42話 期待の新人(ルーキー)【2】

 それから暫くして、ギルドマスターのエルモアさんが戻ってきた。

 もちろん、その手には一枚の冒険者カードが…しかも、何故かBランクと書いてある。

 確か、母さんは僕と同じランクにしろと言っていた筈なんだが…。


「何じゃ、このカードは?」

「何と申されましても…冒険者カードで御座いますが…。」

「そんな事は分かっておる!妾が言いたいのは『何故、ルウドと違いBランクなのだ!』と言う事じゃ。

 お主、もしや…妾とルウドの仲を裂こうとしておるのかえ?」


 突如、殺気を放ちだした母さんに、エルモアさんもビックリ仰天である。


「め、めっそうも御座いません!で、ですが…流石に破壊神アリス様にDランクの冒険者カードを渡すのは如何な物かと…。

 むしろ、Sランクのカードを渡せない事が申し訳ない位でして…。」


 確かに、エルモアさんの言う事は、ごもっともな意見である。

 母さん一人で国どころか、大陸だって滅ぼせる存在なのにSランクじゃないのは不自然である。

 だが、他の冒険者ギルドの承認無くランクを上げれるのは最大でBランクまで…そう考えれば最大級の評価と言えるだろう。


 むしろ、母さん破壊神に冒険者カードを発行して問題にならないのだろうか?


「お主の都合など知らん!妾のランクはルウドと同じにするのじゃ!

 でなければ、ルウドと共に冒険が出来ぬではないか!」

「いや、だから…何で母さんも僕と一緒に冒険する気になってんだよ!」

「な、何じゃと!?もしや、ルウドは妾と冒険したくないと言うのか!」

「う、うん…さっきから何度もそう言ってるんだけど…。」


 保護者同伴なんて恥ずかし過ぎじゃないか…。


「そ、そうじゃったのか…すまんかった…。

 なら、せめてもの詫びとして、この大陸を破壊して…。」


 母さんが悲しそうな顔をすると共に、とんでもない事を言い出した。

 ってか、大陸破壊って…せめて、国くらいに…って、そうじゃなく、破壊したらダメでしょ!!


 いや、そうじゃなくて!お詫びと言うなら、何もしないで、マジでッ!!


 クッ!流石に大陸破壊なんてしないと思う…思うのだが、相手は破壊神…この愚行を止めるには…。


「ま、待った!な、何か急に母さんと冒険したくなったかな~って…。」

「そ、そうなのか?ルウドがそこまで言うのであれば、この大陸を破壊しては冒険出来なくなってしまうのう…やはり破壊するのは止めじゃ!」


 母さんは、そう言うと嬉しそうにニコニコと笑顔を見せてくれた。

 たかが、僕との冒険をするか、しないか…って、だけで大陸が滅ぶとかどんな悪夢だよ。

 ってか、この大陸が滅んだら…他の人達はともかくとして、僕を育ててくれた両親(義理)や妹(義理)まで死んでしまうじゃないか!


 それなら、まだ僕が生け贄になれば我慢すれば良いだけの話である。


「そ、そうだね…だから母さんは、何でもかんでも破壊しちゃダメだよ?マジで…。」

「そうは言うが…妾は『破壊神』じゃぞ?」

「そうかも知れないけど…破壊神だからって、破壊しなきゃダメって決まりはないはずだよ?

 逆に、母さんじゃなきゃダメな事だってあるはずだよ?

 その時こそ、母さんが破壊すれば良いじゃないか!」


 自分で言って置いて何だが破壊神が破壊しないと駄目な時って、どんな時だよ…それって世界が滅ぶ時ですか?って思うのは僕だけだろうか?


「そうなのか?じゃが、ルウドがそこまで言うのならそうなのかも知れんのう…分かった、妾も極力、破壊するのを押さえようと思う。

 じゃが、妾は破壊神じゃ…故に、誤って破壊した時は許すのじゃぞ?」

「まぁ、その時は仕方がないと思うけど…取り返しの付かない破壊だけは勘弁して欲しいかな…。」


 例えば、何の罪もない人を殺してしまうとか…。

 いや、罪があっても極力、殺人はダメだと思うけど…。

 もっとも、盗賊とかだと討伐対象になるから一概にダメと言えないのが微妙な所ではあるのだが…。


「手加減が大変そうじゃな…ところで、お主、そこで何をしておるのじゃ?」


 母さんは、ギルモアさんに向けて質問をする。


「あ、あの…その…Bランクの冒険者でもDランクの冒険者と一緒に行動する事は可能なのですが…Dランクにしないとダメですか?」

「…お主、妾の質問の答えになっておらぬぞ?

 じゃが、ルウドが妾と一緒に冒険したいと言った故、今は気分が良い。

 故に、妾はお主の質問に答えてやろう…そうじゃな、妾としてはルウドと共に成長とやらをしたいと思う。

 じゃから、ルウドと同じ冒険者ランクを希望するのじゃ。」

「そ、そうですか…でしたら、急いでその様に変更しますです、はい…。」


 エルモアさんはそう言うと、冒険者カードに何らかの魔法を掛けBランクと書かれた冒険者カードをDランクへとランクダウンさせる。


 ランクダウン…本来なら、依頼を失敗しまくった時に、信用出来ないと言う事で罰としてランクを下げる行為である。

 ただ、まだ持ち主が決まってない状態である為、罰則ではなく只の変更で済んだ様だ。


「え~、これでランクは変更されたのですが…アリス様、申し訳ありませんが、こちらのカードにで良いので垂らして貰えませんか?

 そうしないと、冒険者カードの登録が出来ませんので…。」


 このカードに血を垂らすと言う作業は、僕もカードを発行して貰う説明の時にした行為である。

 何でも、DNAとか言う情報をカードに登録するとか何とかで…失われた技術ロストテクノロジーで作られているらしく、今では誰も原理が分からないそうだが…。


 ただ、それにより、当人しか使えなくなると言うのだから凄い技術だと思う。

 何故なら、本人確認の身分証明としと使える為、冒険者ギルドが運営する銀行機能が使えるのだ。

 余談だが、他の冒険者ギルドでも、情報を共有している為、この町以外でも利用可能なのは有難い話である。


「ふむ、血を…じゃな?」


 母さんは、そう言うと右手で左手の手首を…。


『シュパッ!ダバダバダバ…。』


「ちょッ!?何やってるの母さんッ!!」


 僕は慌てて、母さんの手首を押さえて止血をしようとする。


「何を…って、この者が血を垂らせと言ったではないか。」

「いやいやいや、エルモアさんは『血を一滴』って言ったんだけどッ!?」

「そうじゃったか?じゃが、コレだけ血があれば問題ないじゃろ?」

「問題大ありだよ!エルモアさん、立ったまま気絶してんじゃん!?

 ってか、早く手首の傷治療してよ!」


「おぉ、そうじゃった…つい忘れておった。」

「いや、それ忘れちゃダメなヤツだからッ!?」

「文句の多い子じゃな…〖完全回復パーフェクトヒール〗…これで良いじゃろ?」

「あ…うん、そうだね…。」


 人の心配を他所に、母さんは回復系の最高位にあたる魔法を詠唱無しに発動させる。

 貴女、何処の聖女様ですか?と言うツッコミが頭を過ぎる。


 とは言え、母さんの傷は跡形もなく消えているので、もう大丈夫だろう。


 その後、暫くしてギルモアさんが再起動し、貴重な竜の血が…と、膝と手を付いて『orz』みたいな体勢で嘆いていたが、僕と母さんは冒険者カードを手に入れた事で依頼クエストを受けれる様になったのだった…。

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