15話 厄災、帰還する【1】
僕に強化魔術を教えてくれた師匠こと、アレックスさん。
そして、攻撃魔術の基礎を教えてくれたアリサさんとマリアさん。
彼等が村から帰って行って、はや一週間が経とうとしていた、ある日の昼下がりの事…。
急に、懐かしい気配を感じた…。
そう、この感覚は…そう感じた僕は、魔術の練習を止め、ある場所へと走り出すのであった…。
☆★☆★☆
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
目的地に着いた僕は、殆ど全速力で走っていた為、肩で息をしていた…。
考えてみたら、先程まで身体強化の魔術の練習をしていたのだから、そのまま魔術を行使していたら、もっと早く辿り着けたかも知れない…。
[
突如、僕の頭に女の人の声が響く。
そう、その声の持ち主が僕の名前を知っていた様に、僕もまた、彼女の事を知っている。
もっとも…知っていると言っても、微々たる物なのだが、それでも僕と彼女には、確かな絆があった。
「あ~…うん、一応、元気だった…かな?」
最近は、特に病気をした事は無いが、小さい頃は、土地柄の所為なのか、ちょくちょく原因不明の高熱を出したり、風邪を引いたりしていた。
とは言え、今、こうして元気なのは、両親のお陰だと言える。
まぁ、両親とは言っても、『義理』と言う言葉が前に着くのだが…。
「そう言うアンタは、どうだったんだ?」
[妾かえ?それこそ愚問と言う物…妾が病気になるはずが無かろう?
とは言え、人に心配されると言うのも、何だか、こそばゆい物よのう…。]
久しぶりに会ったと言うのに、相変わらず、この人(?)は〖念話〗で会話をする様だ。
「つか、アンタ…この10年もの間、何処で何をしてたんだよ!」
[はて?何故、妾がその様な質問に答えねばならんのだ?]
ダメだ…こいつ、本気で理由が分からないと見える。
「それは…。」
[それは?]
「てめぇが、俺の母親だからだろうがッ!」
[…ふむ、人と言う生き物とは、そう言う物なのか?]
その言葉を聞いて、僕は唖然とする。
それ程までに、彼女の考え方は僕とは掛け離れた物だったのだ。
[それにしても、人族と言うのは、少しの時間で大きく変化する生き物なのだな…。
つい先日、別れたばかりだと言うのに、もう、そんなに大きくなっているとは思わなんだわ。]
「つい先日って…さっきも言ったが、アンタが出ていってから10年が経ってるんだけど、分かってる?」
[うむ…やはり、妾の言う通り、先日ではないか…何か問題でもあったが?]
…ダメだ、やはり彼女にとっては10年と言うのは、短い期間の様だ。
「はぁ~、もう良いよ…それより、帰って来たって事は暫くこの村にいられるの?
それとも、また直ぐに出掛けるの?」
[そうよのう…どうやらルウドも少しは強くなっている様だし、少し鍛えてやるのも、面白いかもしれぬな…。]
「面白いって…実の子供を玩具にする気か?」
[何、妾とて、そんな柔な子を産んだ覚えはない。
それに、そなたも妾の子ならば、妾と同じ力は使えるはずじゃ。
ならば、それを覚えるのが、そなたの夢とやらの近道になると思うが…どうする?]
「僕の夢…。」
僕の夢…それは、S級の冒険者になる事。
生前は1人前の冒険者であるC級にすらなれなかった…。
だが、今の僕は生前よりも潜在能力が、ずば抜けて高い…。
それはまだ大人になっていないにも関わらず身体強化の魔術を使える事からも、おのずと分かる事である。
ならば、僕は僕の夢を叶える為に、彼女の提案に乗るのが1番良いのかもしれない…。
「うん、分かった…僕に、力の使い方を教えてくれッ!」
[うむ、了解した…とは言え、この姿では、ちと不便ではあるな…。
どれ、久しぶりに人化の魔法でも使うとするがのぅ。]
彼女はそう言うと、みるみる縮んでいく。
そして、一瞬、周囲は光に包まれた。
光が収まった時、そこには1人の女性が立っていた。
「どうじゃ?久しぶりに人に化けたが、何か変な所は無いかの?」
人に化けた…確かに、その通りなのだと思う。
化け物としか言い様がない姿から、人の姿になるのだから、その通りだと思う。
これが美しいかと聞かれたのなら、10人中12人が綺麗だと言う位には、美人な女性だと思う。
だが、変な所は…と聞かれたのなら話は別だ…。
「お主、プルプルと震えておるが、もしかして寒いのかえ?」
その問いに、僕は力の限り、大きな声で叫んだ…。
「変なのはアンタの頭だッ!いいから、さっさと服を着ろーーーッ!!」
そう、僕は寒くて震えていたのでは無い。
一矢纏わず纏わず、素っ裸で変な所は?と聞いて来たから、怒りで震えていたのだ。
いくら元がドラゴンだからとは言え、凄く綺麗な女性が素っ裸なのに何とも思わないでいられるほど僕は異常な精神の持ち主ではないのだ。
「ふむ、そう言えば、人族と言う物は服とやらをを着るのであったな…。」
彼女は、そう言うと『パチンッ!』と指を鳴らす。
それだけで、彼女は黒いドレスを着た姿へと変化した。
どうやら魔力を物質変換させた様である…何ソレ、凄く便利なんですけど…。
「ふむ…これなら文句はあるまい?」
「あぁ、そうだね…ってか、最初からそうしてよ、母さん…。」
そう、懐かしい気配の正体…それは、僕を転生させた産んだ母さんだったのだ。
「はぁ~…もう良いや…。
とりあえず、アレだ…おかえり、母さん。」
「うむ、ただいまなのだ。」
こうして、僕の新しい修行の幕は上がっていくのだった。
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