39話 実技試験【2】

「もう1段階上げても大丈夫かな?」


 そう言うとアレックスさんが身体に纏う魔力の量がさらに跳ね上がる。

 それに引き替え、こちらはと言うと…正直、は、もう1段階だけで打ち止めである。


 つまり、次にアレックスさんが仕掛けた場合、その時点で敗北が決定すると言う事に他ならない。


「それでも、負けたくないんだよな…。」


 ならば…と、僕は只の身体強化ではなく、闘気も使った身体強化を使う事を決めた。


 【魔闘術まとうじゅつ】…発動ッ!

 そう心の中で叫ぶ…それを合図に、僕の身体の中では魔力と闘気が混ざり合い、暴れ出す。

 次の瞬間、僕の身体は今までの身体強化の魔法とは別次元と呼べるほど強化され事となる。


【魔闘術】…母さんから教わった身体強化で、本来ならば竜闘気ドラゴニックオーラと魔力を混ぜ合わせた身体強化ではあるが、実際にはスキルとしてその名前がある訳では無い。

 その為、〖スキル〗としてでは無く【個人の技術】として存在する強化方法だったりする。


 ただし、これならば、理不尽に強化されたアレックスさんと互角に戦えるのではないだろうか?


「おや?ルウド君、何かスキルを使ったのかい?」

「あ…やっぱり、分かります?」

「あぁ、先程までの君とは、まるで別人の様だからね。」

「…そ、そうですか?」


 つまり、しっかり警戒され隙は殆ど無くなったと言えよう…。

 まったく、そのまま油断していてくれたら良かったのに…。


「さて、お互いに準備出来たようだし、まずは様子見って事で…行くよ?」

「は、はい!」


 僕が返事をしたか、しないか…と、言うタイミングでアレックスさんが動き出す。

 だが、今回は先程とは違い【魔闘術】のお陰か、しっかりと反応する事が出来た。


『カン、カン、カカカン!』


 お互いに、木剣で攻撃と防御を繰り返す。

 どうやら、【魔闘術】の方が優秀な様で、次第にアレックスさんが防戦一方になって、距離を開けた。


「ははは…まいったな…まさか、これだけ強化した私の方が打ち負けそうになるとは流石に予想してなかったよ。

 だけど、それだけ強いと面白くなって来ちゃったな…これなら本気を出しても大丈夫そうだ。

 ルウド君、悪いんだけど…ちょっとの本気に付き合ってくれるかな?」


 どうやら僕の攻撃はアレックスさんの闘争本能に火を付けた様で、笑顔が消えた。

 しかも、今まで優しそうだった雰囲気が180度変わって、怖いくらいである。


「お、おい、アレックス…お前、何を…。」


 アレックスさんのと言う言葉を聞いて、ギルドマスターのエルモアさんが焦り出す。

 そりゃそうだ、今のアレックスさんの笑顔を間近で見たのなら…。


「…行くぞ?」


 背中にゾクッと寒気がし、僕は木剣と左腕を交差する様にして腹を守る。

 微かに見えた剣筋から、やはり狙われたのは、僕の腹の様だ。

 読み切った!と思ったのも束の間、アレックスさんの木剣が僕の持っていた木剣へと迫り…。


『バキッ!……ドカッ!』


「グハッ!」


 気が付くと、僕は数メートルの距離を吹き飛ばされ、壁に背中を叩き付けられ、一瞬、意識が飛びそうになっていた。

 だが、それでも【魔闘術】のお陰でダメージは受けた物の、怪我はしていない。

 ただし、木剣は壊れ左腕は痺れている。

 まさか、互いの木剣がぶつかった衝撃で木剣が折れるとは思わなかった。


「へ~…これも防ぐ…か。

 どうする?まだ続けるか?続けるならもう少し強く行くが?」


 流石、Sランク冒険者…と、言う所か。

 正直、これ以上の攻撃なんて受けたくもない。

 受けたくないのだが…練習とは言えSランクの人との実力差を知るにはまたとない機会である。


 それに、まだ僕は全力を出し切っていない…。

 ならば、僕のするえき事は…。


「つ、続けたいと思います。

 ですので、木剣を新しいのに替えさせてください。」

「あぁ、構わないよ?

 ちょうども、木剣を変えたいと思っていたんだ…。」

「…ありがとうございます。」


 僕はそう言うと、壊れた木剣を予備の木剣と交換する。


 そして、再びアレックスさんと対峙する。

 しかし、先程の攻撃を放ったアレックスさんからの重圧プレッシャーで、足がガクガクと震え出す。


「ルウド君、無理しちゃダメだよ~!アレックスも手加減しなさ~い!」

「ルウド君、もう降参しても良いんだよ~!」


 あぁ、この声はアリサさんとマリアさんかな?


「ルウドよ、その程度の者など本気を出して倒してしまうのじゃ!」


 って、この声は母さんッ!?しかも、その程度って…僕にとっては脅威でしかないんですけどッ!?


「へ~、ルウド君…相手に、まだ本気じゃなかったのか…なら、君の本気とやらを見せて貰えるかな?

 もちろん、も手加減無しの本気の本気を見せるからさ…。」


 アレックスさんが再び笑顔になる…だけど、その目は笑っていなかった…。

 いや、どちらかと言うと、獲物を見付けた様な目だ…しかも、殺気が混じっている。

 このままでは、僕は殺される…そう感じた僕は、覚悟を決めた。


「ま、待つのじゃ!もう終了じゃ!」


 慌てて止めにはいるエルモアさん…だが、逆にアレックスさんはそれが合図だと言わんばかりに、僕へと攻撃を開始する。

 しかし、その時には僕も奥の手を発動していた。


【魔闘術】…これは母さんから教わった身体強化の劣化版である。


 元々、僕は人族として暮らしていた為、母さんから教わった方法には慣れていなかったのと僕自身のレベルが低く身体への負担が大きく、短時間しか発動出来なかったと言う欠点があった。


 その為、馴染みのある闘気を代用していたのだ。

 これならば、劣化版とは言え、ある程度の持続時間もあるので実用的だった。


 しかし、今は…格上、しかもSランクのアレックスさんが本気で仕掛けてくる。

 ならば、こちらも本気を出さないと失礼になる…いや、下手をすると師匠と呼べなくなるだろう。

 結果、本来、誰にも見せるつもりがなかった本来の身体強化まで発動させられた。


「【竜魔闘術りゅうまとうじゅつ】発動…。」


 誰に聞かせるでもなく、ボソリっと小さな声が漏れる。

 その結果…今までにない程の力が身体から湧き出てくる。


『ボキッ!』


 っと、次の瞬間、訓練場に何かが折れる音が響いたのだった…

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