6話 調査【1】

 僕は、母親に出掛けてくると言ってから、3件隣のアカネおばさんの家を尋ねていた。

 と言うのも、この家は僕が魔導石に魔力の補充する事でお小遣いを貰う家の一つだからだ。


 もちろん、ただ小遣いが目当てではない…これは、大人になって冒険者になる時の軍資金となるのだ。

 まぁ、妹にお強請ねだりされて、お菓子を買ってしまう事も多々あるのだが、それはご愛敬と言う物である。


「アカネおばさん、こんにちは。」

「はい、こんにちは。

 それで…ルウド君は、今日は何の用なのかい?」


 まぁ、そう思われるのも無理はない。

 そもそも…普段であれば、子供のいない家に、僕みたいな子供が遊びに来るはず無いのだから…。


「えっと…今日は、魔導石の魔力の減り具合が気になったので伺いました。」

「おや?でも、確かルウド君が一週間前に補充したばかりだから、まだ十分入ってるんじゃないかい?」


 僕の家とは違い、アカネおばさんの家では、あまり魔導具を使う事がないので一週間たらずで魔力が無くなる何て事はない。


「そうなんですけど…何か、魔導石の魔力が、急激に減る事件があるみたいなんです…。

 で、それの調査と…もし、魔力が減っているのなら補充しないと…と、思いましたのでお伺いました。」

「それは大変だね…で、その魔導石の魔力が急激に減る被害者は誰なんだい?」

「えっと…ですね、うちの魔導石の魔力が急に減ったんです。

 ただ、それが事件なのか事故なのか…まだ、分かってないんです。

 それで、うち以外の調査もした方が良いかな?と思い…一番最初にアカネおばさんの所に来たんです。

 なので、今から原因の調査なんです…。

 だから、ごめんなさい!まだ全く手掛かりがない状態なんです…。」


 と言ってみた物の、こんな平和な村で、わざわざ犯罪を犯す様な人がいるのだろうか?

 むしろ犯罪などではなく、魔導具の故障か何かで魔力が減っている…と考えた方が、まだ現実味を帯びている。


 とは言え、他の家も調べない事には、故障なのか犯罪なのかの目処が立たない。

 もし仮に、他の家でも同様に魔力が減っているのであれば何ヶ所も同時に壊れるとは考えにくいので犯罪…魔力泥棒と言う可能性が増すだろう…。

 逆に、僕の家だけなら魔導具の故障が可能性が高くなると言う訳である。


 でもまぁ、それでも僕の家だけをピンポイントで狙った犯行の可能性も捨てる事が出来ない訳なのだが…。


 そうこうする内に、調査は終了…何せ、魔力の減り具合からすると、特に異常がないのだから、問題はないと言う事だ。


「アカネおばさん、魔導石を調べた所、特に異常はなかったです。

 一応、協力してくれたのでサービスで魔力を満タンまで補充はしてますので、ご安心下さい。

 それと…念の為なんですが、お手数ですが暫くの間、魔力の減り具合の確認をお願いしても良いですか?

 それで、もし急激に減るような事があったら、僕の家に連絡お願いします。」

「はいはい、魔力が減ったら連絡だね。

 その時は、大急ぎで連絡する事にするよ。」

「はい、お願いします!では、僕はこれで失礼します。」


 僕はそう言うと、アカネおばさんに頭を下げて、おばさんの家を後にし、次の目的地へと向かう…。


 多少、面倒ではあるが魔力を補充している家々だけでも回って、状況を確認しなくてはいけないからだ。

 まぁ、平和な村だから、十中八九、無駄足になりそうな気もするが…それならそれで犯罪ではないと判明するのだから良い事である。

 その場合は原因不明となり、原因の究明が大変になるのだけど…まぁ、何とかなるだろう…たぶん…。


 こうして、僕が魔力を補充している家々を回った結果…やはり、魔導石から魔力減少する事件は僕の家だけに起こった現象だったみたいだ。

 ただし…僕が魔力を補充している家以外でも、同様な事が起こる可能性がある…。

 なので…念の為、井戸端…と言うか、奥様ネットワークに注意を呼び掛けて貰う様にお願いしておいた。


 これで、僕が魔力を補充する家以外からの情報も僕の所に流れてくる事になるはずだ。

 しかし…こうも、情報がないとなると…。


「う~ん…やっぱり、魔導石の故障なのか?

 でも、うちの魔導石って…まだ新しいんだよな…。

 だとしたら、壊れるにはまだ早いと思うし…何処かから、魔力が漏れてる可能性が高いのかな…。」


 他の家の調査を終えた僕は、原因を考えながら、ブツブツと独り言を言いつつも、のんびりと我が家へと帰っていったのである…。


 そもそも、この村は『ど田舎』と言っても過言ではないほど、秘境みたいな場所にある小さな村だ…。

 正直な話…個人的な感想として、この村では生きていくなら、一生、犯罪なんて物とは無縁なのでは無いだろうか?

 そう言う意味では魔導石なんて高価な物が何故あるのか疑問ではある。

 で、僕はふと、気が付いた事がある…今まで、この村の人達以外、見た事がない。


 あれ?そう考えると、今のまま平和なこの村にいたのでは、冒険者になんか成るが不可能に思えてくる。

 いやいやいや、ステータスプレートが開ける様になったら、村を出て冒険者になれば良いんだ!

 その為の支度金として、今はコツコツと小遣いを貯めているのだから…。

 押し寄せてくる不安を掻き消す様に、自分自身に言い聞かせる。

 そう、冒険者になる…その為に魔力切れを何度も何度も経験しているのだから…。


「はぁ~…何か凄く疲れちゃった…帰って休もう…。」


 何か急に疲れが襲い掛かってくる…考えてみれば、僕はまだ自分が子供だと言うのを忘れていた様だ…。

 そもそもステータスプレートが開ける様になるのは種族によるが、早くても12歳前後から…逆に遅くても15歳くらいだ。

 それに引き替え、僕はまだ3歳だったりする…なら、僕にはまだまだ、時間があると言う訳だ。


 ならば、焦らずのんびり成長していこう…。


 調査の為、何件も回っていた所為で、既に日も大分傾き、暗くなってきはじめた帰り道、僕はそう思うのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る