14話 さらに成長中【5】

 僕が師匠であるアレックスさんに弟子入りしてから3日後の事…。

 二人の女性が乱入してきた事により、僕の修行は過酷さを増したていた。


 もっとも、そのお陰で魔力制御の精度も一人でしていた頃に比べて別次元と言って良いほど、その精度が増していたりもする。

 その事を考えると、彼女等の指導と言うのが、どれほど素晴らしい事だったのか分かると思う。


 そして、当初の予定であった身体強化の魔術も…。


「そこまでッ!!」


 声を掛けたのは身体強化の師匠であるアレックスさんだ。


「よくもまぁ、こんな短時間で身体強化をマスターしたな。

 しかも、下手すると俺よりも魔力が多いみたいだし…ルウド君が冒険者になったら、期待の新人ルーキーって言われるかもな?」

「いえ、僕なんかまだまだで…。」

「そう謙遜するな、アリサもマリアも、魔術の扱いが凄い勢いで上達したと言っていたぞ?」

「そ、そうなんですかッ!?」


 彼女達は僕に魔術の指導をするにあたり、一度も僕を褒めた事が無かったのだ。

 その為、僕には才能がないのだろうと、ガッカリしていた程だ。


「あ~…アイツ等、他人に厳しい所があるからな…。

 だが、私から見ても君の才能は、一級品だ。

 それこそ、この私に重圧プレッシャーを与えるほどには…ね。」

「重圧…ですか?」

「あぁ、先程も言ったが、君が冒険者になれば、今以上に、その才能を開花させるだろう。

 そうなれば、冒険者としてのランクもガンガン上がる筈だ。

 と言う事は…だ、今、A級ランクの冒険者である私達に追いつかれたら、師匠としての面目が経たなくなる。

 つまり、師匠としては一足先にS級の冒険者にならなければ、格好が付かないからね。」


 その言葉を聞いた僕は、無意識のうちに叫んでいた。


「アレックスさん達なら、絶対にS級の冒険者になれると思います!

 僕も必ず、追い付いて見せますから、待っていて下さいッ!」


 と…そこまで言って、僕は我に返る。

 何と恥ずかしい事を叫んでいたのだろう…僕は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「ルウド、男が夢を語るのに俯いてどうするッ!

 男なら、胸を張って夢を語れッ!!

