35話 冒険者への道【5】

『コンコンッ!』


 エルモアさんが母さんの発言にドン引きになる中、僕達が居る応接室のドアがノックされる。

 その音により、エルモアさんが少しだけ我を取り戻す。

 すると、続けざまに女性の声がした。


「ユーリです、ギルドマスター、言われた通り宝珠オーブをお持ちいたしました。」

「あ、あぁ、ユーリ君か、入ってきたまえ。」

「畏まりました。」


 ユーリと呼ばれた女性は『ガチャリ』と応接室のドアを開けると、足音一つたてず、スススッと部屋の中に入ってきた。


 よく見ると、最初に僕達の相手をしてくれた受付嬢の後ろにいた女性で、小さな眼鏡を掛けたモデルみたいな体型の女性だった。


「ギルドマスター、オーブはどちらに置きましょうか?」

「そうだな、彼の前に置いてくれれたまえ。」

「はい…お客様、前を失礼いたします。」


 ユーリさんはそう言うと僕に軽く頭を下げると目の前のテーブルに直径20cm程の透明な球を置いた。


「忙しいの所をスマンな、もう下がってくれて構わないよ。」

「はい、では、ご用の時はお呼び下さい。」


 なるほど…どうやら、この透明な珠が宝珠オーブと呼ばれる物なのだろう。

 だが、このオーブとやらで一体何をするつもりなんだろう…。

 生前?前世?その時の冒険者登録には、こんな物無かったからな…。


「あ~その、何だ…そんなに緊張する必要は無いぞ。

 そのオーブは、その人の魔力の量や適正を測る為の魔導具でな?

 謂わば強さの目安を見極めようと言う訳じゃ…。

 ちなみに…じゃが、この結果に関係なく誰でも最初はFランクから始まるのじゃが、結果次第では昇格する為の審査が緩くなるのじゃよ。

 それに、先程も言ったがそのオーブを使えば適正も分かる。

 つまり、コレからの戦闘スタイルを学んでいく上で、自分の適正を知っていれば効率良く成長を促す事が出来ると言う訳じゃな。」


 と、エルモアさんが教えてくれた。


 へ~、こんな物があるんだ…僕も前世の時に、このオーブを使う事が出来ていたらEランク止まりの落ち零れなんかじゃなくCランク位まで成長出来ていたのかな…と思うと残念でならない。


「さて、ルウド君じゃたかな?

 そのオーブに手を当て、魔力を流してみてくれんかの?」

「わ、分かりました…魔力を流せば良いんですね…。」


 僕はそう言うと、恐る恐る手を伸ばしオーブにそっと触れる。

 そして言われた様に、魔力を少しずつ流していく。


『ポワーン…。』


 次第にオーブが光だし、そして…オーブの中に濃い紫色の霧が発生し始めた。


「な、何じゃと…まさか、そんな事が…。」


 オーブの様子を見て、冷や汗を流すエルモアさん、一体どうしたのだろうか…。


「何じゃ、お主、何をそんなに驚いておるのじゃ?」

「ひぃぃぃぃ!」

「じゃから、何度も言うが妾が話し掛けたくらいで恐れるなと言うておろうに…。

 まぁ、よい…そんな事よりも、何を驚いておったのか説明せい。」

「は、はいです、ハイッ!お、恐れながら説明をさせていただきたく存じ上げます。

 で、ですが…何と言うかその…ですね。」

「これ、ちゃんと説明せぬか。」

「ゴホッゴホッゴホッ!し、失礼しました…。

 え~その~ですね、ルウド様の魔力に関しては問題はありませんです、はい。

 いえ、問題ないというよりBランク…いえ、Aランクの冒険者にも匹敵するほど強力だと思われます、はい。

 で、ですが適正の方がその…冒険者として活躍出来るかと言われると、その…ですね…。」


 ギルドマスターと言う立場なのに、母さんの出方を何度もチラチラと確認しながら説明していくエルモアさん。

 聞いている側にとって、もっとしっかり話せよ…と思う様な喋り方である。


「ふむ、魔力は十分なのであろう?それなのに何が問題なのじゃ?」


 シビレを切らした母さんが続きを促す。

 『ゴクリッ』と僕にまで聞こえるほど音を立てて、口に溜まった唾を飲み込み、意を決してエルモアさんが口を開いた。


「じ、実はですね…冒険者ギルド全体でも数件しか報告がされていない特殊な適正なのですが、ルウド様の適正は…『死霊魔術師ネクロマンサー』で御座います。

 で、ですが、その…死霊魔術師…ネクロマンサーと言うのは、この世界において忌み嫌われる存在でして…その…Sランク冒険者になるのは、非常に厳しいかと…。」


 初めて聞く死霊魔術師と言う言葉…だが、その適正は、忌み嫌われる存在で、冒険者になるにあたり非常にマイナスになるものだった。

 だけど、それでも僕はSランク冒険者になりたい訳で…。


「あ、あの…その死霊魔術師と言うのを隠して冒険者になると言うのは不可能なんですか?

 僕はどうしてもSランクの冒険者になりたいんですッ!!」


 気が付いたら、そんな事を叫んでいたのだった…。

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