38話 実技試験【1】

「「身体強化ッ!」」


 審判を買って出たギルドマスターこと、エルモアさん。

 そのエルモアさんの『始め!』の合図でアレックスさんと僕は同時に身体強化の魔法を発動させる。


「さて、ルウド君…あれから、どれほど強くなったか見せて貰おうかな。」

「はい、師匠!よろしくお願いします!」


 次の瞬間、僕は訓練用の木剣をアレックスさん目掛けて全力で投擲する。

 もちろん、Sランク冒険者であるアレックスさんに効くとは思っていない。


 案の定、『カーン!』と音を立てて弾かれてしまった。


 だが、その木剣を弾き飛ばすと言う、僅かな隙を突いて、既に僕は母さんから教わった攻撃を発動させていた。


「〖竜拳ドラゴンナックル〗!」

「うおッ!」


 最初から当たるとは思ってはいなかった、アレックスさんは驚きの声を上げると共に、大きく体勢を崩しつつ躱す。

 これはチャンス!と思い、次の技に繋げる。


「〖竜尾脚りゅうびきゃく〗!」


 簡単に言うと、後ろ回し蹴りなのだが、回転させた脚を竜の尻尾に見立てた攻撃である。

 だが、只の後ろ回し蹴り…と、呼ぶには、この技の威力が高すぎた。

 しかし…それも、当たれば…と、条件が付くのだが…。

「なんてね!」


 そう言って、今の体勢を崩したのは隙を作る為の演技だったと、アレックスさんは木剣を使い、攻撃を受け流そうとした。

 だが…その目論見は、上手くいかなかった。


『バキャッ!!』


 何と、受け流そうとした筈の木剣が、脚に当たったかと思った瞬間、何と木っ端微塵に吹き飛んだのだ。

 流石に、これには僕自身も驚いた。


「ちょっと待った!」

「はい!」


 アレックスさんは待ったを掛けると、砕け散った木剣を集めると、部屋の隅に置く。

 その後も、箒と塵取りを持ってきて掃除をする。


「うん、これで良し!お待たせ、さぁ、続きをしようか。」


 アレックスさんはそう言うと、先程の位置に戻ると、僕と同じ様に素手で構える。


「あ、あの…剣は使わないんですか?」


 そう、アレックスさんお職業は剣士である。

 故に、剣を使ってこそ真価を見せる事が出来るのだ。


「あ~…でも、私の剣は先程の攻撃で壊れちゃったし…それに、ルウド君も素手でしょ?」

「え?確かに、今は素手ですが、さっき投げた木剣は拾って使うつもりですよ?」

「えッ!そうなのッ!?」

「はい…じゃなきゃ、最初から木剣なんて使いませんよ…。」

「…ご、ごめん…もう1回待って貰って良いかな?」

「は、はぁ…。」


 僕から同意を得ると、アレックスさんは壁に置いてある、予備の木剣を取りに行く。

 修行を付けて貰った時あの時にも思ったが、アレックスさんって地味に天然入ってるんだよな…。

 そんな事を考えていると、準備を完了させたアレックスさんから、再開の声を掛けられた。

 ちなみに、アレックスさんから待ったが入ったので、この隙に木剣を回収する事にした。


「さっきは油断してたから、木剣をダメにしちゃったけど、今度は大丈夫。

 今度は、ちゃんと木剣まで闘気で覆ったから、そう簡単には壊れないよ。

 って、事で再開といこうか。」

「はい!」

「…コホン!審判はワシなのじゃが…そこん所、どう思っておるのかのう?」

「「………。」」


 やばッ!?素で忘れてた…だが、アレックスさんも同様だったみたいで、冷や汗を流している。


「え、えっと…エルモアさん、再開の合図をお願いします。」


 結局、そう告げるのに十数秒の時間を要し要し、アレックスさんは何とか告げたのだった…。


「それでは、再開じゃ!」


 エルモアさんはそう言うと、上げていた右腕を振り下ろす。

 その合図を皮切りに、僕はアレックスさん目掛けて突進をする。

 だが、その動きを読んでいたかの様に、僕の目の前に木剣の切っ先が迫っていた。


「うわッ!」


 咄嗟の事に僕は慌てながらも、その場を飛び退く。


『ドカッ!』


 次の瞬間、先程まで僕がいた空間を、アレックスさんが木剣で攻撃していた。


「おぉ~!流石、ルウド君だ…今のも避けるんだね?

 なら、もう1段階、強化をしても大丈夫かな?

 少し強めに行くから気を付けてね?」


 すると、アレックスさんから更なる魔力を感じた。


「じゃあ…行くよ?」


 そう呟いたアレックスさんの姿が目の前から消えた。


「はい?」


 確かに目の前にいたはずのアレックスさんが、一瞬のうちに姿が見えなくなる。

 そんな異常な光景に、思わず間抜けな言葉が口から出た。

 アレックスさんの姿を見失う…すなわち、やられる…。

 そう感じた瞬間、偶然にも床に僕以外の影を見る事が出来た。


 そう…今、まさに僕に木剣を振り下ろそうとしている人影を…。

 その場にいたらやられる…そう感じた僕は咄嗟に、床を蹴って前へと転がり回避をする。


『チッ』と言う音と共に、左肩に痛みが走る。

 ちょっと掠っただけと言うのに、受けたダメージが予想以上にでかい。


「ありゃ、今のも避けるか…。」

「避けてません…掠りましたけど?」

「そうなんだ…なら、もう1段階上げても大丈夫かな?」


 そう言って、アレックスさんは魔力を高めていく。

 …流石に、先程の攻撃でも反応しきれなくなっているのに、もう1段階ギアを上げられたら、無事では済まない。

 なら、僕も…身体強化のギアを…と考えたが、相手は、あのアレックスさんである。

 ならば、同じ様に身体強化を上げたところで、所詮は焼け石に水。

 なら、今の僕に出来る事は…。


 こんな所で使用するのは、他の人に手の内を明かすと言う意味で、あまり褒められた事では無いのだが…相手がアレックスさんだから…と、割り切って僕は母さんから教わった身体強化を使う覚悟を決めたのだった…。

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