16話 厄災、帰還する【2】
「それで…
「そうよな…とりあえず、何処まで強くなっておるか見る為に、軽く戦ってみるかのう…。
あぁ…ルウド、そなたは殺す気でかかって来る事をオススメする?
妾は手加減と言う物が少々苦手である故、油断すると殺してしまうかも知れぬからの…。」
「さらりと怖い事言うの辞めてくれる!?ねぇ、絶対わざと言ってるでしょ!?」
「何を言ってるのじゃ、お主…何故、妾が嘘を言わねばならぬのだ?」
…はい、冗談でも嫌がらせでもありませんでした。
何の因果か、どうやら母さんは僕を殺すつもりの様です。
「お主は先程から何を怯えておるのじゃ?
妾は、お主が簡単に死ぬ様には産んでおらぬぞ?」
「………はい?」
「何度も言わすでない…妾は、そなたを直ぐ死ぬ様な身体で産んでいないと言ったのじゃ。」
「えっと…どう言う事ですか?」
意味が分からず、思わず敬語で聞いてしまう。
「何、簡単な事じゃ…そなたは妾と契約したであろう?」
「契約?…って、S級冒険者になるってヤツ!?」
「そうじゃ、その契約を叶える為に、そなたが簡単に死ぬ身体では契約違反になる故、それなりに強い身体を与えたのじゃ。
もっとも、その身体も当然ながら鍛えねば弱いままな のじゃから、己自分で鍛えるのは仕方が無い事ではあるが…の。」
と、さらりと…何でもない事の様に爆弾発言をしてくる。
言われてみれば、今まで僕は基本的にこれまで怪我と言う様な怪我をした事がない。
せいぜい、アレックスさん達との修行の時に制御を失敗し怪我をしただけ…それも、掠り傷程度である。
しかも、その掠り傷も、家に帰る頃には完治していた訳だが…。
それに…だ、僕は怪我だけではなく大きな病気にも掛かった事がない。
その事から考えると、彼女…母さんの言う事は真実なのかも知れない。
とは言え、それでも簡単に『はい、そうですか』…と、言えないのが僕の悲しい所である。
何故なら、母さんはドラゴン竜なのだから…。
◇◆◇◆◇
「さて…そなたルウド、そろそろ準備は出来たかえ?」
あれから、少し駄々を捏ねては見た物の、母さんが僕に修行を付けるのは決定事項で、変更はないとの事…。
だったら!…と、気合いを入れては見た物の…ドラゴンの姿に戻った母さんからの
考えてみたら、成人である15歳にもなっていない10歳の子供が、単独ソロでドラゴンに戦いを挑むと言う事自体、どんな無理ゲーだ!って話である。
「く、くそッ!こうなったら、当たって砕けろだッ!!」
僕はそう叫ぶと、アレックスさんから教わった身体強化の魔術を全身に使う。
しかも、ドラゴンと戦うと言う事もあり、僕が制御出来る限界ギリギリまで強化する。
その甲斐あって、僕の身体は力、俊敏性、更には防御力までもが何倍にも跳ね上がる。
もっとも、成人になるまでステータスが開けないので、現在、自分がどれだけ強いのか分からないのが悲しい所ではあるのだが…。
とは言え、そこらの
「母さん、覚悟ッ!!」
僕はそう叫ぶと、目の前のドラゴンへ向けて殴り掛かる…だが…。
「遅いッ!」
『ベシッ!!』
「グハッ!」
頭上からの押し潰す様な衝撃を受け、地面へと叩き付けられる。
しかも、その時の衝撃で、内臓を痛めたらしく吐血をする。
ってか、これ…
「す、すまぬ…まさか、妾の子供がここまで弱いとは思わなんだ。」
母さんはそう言うと、爪で自分の指を切り、その血を一滴、僕の口に入れる。
「飲むと良い…それで傷も癒えるであろう。」
「ンググ…。」
口いっぱいに広がる鉄の味…若干、生臭さもある為、吐き出しそうになるが、心配そうに見つめる母を前に、吐き出す事が出来ず、我慢をして飲む込む。
そもそもな話、大きさが違うので同じ一滴でも僕と母さんでは、一滴の大きさも違う訳で…。
何度も喉を鳴らして飲み終えた時には、自分を褒めてあげたいと思った。
「どうじゃ?良くなったかえ?」
「気持ち悪いです…でも、痛みは消えました。」
そう、血を飲む…なんて行為をした為、生理的に気持ちの悪い物はあるが、不思議と今まで感じていた痛みは綺麗サッパリ無くなっている。
「気持ちが悪いとな?それはいかん…もう一滴飲むかえ?」
「いえ、結構です、全力でお断りさせて頂きますッ!!」
「そ、そうか…。」
全力でお断りをした所為か、母さんがションボリとする。
…あれ?もしかして傷付いた?
「か、母さん?」
「何?どうした?」
ションボリしていた母さんに、何か言い訳フォローを…と思い、声を掛けたのだが、落ち込んでいた母さんが嬉しそうに顔を上げる。
そのあまりの変わり様に、つい、フォローしようとしていた言葉を忘れてしまった。
「え、えっと…その…修行の続き…する?」
出てきた言葉が、これとは情けない話ではあるが、それでも母さんには嬉しかったようで…。
「そ、そこまで言うなら仕方がないわね…べ、別にアンタの事が…。」
などと、狂った事を言い出した…。
って、言うか…ツンデレ母さんって、誰得だよ?って話である。
だが、この事件のお陰か、僕は母さんとの距離が少し縮まった気がしたのだった…。
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