34話 冒険者への道【4】

 『こうしちゃおれん!』と、ギルドマスターのエルモアさんが、黒竜の脅威が去ったと言う事を冒険者達に伝えるべく、慌てて席を立ち部屋から去っていった。

 もっとも、最初から脅威はなかったのだが…ただし、それはこちらからの立場から見た場合であって、普段からドラゴンなんて物を目にする機会がない人達にとってはドラゴンが現れただけで大騒動なのである。


 ただまぁ…普通で考えれば当たり前か…。


 何せ、ドラゴンと呼ばれる竜であるなら単体でも街の一つや二つ、いとも容易く滅ぼす事が出来ると言われているのだから…。

 しかも、ドラゴンはドラゴンでも上位種である黒竜なのだから…国が滅ぶと言われたら、殆どの人が、そのまま信じてしまうだろう。


「そう考えると、もっと人に見られない様に注意すれば良かったかな…。」

「ん?何か言ったかえ?」

「いや…母さん、何でもないよ。

 それより…エルモアさん、早く戻ってくると良いね?」

「うむ、しかし…人族と言うのは難儀な生き物よのう…たかがドラゴンの姿が見えただけで大騒動とは。」


「確かに騒ぎすぎかもしれないけど、母さんのその認識は間違っている様な…。

 基本的に人族がドラゴンを退治しようとしたら国が軍隊を派遣するレベルだよ?」

「軍隊じゃと?フッ…妾を軍隊如きがどうこう出来るはずが無かろう?

 そもそも…じゃ、『魔王』を倒した『勇者』でさぇ、妾を倒す事が出来なんだのじゃぞ?

 それ故、禁術にも等しい程の封印術を用いて、妾を封印したのじゃ。」

「母さん、そんな話…初めて聞いたんだけど…。」


 って言うか、勇者が禁術紛いの物で封印とか…不可抗力とは言え、僕は何て物を復活させてしまったんだろう…と、少し後悔する。

 いやいやいや、それ以前に…魔王ですら世界を滅ぼしかねない存在だってのに、その魔王を倒した勇者が禁術紛いの封印術を用いて封印していた母さんを、何でEランク如きの冒険者だった僕が解除出来たんだ?


 その点に関して、物凄~く疑問が残るのだが、どうなんでしょう?


「ねぁ、母さん…。」


 どうして僕なんかが母さんの封印を解く事が出来たんだ?

 そう聞こうとした瞬間、部屋の扉が開かれた。


「いやぁ、スマンスマン!長い事待たせてしまったようじゃな。

 そもそも、こんなちっぽけな町に黒竜が現れたのじゃから、ワシが何の脅威も無いと言っても、なかなか信じて貰えんでの…本当に苦労したわい。

 じゃが、僥倖と言うべきか…ちょうどSランクの冒険者が滞在していての…そやつも一緒に説得してくれたお陰で、何とか落ち着いたと言った所じゃ…。」

「へ~、この街にもSランクの冒険者が…憧れますね。」


 何せ、僕の夢だからね…。


「うむ…やはり、冒険者たる物、Sランクと言う物に憧れるのは仕方がない物じゃな。」

「ちなみに、その人の名前は?」

「あぁ、そやつの名前はアレックスじゃよ、確か…二月ほど前じゃったか?

 その位前にSランクに昇進したはずじゃが…。

 何でも、昔、数日ほど面倒を見た知り合いの子が冒険者になるはずだから…と、わざわざ様子を見に来たとか何とか言っておったが…。」

「アレックスさんか…ん?そう言えば、僕の師匠と同じ名前ですね。」

「おや?君には師匠が居るのかね?」

「はい!と言っても、数年前に数日間だけ修行を付けてくれた人なんですけどね?」


 そう言えば、師匠達はAランクの冒険者パーティーだったはず…。

 アレックスさん、マリアさん、アリサさん…今頃、何処で何してるんだろう…。


「そうかそうか!師匠がいると言う事は基礎が出来ていると言う事じゃな?

 ならば、君が冒険者になったなら期待の新人となる訳じゃな。」


 そう言ったエルモアさんは優しそうな笑顔を僕に向けてくれたのだった…。


「…そんな事より、ルウドの冒険者登録はどうなっておるのじゃ?」

「ひぃぃぃぃぃッ!」


 母さんにとって、どうでも良い話だったのか、少し不機嫌な声色でエルモアさんに話し掛けた。

 それが怖かったのか、エルモアさんが悲鳴を上げてしまった。


 何て事はない…母さんの存在は色々と問題があるから…と、僕が言わなくても認識阻害の魔法と隠密系のスキルの併用により、存在感を普通の人レベルまで消していたのだが、不機嫌そうに声を出した事によりその効果が一時的に無効化されてしまった様だ。

 とは言っても、一時的に無効化したのは部屋の中まで…幸いにも部屋の外までは無効化されていない様で、外は静かなままだった。


 まぁ、僕には母さんの息子だからか、大した事ないんだけど…ね


「お主…妾が喋る度に、悲鳴を上げねばならんのか?」

「い、いえ、滅相もございませんです、はい!」

「それならば良いのじゃが…先程も言ったのじゃが、此度はルウドの冒険者登録に来たのじゃ。

 すまぬが、手続きとやらを頼みたいじゃが…よろしいかな?」

「は、はい!もちろんでございます!命に替えても、登録させて頂きたく存じますです、はい!」

「あ、あの…冒険者登録するのに命に替えてもって…そんな必要はないんじゃ…。」


 どこの世界に、命懸けで冒険者登録するギルドマスターがいるんだよ…。


「し、しかしだね、君…黒竜様のご機嫌を損なった場合、文字通り命が無くなるのだよ?」

「そりゃ、僕の夢はSランク冒険者になる事だから、冒険者登録出来ないと困るけど…そんな事で母さんが暴れるはずないじゃん!ね、母さん?」

「何じゃ、ルウドの夢を邪魔する奴等を滅ぼさなくて良いのか?

 まぁ、ルウドがそう言うのなら面倒じゃが別の街で登録すれば良いだけの話じゃが…。」

「って、滅ぼすつもりだったんかいッ!!」


 エルモアさんの言葉を肯定する母さんのまさかの発言に、僕が全力でツッコミを入れた瞬間だった…。

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