27話 準備中

 無事にステータスの確認を終えた僕、妹のレインに手伝って貰いながら街へ行く準備をしていた。


「ねぇ、お兄ちゃん…もし、もしもだよ?

 もしも、私も冒険者になるって言ったら、お兄ちゃんは反対する?」

「う~ん…僕としてはレインが本当に冒険者になりたいのなら反対はしない…かな?

 そもそも、冒険者になる為に家を出る僕がアレコレ言うのは間違っていると思うんだよね…。」

「もう、お兄ちゃんのバカッ!」

「え?何でッ!?」


 何故か急に妹からバカ呼ばわりされてしまった。


「でも、そう言う所がお兄ちゃんらしいと言えば、らしいんだけど…。」


 よく分からんが、勝手に納得されてしまった。


「と、とりあえず…準備はコレで完了かな。

 後は、アレックスさんに貰った剣を…。」

「…やっぱり、ヤダッ!!」


 そこまで言った時、レインが僕の剣を持って部屋から飛び出してしまった。


「レ、レインッ!?待て、待つんだッ!!」


 慌てて追い掛ける僕…だが、レインの足は思いの外速く僕が部屋を出た時には玄関から姿を消す所だった。

 当然、レインの後を追い掛ける…それでも、少しずつしか追い付けない。

 このまま、真っ直ぐ行けばその先は崖である。


 考えてみたら、冒険者になると話す度に、いつも妹は少し悲しそうな顔をしていた様に思う。

 そう考えたら…もしかしたら、レインは僕の剣を崖下に捨ててしまうのかも知れない…と頭を過ぎった。

 いや、それよりも崖は危ない場所で、大人でも滅多に足を踏み入れない場所である。


 万が一にでも妹が足を踏み外したら…心配性なだけかも知れないが、悪い予感がした。


「身体強化ッ!」


 そんな悪い予感を吹き飛ばす為に、スキルにより身体能力を一気に強化する。

 正直、スキル名は別に口に出さなくても問題なく発動するのだが、発動するタイミングをより強く意識する為、丁度良い行動だったりする。


 ちなみに、先程も言ったが使うスキルを口に出す必要はないので実際に戦う時には相手に使ったスキルがバレるので注意が必要である。

 まぁ、それを逆手に、違うスキルを使う事も可能である。

 その証拠に、と叫んでおきながら発動させたのは、魔力と闘気を混ぜた身体強化…ステータスで確認したスキル名はと呼ばれてるスキルである。


 発動した身体強化…魔闘術の効果により、僕の力は数倍に跳ね上がる。

 それにより、少しずつしか縮まらなかった距離が、一瞬で縮まりレインを捕まえる事が出来た。


「待つんだ、レイン!」

「お、お兄ちゃん…わ、私…ごめんなさいッ!」


 僕に捕まった事により、観念したのか素直に謝るレイン…。

 そんなレインを僕は…叱る事が出来ず、優しく声を掛ける事しか出来なかった。


「いや、良いんだ…さぁ、一緒に帰ろう。」


 悲しそうな顔をする妹に、出来るだけ優しい笑顔を向けて家に一緒に帰る事を促す。


「う、うん…。」


 それから、妹から受け取った剣を腰に差して一緒に家へと帰った。

 その際、妹とは、はぐれない様にしっかりと手を繋いでいた。


 数分後、これと言った問題もなく家へと帰り着く。

 そして、玄関を開けて入ろうとした時、急に玄関のドアが開かれた。


「レイン、ルウド、大丈夫ッ!?」


 何て事はない、急に飛び出した僕達を心配してお父さんポルンお母さんレイナが様子を見に出てきた所だった様だ。

 そして、僕達の姿を見て、僕達の身を案じた…と言う所だろう。


 ただ、まぁ…これ以上、心配させない方が良いだろうな…。


「お母さん、大丈夫って…私達、ただ追いかけっこしただけだよ…ね、お兄ちゃん?」

「うん、村を出る前に、妹と遊びたかっただけだよ。」


 妹を見る…たった、それだけのアイコンタクトで僕の考えている事を理解し、打ち合わせも無しに話を合わせてくれる妹は流石だと思う。

 内容に関しては…本当は違うけど、それをわざわざ言って心配させる必要はない。

 ならば、最後に妹と遊んだ…とした方が問題にならなくて良い。


「そ、そうなのね…てっきり…いいえね何でもないわ。」


