36話 冒険者への道【6】

 死霊魔術師ネクロマンサー…そう適性を判断された僕は、ギルドマスターであるエルモアさんに、それでもSランク冒険者になりたいのだと告げた。


「しかしじゃな…今のギルドにおいて死霊魔術師と言うのは、嫌悪される対象じゃ。

 その事を、本当に君は理解しているのかね?」


 そう言われて、僕は言葉に詰まった。


「それがどうしたのじゃ?冒険者と言うの物は、強ければ問題ないのではないか?」

「ひぃぃぃぃぃぃッ!」

「じゃから、一々、悲鳴をあげるでない!」

「す、すいません、つい…そ、それについてなのですが、例えどれだけ強くても、その…態度とかが悪ければ当然評価も下がる訳でして…死霊魔術師と言うだけで、評価が下がる傾向にあるのです。」

「何じゃと?お主、妾のルウドをそこらの痴れ者と同じだと言うのか?」

「め、滅相もございません!わ、私はその様な事は思わないのですが、周囲の冒険者達がその様な事を考える傾向があると言う話でして…。」


 そこまで話を聞いた母さんが少しだけ悩むそぶりを見せたかと思うと、問題発言を落とした。


「ふむ…ならば、その冒険者達とやらを滅ぼせば問題ないのじゃな?」

「そ、それは困ります!そんな事になったら、ギルド自体が成り立たなくなります!」


 母さんが、本当に冒険者を排除しかねない事を分かってるエルモアさんが涙目になりながら母さんに辞める様にお願いをしている。


「って、母さん…そんな事したら、僕が冒険者になれなくなっちゃうじゃないか!

 絶対に、そんな事しちゃダメだからね?」

「そうなのか?ルウドそこまで言うなら、辞めておく事にするが…しかし、何か良い方法は無い物か…。」

「そう言えば、エルモアさん…確か、冒険者になるには適正の他に、どれだけ戦えるかと言う試験があるんじゃなかったですか?」


 いや、まぁ…前世では、この実技だけで適性検査なんてなかったんだけど…ね?


「おぉ!ルウド君、よく知っていたね…実は、その通りなんだよ。

 その結果次第では、冒険者ランクを決める評価に繋がる。

 もし、成績が良ければEランク、場合によってはDランクからのスタートとなる可能性もある。

 もっとも、どのランクからスタートしても最低限、基礎となるFランク等の下位クエストもこなして貰う事になるけどね。」

「ふむ…何故、下位のランクのクエストを受けねばならんのじゃ?」


 ここまで黙って聞いていた母さんが、下位クエストを受ける事に関して、疑問をぶつけてきた。


「ッ…そ、それはですね…基本を知らないままだと、後々、大変な事になる事が判明したからです。

 以前、他のギルドで実際に起きた事なのですが…スキップでDランクになった冒険者に、たまたまFランクのクエストを依頼する事があったのですが、その際に基本を知らなかった所為で、危うく死人が出掛けた事がありまして…。

 二度とその様な無様な事が起きない様にと…最低限、何度かは下位クエストも受けて、基礎から学ぶ事が義務付けられたのです、はい。」


 あ、最初は我慢したのに、最後は『はい』って付けちゃったよ…折角、悲鳴を上げるの我慢したのに締まらないな…。

 何はともあれ、基礎が大事なのは伝わった。


「ふむ、確かにそれを聞くと、妾も基礎と言うのが大事だと分かったのじゃ。

 して、聞くが…ルウドの実技とやらの試験は何時するのじゃ?

 先程の説明では、死霊魔術師が不利なのは分かったが…冒険者になれない訳ではないのじゃろ?」

「え、えぇ…それにつきましては、適性が死霊魔術師と言うだけで、職業が決まった訳ではありませんので…。」

「ならば、早くルウドの実技試験とやらを済ませるがよい。

 じゃが…その試験官とやらは、覚悟を決める事じゃな。

 正直、妾が言うのも何じゃが…妾が直に鍛えたからの…ルウドは強いぞ?」


 その台詞セリフを聞いてエルモアさんの顔色が変わる。

 そりゃ、街一つを簡単に落とせる程の存在から、僕が強いと聞かされたら驚くのも無理は無いだろう…。


「だ、大丈夫です…奇跡的にも今、当ギルドにはSランク冒険者がおりましてな…黒竜討伐に参加して貰おうと思っていた所です。

 その者に試験官を任せれば…ひぃぃぃぃぃぃ!」


 急に悲鳴を上げるエルモアさん、その為、僕は何事かと思い母さんの方を向く。

 すると、そこには少しだけ殺気を出しながら笑顔をエルモアさんに向けている母さんがいた。


「…母さん、何やってるの?」

「何を…とは、何の事じゃ?」

「気付いてないの?母さん…殺気、漏れてるよ?」

「おや?妾とした事が…妾を討伐などとぬかすのでな、つい殺気が漏れてしまった様じゃ、スマンスマン。」

「…それ、謝る気ないでしょ?」


 あまりにも軽い謝り方に、僕はツッコミを入れた。


「うむ…そもそも妾を討伐すると言うからには、自分達が討伐される事も考えねばなるまい?

 その覚悟が無い者が、気安く討伐するなど言う物ではないのじゃ。」


 あ~…それに関しては、母さんの意見が正しいと思う。

 殺そうと言うのだから、当然、返り討ちにあうのも覚悟しなけりゃダメだ。

 それが嫌なら、命懸けで逃げるのが当たり前だ。

 まぁ、その相手から逃げ切れるかは別の問題ではあるが…。


「でも…今のは、母さんが悪いと思う。

 だって、エルモアさんは、仮に僕が強くても大丈夫な試験官がいると言いたかっただけじゃん?

 それなのに、殺気を放つのはエルモアさんが可哀想だよ…。」

「仕方がないのう…ルウドがそこまで言うのであれば、今回は見逃す事にするかのう…。」


 すると、エルモアさんは僕の手を取り涙ながらに、言葉を綴った。


「ル、ルウド君、君は命の恩人だ…ワシに出来る事があれば、何でも協力させて貰うおう、困った事があったら何でも言ってくれたまえ!」


 と、そう言って母さんを止める事が出来た僕に、何故か最後の希望を見付けた様な顔で僕にお礼を言って来たのだった…。

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