 それに、君は…君ならば、私の背中を守れる冒険者になれると信じている。

 そんな私を失望させる様な行動を取るんじゃない!」


 背中を守れる…冒険者のソレはつまり、命を預けると言う事。

 たぶん、励ますつもりで言ったのだろう。


 だが、この時の僕には、その言葉が心を撃ち抜いた…。


 前世を含め、今まで生きていた中で…S級の冒険者を目指していた僕にとって、この言葉こそ僕が真に欲しかった言葉だったのかも知れない。

 知らずの内に、僕の目から涙が溢れる出る。


「泣くなルウド君…。」

「で、でも…。」

「あ~…その…子供や女の涙は苦手なんだ…。

 出来れば泣きやんでくれると助かるんだが…。」

「プッ!し、師匠の弱点が涙なんて…ハハハ…。」

「わ、笑うな!誰にだって苦手な物の一つや二つあるんだ…。」


 師匠のよもやの弱点を知ったその日、僕は別の意味で泣く事になる…それは…。


☆★☆★☆


 その日の夕方、アリサさんとマリアさんが訪れた時の事だった…。


「アレックス~、村を出る準備完了したよ~。」


 と、アリサさんがアレックスさんに報告したのだ。


「思ったより早く準備が出来て良かったわ。

 この村の人達が親身になって用意を手伝ってくれたから助かったわ。」

「そうなのかマリア?」

「えぇ、まさか予定して半分の時間で出発の準備が出来る様になるなんて思わなかったわ。」


 その言葉を聞いた僕は、慌てて聞き返した。


「えッ!?師匠達、もう村を出て行くんですかッ!?」

「あぁ、準備が出来次第出発する予定だったからね…まぁ、もう夕方だから出発は明日の早朝になるが…ね。

 そう言う意味では、君が身体強化の魔法をマスターした後で良かったよ。」


 残念ながら、どうやら決定事項の様で変更は無い様だ。


「嘘ッ!?この子、もう身体強化をマスターしちゃったの?」

「あぁ、まさか3日でマスターするとは思わなかったが、これで心おきなく出発する事が出来るよ。」

「すごいじゃん!ルウド君も~一緒に連れて行けたら良いのに~。」

「いや、いくらルウドが冒険者になりたいからって、それはダメだろ…まだ未成年だぞ?」


 そう、僕はまだ10歳…後5年は経たないと大人になれない。


 そもそも、冒険者になる為にはステータス表示が出来るのが最低条件である。

 その為、どれだけ強かったとしても未成年である僕には冒険者になる資格が与えられる事はないのだ。


「あ、あの…その…。」


 アレックスさん達との別れ…わずか3日とは言え、僕にとっては充実した毎日だった。

 その為、彼等との別れが悲しくて、僕は涙を流していた。


「ち、ちょっと、ルウドったら、泣かなくても良いじゃんよッ!?」

「だ、だって…折角、仲良くなったのに、もうお別れなんて…。」


 転生した為か、現在の身体…10歳の身体に引っ張られる様に、心もまた幼くなっている。

 その為、泣くのを我慢する事が出来なかった。


「あ~、もうッ!!」

「うぷっ!」


 突如として、目の前が真っ暗になる。

 微かに香る甘い匂い…それが、何か僕は知っていた。

 それに、先程の声は…。


「ルウド…君は村を出て冒険者になるんだろ?

 だったら、生きていれば外の世界でまた会える…今生の別れじゃないんだから泣くんじゃない!

 君は男なんだから簡単に涙を見せちゃダメなんだぞ!」

「も、もがもが…。」

「マリア…ルウド君、苦しがってるよ?」


 助け船を出してくれたのはアリサさんである。


「エッ!?ご、ごめんッ!!」


 次の瞬間、僕は拘束が解かれ無事に呼吸をする事が出来た…。


「はぁはぁ、し、死ぬかと思った…。」

「まったく、マリアったら…あんたのその無駄にデカイ胸は狂気なんだから気を付けな?

 危うくルウドを殺しちゃう所だったんだぞ!」

「そ、そんな事言われても、私だって好きで、こんな胸になった訳じゃないんだもん…。」


 どうやら、僕の視界を塞ぎ、呼吸を遮っていたのは、マリアさんに抱き締められていたからの様だ。

 厳密に言えば、マリアさんの巨乳…いや、爆乳で…か?

 これが、アリサさんなら大丈夫だったと思う。


「おい、ルウド…お前、何か不謹慎な事考えなかったか?」

「な、なんの事でしょう…。」


 どうして分かった?と思いながら、僕はそう言いながら、さっと視線を逸らす。


「てめぇ、やっぱりッ!

 あぁ、そうかよ!だったら僕の胸があるか無いか、じっくり味わいやがれッ!」

「ちょッ!?キレる所、そこッ!?うぷッ…。」

「どうよ?マリアの胸が無駄にデカイだけで僕の胸だって、しっかりあるんだからな!」

「や、柔らかいです…はい!」


 流石に、圧迫されて呼吸が出来なくなる事はないが、十分な大きさはあると思う。

 と、言うか…大きいなら大きいなりに、小さいなら小さいなりに良い所があると思っている僕にとって、アリサさんもマリアさんも、十分過ぎるほど魅力的だと思っている。

 もっとも、そんな事を言ってもアリサさんに引かれるだけで納得しないだろうか…。


「いい加減にしろ、アリサ!ルウド君が困っているじゃないか!」


 まぁ、こう言う時に助け船を出すのは決まってこの人…アレックスさんだ。


「だって、ルウドのヤツが…。」

「だからって、子供に胸を押し付けるヤツがあるか!」

「あ…キャッ!」


 アリサさんは、今更ながら気が付いたのか、慌てて僕を離すと、胸を隠す様に自分の身体を抱く。

 ってか、『キャッ!』って…普段男っぽい、アリサさんの女の子っぽい一面に、思わずドキッとした。


 これが所謂、ギャップ萌えと言うヤツだろうか?


「あ~…そのなんだ、ルウドも良い思いをしたんだから、今のは無かった事にしろ、良いな?」

「はい、気持ちよかったです。」

「おまッ!?あ~もう!今すぐ忘れろ~ッ!!」


 そう叫びながら追い掛けてくるアリサさんのテレた顔を、僕は可愛いな…と思うのだった。

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