~二章 初級冒険者への道~

28話 旅立ち【1】

 先程、妹は僕が居なくなるのを嫌だと言って、アレックスさんから貰った剣を僕から遠ざける様に逃げた…。

当然、僕は追い掛けて妹を捕まえて家へと戻ってきた。


 その後、僕はお父さんポルンに呼び出されて、新しい剣を貰った…そして、僕は自分の部屋に戻った。

 それから部屋の中に入った時に妹のレインを見付けた…。


 これを言うのであれば大した事ではない様に聞こえるだろう。

 だが、妹にとっては十分に大事だった…。


「お兄ちゃん、さっきはごめんなさい…。」

「うん…でも、剣は危ないから二度とあんな事をしちゃダメだよ?」

「…うん。」


 今にも泣き出しそうな顔をしてはいるが、それでも何とか同意してくれた事に僕はホッとする。

 とは言え、それで話は終わりではない。


「あのさ、レインも知ってると思うけど、僕はずっと冒険者になるのが夢だった。

 それも、只のありふれた冒険者じゃなくS級って呼ばれている冒険者に…。」

「うん、お兄ちゃん、ずっと言ってた…それに、いつも泥だらけになるほど練習もしてた…。」

「うん、そう…だね。自分でも夢に向かって頑張ってたと思う。」


 いつも、僕の頑張りを影から見守っていたのを知っている。

 時には、タオルや水筒を手渡してくれる事もあった。


「ねぇ、お兄ちゃん…外の世界は危ないって聞くよ?

 それでも、お兄ちゃんは外の世界へ行こうと思うの?

 怪我をするかもしれないし…もしかしたら、死んじゃうかも知れないんだよ?」


 不安そうに尋ねてくるレイン…確かに、言う通りだと思う。

 だが、それでも…自分でもバカだと思うほど、前世からの夢は諦めきれない…。

 最初は、単純にモテたいなんて言う不純な動機だったのに…。


「そう…だね、でも、それでも僕はS級冒険者になりたいんだ!」

「そっか…お兄ちゃん、最後に一つ聞かせて?」

「うん?何をだい?」

「あのね…S級冒険者になったら戻ってくる?」

「あぁ、もちろんだよ!それに…別にS級冒険者にならないと戻って来れない訳じゃないから、気が向いたら戻ってくるよ。」


 今生の別れと言う訳じゃない…それに、お父さんからも、何時でも戻ってきて良いと言われたばかりだ。


「そ、そうよねッ!」

「あぁ!」


 妹の機嫌が急に良くなった事に疑問が残る物の、それでも機嫌が悪いよりは断然良い…それに…。


「それに…さ、正直な話、S級冒険者なんて簡単に慣れる物じゃないんだよ。

 それこそ…何年、何十年と、どんなに頑張っても一部の人しかなれないのがS級冒険者なんだ…。」


 例外的に災害級の魔物を倒しまくり一年足らずでSランク冒険者へと上り詰める【】の称号を持つ人もいるみたいだが…。

 そんな特異点な人と違い、僕の前世は悲しい事に前世でも一人前の冒険者であるC級冒険者どころかE級止まりだったからな…。

 それを考えれば、転生したとは言えS級冒険者なんて夢のまた夢の話である。


「だから…さ、もしもレインが僕と離れたくないって言うなのら…僕と同じ冒険者になるって言うなら、十分、一緒に冒険する事だって可能だと思うよ?」


 レインが剣を持って逃げ出す前に『もしも…』と言っていた内容を思い出す。

 いつも、僕にベッタリだったレイン…数年後、レインの気持ちがどう変わっているかは分からない。

 だけど…僕と一緒が良いと言うのであれば、無理じゃない範囲で一緒に冒険しても良いのだ。


 基本的に、足手纏いになるから…と、低ランクの冒険者はいらないと言う人もいる。

 だが、それでも弱くても良いという人も多々いるのもまた事実である。

 ならば、先に冒険者になった僕が後から来る妹を待つと言うのもありだと思ったのだ。


「え?私、お兄ちゃんと一緒に冒険しても良いの?」

「うん…ただし!ちゃんと、お母さんとお父さんの許可を取ったらだぞ?」

「そ、そっか…私、お兄ちゃんと一緒に冒険して良いんだ…。」

「ちゃんと許可を取ったらだぞッ!?」


 自分の世界に入り込む妹に、少し恐怖を覚えて『許可を取る』事を強調する。


「だ、大丈夫だよ、お兄ちゃん…あ、でも冒険者になるなら剣を使える様にならないと…。」


 いや、別に剣は使える事にこした事はないけど使えなくても冒険者になる人もいるぞ?

 とは言え、妹が折角やる気になったのだから兄として何とかしてあげたい。


「そうだ、レイン!お兄ちゃんのお古になるけど、僕が使ってた剣をあげるよ。

 これならレインだって扱えると思うよ。」


 まぁ、本当はアレックスさんから貰った予備の剣なんだけど…ね。

 ちなみに、アレックスさんが子供だった僕にくれた予備の剣だけあって、そんなに重い物ではない。

 むしろ、軽く…重さに任せて叩き斬ると言うよりは、相手の力を受け流す様な剣なのだ。

 つまり、十分、女の子であるレインにも扱えると言う事でもある。


「い、良いの?でも、そうしたらお兄ちゃんの剣が無くなっちゃうんじゃ…。」

「あぁ、その事については心配は必要ないよ?

 だって、お父さんに呼ばれたのって、新しい剣を餞別にってくれる事だったんだから。」


 僕はそう言って、妹の前にお父さんから貰った剣を見せる。


「す、凄い…何か剣から凄い力を感じる…。」

「だろ?どうも父さんがアバンさんに頼み込んで作って貰ったみたいなんだ…。

 だから、僕の今まで使っていた剣は、レインにあげる事にする。」

「う、うん…お兄ちゃんの剣、大事に使うね。」


 レインはそう言うと今まで使っていた剣を愛おしそうに胸を押しつける様にギュッと抱き締めるのだった…。

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