「うん、確かに私にはまだ余力はある…でもね?
今戦ってるのは君の実力を測る為の試験なんだ。
だから、冒険者としてやっていけそうか限界まで見極めるつもりだったんだよ。」
「あ…そうでした…。」
アレックスさんに言われて、今、試験中だった事を思い出す。
「(それに、これ以上続けると、本気でどちらか倒れるまでやってしまいそうだしね…。)」
「え?何か言いました?」
「いや、何も?それより、エルモアさん…私は、ルウド君なら十分戦えると思うのですが、いかがでしょう?」
あれ?確かに、何か呟いた気がしたんだけ気の所為だったのかな?
まぁ、そんな事より…アレックスさんは僕は合格だと思ったみたいでエルモアさんに確認するを行う。
「そ、その様だな…と言うか、どこの世界にFランクの冒険者が試験とは言えSランク冒険者に勝つ者がいるんだ…しかも、彼はゴニョゴニョ…。」
「まぁまぁ、それに関しては〖剣士〗と言う事にでもしておけば問題ないのでは?
全力ではなかったとは言え、私の本気を正面から打ち破る程の実力があるんですから…誰も疑わないと思いますよ?」
「…先程の聞こえてたのか?」
「えぇ、こう見えても私は耳には自信がありますので。」
「そ、そうか…じゃが、その案は頂いた。
それに、お主がルウド君の師匠だったってのも上手く使わせて貰う事にしよう…良いな?」
「えぇ、私は構いませんよ。
彼に基礎を教えたのは事実ですから…。」
「うむ…ならば、ルウド君をDランク冒険者に認める事にしよう。」
「Dランクですか?彼の実力ならCランクでも十分務まるのでは?」
「いや、それはワシも否定出来んのだが…それでも、何事も下積みと言うのは大事でな…そもそもDランクと言うのも、ギルドマスターとしての権限を使っての昇級であって、これだけでも十分に特例なのじゃぞ?」
そうだったんだ…それでも、いきなり生前のランクを超えたのでビックリである。
「そう言われたら、そうですね。」
「そんな訳じゃ、ルウド君も納得してくれたかの?」
「は、はいッ!」
転生する前はEランクの冒険者で大した事など何も出来なかったのに、まさか初日で転生前よりも高いランクの冒険者になる事が出来たのだ。
確かにまだ下級ランクである事には変わりがないが、不服なんて、あるはずもない。
「うむ、なら手続きをするからルウド君は付いてきてくれたまえ。
それと、アレックス君は、受付で報酬を貰ってから帰る事を忘れない様に頼むぞ?」
エルモアさんはそう言うと、踵を返して訓練場を出ていく。
その為、エルモアさんの後を付いてくる様に言われていた僕は、そんな彼の後ろ急いで後を追う。
その際、アレックスさんから『Dランク、おめでとう』と言われ、嬉しくなった。
もちろん、『ありがとうざいます、師匠』と言って頭を下げた…とだけ、言っておく。
◇◆◇◆◇
その後、ギルドマスターの執務室へと戻ってきた僕は、エルモアさんから少し冒険者になるに当たっての注意事項を説明された。
ちなみに、その間に冒険者カードの発行を部下にする様に命令していた。
そして…説明が終わった頃、エルモアさんは部下から受け取った一枚のカードを僕に渡してきた。
「では、これが君の冒険者カードとなる。
ちなみに、先程も説明した様に、再発行する事は可能だが、問題はお金と時間が金が多く掛かるので無くさない様に注意する様に。」
「はい!」
「それから、今回は特例でDランクからのスタートとなった訳だが…事前に説明した様に、可能であればFランクやEランクのクエストも何度か受ける事を勧める。
まぁ、あまりお金にはならないだろうが、冒険者としてやっていくのに必要な知識を得るのに一役買っているからの…。」
「了解です、ならFランクのクエストから受ける様にしていきます。」
「うむ、期待しておるぞ。
では、これにてルウド君の試験を終了とする…それと、色々な意味で気を付けて帰る様に…。」
「はい、失礼します!」
色々な意味…と言うのが、よく分からないが、確かに冒険者カードを紛失したら大変なので気を付けなければいけないだろう。
それに、訓練場で母さんがやけに興奮していたから、何かトラブルを起こしていないか心配だ。
そんな事を考えながら一階の広場へと降りてきた時、初めてエルモアさんの言った事の意味が分かった。
「おぅ!坊主、さっきの試験見てたぞ!お前、すげーじゃねーか!
しかも、あのアレックスさんの弟子なんだって?」
「ねぇ、君!私達のパーティーに入らない?」
「いや、俺達のパーティーに入れよ!」
等の肯定派な意見と…。
「ケッ…ちょっと強いからって良い気になりやがって!」
「せいぜい、他のヤツの足を引っ張らない様にするんだな!」
「チッ…俺だって本気を出せば、アレっくらい…。」
等の反対派の意見が、あちこちから飛び交う。
どうやら、僕の試験を沢山の人が見ていた様で、様々な意見や臆測が飛び交っている。
そんな中、人混みを割る様に、一人の女性が近付いてきた。
「お主、良くやった!まぁ、妾はもっと高いランクでも良いのでは?と思ったのじゃがのぅ…それでも、無事、冒険者になれたのじゃから良しとするがよい。」
そう、その女性とは母さんである。
「あ、ありがと、母さん…でも、少しは気を抑えようね?
周囲の人、怖がってたよ?」
「ふむ…その件については妾も先程から反省しておる。
自分でも気付かぬ内に、興奮しておった様じゃ。」
「ははは…でも、母さんのお陰で、何とか戦う事が出来た…だから、もう一度言うね?
母さん、色々、ありがとう!」
「不意打ちじゃとッ!?ダ、ダメじゃ…もう我慢出来ん…。」
母さんがそう言った次の瞬間、僕は母さんに抱きしめられていたのだった…。
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