 どうやら、お母さんは僕達の気持ちに気が付いた様で追求をするのを止めてくれた様だ。

 ちなみに、お父さんは僕達二人が手を繋いでいるのを確認したら、何も言わずに家の中に戻ってしまった。


「ルウド、お父さんがルウドに渡したい物があるから部屋に来なさいって言ってたわよ。」

「そうなの?」

「えぇ、だから早くお父さんポルンの部屋に行ってあげなさい。」

「うん、分かった…レイン、また後でね?」


 そう言って妹の頭を撫でる。


「うん、後で…。」


 俯きながら答える妹を置いて僕はお父さんの部屋に向かう。

 横目で妹を確認したが、テレてはいたが悲しい顔はしていないので、妹はもう大丈夫だと思う。


『コンコンッ』


「どうぞ。」


 お父さんの部屋のドアをノックすると、直ぐにお父さんが入室の許可をくれた。


「お母さんから聞いたんだけど、僕を呼んでるって?」

「あぁ…実は、ルウドに渡す物があってね…。」


 そう言うと、お父さんが長い包みを僕に渡してくれた。


「これは?」

「開けてみると良い。」


 お父さんにそう言われて、僕は渡された包みを開ける。

 すると、一振りの剣が出てきた。


「お父さん、コレッ!」

「あぁ、冒険者になるのなら何時までも古い剣を使ってるとバカにされると思って、鍛冶屋のアバンに頼んで作って貰ったんだよ。」


 鍛冶屋アバン…この村唯一の鍛冶屋で鍛冶で作れる物なら何でも作る玄人気質の職人さんである。


「だからって…よくアバンさんが作ってくれたね。」

「あぁ…ルウドが冒険者になる祝いに…ってお願いしたら、仕方がない特別だぞ?って…な。」

「そっか…ありがとう、お父さん…大事に使わせて貰うよ。」


 職人気質のアバンさんは基本的に武器を作る事は滅多にない。

 そもそも、生き物を傷付ける武器と言うのを毛嫌いする。

 僕が知る限り、そんなアバンさんが武器を作ると言う事は、よっぽどの事だったのではないだろうか。


「何か、みんなに迷惑掛けちゃってるね…。」


 妹然り、お父さんやアバンさん…他にも、僕が知らないだけで他にも色々な人に迷惑を掛けていたのかも知れない。


 だが、それでも前世からのS級冒険者になる夢だけは諦めたくない。

 正直、我が儘だと時間はしているが、これだけは譲れない…。

 なので、今、僕が言う台詞は…。


「それでも、僕はS級冒険者になりた!

 だから、この剣…大事に使わせて貰うよ。」

「あぁ、だが…これだけは覚えて置いて欲しい。

 ここは、お前の家だ…だから、何時でも戻ってきて良いんだからな?」


 その言葉に、涙が零れそうになった。


「うん…でも、直ぐに戻っては来ないから!」

「あぁ、分かってるさ…お前は強い子だからな…。」


 そう言うとお父さんは僕に背を向けてしまった。


「さぁ、アリス様もルウドの準備が終わるのを待ってるんだろ?

 何時までもアリス様を待たせるのは失礼だ。

 急いで準備を終わらせて行ってきなさい。」

「うん、お父さん…今まで育ててくれて、ありがとう!」


 僕はそう言うと、お父さんの部屋を出て自分お部屋へと向かう。

 何故なら、そこに妹が居ると思ったからだ。

 実を言うと、僕の準備は既に全部終わっている…後は母さんアリスと一緒に町へと向かうだけだ。


 だが、そんな僕にも一つだけやり残した事があった…。


 それは、妹との話し合いだ…正直な話、妹は僕が冒険者になる事を納得していない。

 それ故、先程も僕の剣を持って逃げた。

 確かに、そのまま家を出ても良いだろう…だが、それでも家族からは喜んで送り出し宛欲しいと思ったのだ。

 だから…もう一度、妹とよく話し合って納得して貰うと思ったのだ。


『ガチャリッ』


 当然、自分の部屋だから、ノックも何も無しで部屋へと入る。


「レイン…。」


 そこには予想通り、は妹が居た。


「お兄ちゃん…。」

「…少し話そうか。」

「…うん。」


 こうして、妹と最後の話し合いが始まったのだった…。

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