4話 成長中【1】

 あれから5日後、ポルンが言っていた魔法の使い方?

 複数術式を展開する方法を自分なりに試した所、なんとか2つまで展開する事が出来た。


 おそらく、これが噂に聞く多重詠唱や並行詠唱と呼ばれる物になるのだろう…。


 でもまぁ、実際に見た事など一度も無いのだから、その呼び方が合っているかは分からない。

 むしろ、分からなくて当然だと言えよう。


 何せ、未だにステータスプレートが呼び出せないのだから確認の仕様が無いのだから…。


 ちなみに、ステータスプレートと言うのは、ある一定の年齢…大人と認められるまで開く事が出来ないと言われている。


 それ故、ステータスプレートが開けるイコール大人と言う構図がこの世界にあったりする。

 まぁ、どちらにしても生後1週間ほどの俺には、まず無理な話なので関係のない話と言えよう…。


 むしろ、今の状況でステータスプレートが表示出来る様になったとしても、自分で碌に動けないのだから意味がない。

…どころか、ステータスプレートを開ける事により、かえって命の危険が増す可能性があると言える。


 とは言え、この約1週間ほどでも、既に何度も魔力切れを起こしている訳で…。


 どれだけMP…魔力の容量、キャパシティが増えてるのかと言う答えはステータスが確認出来ないから分からない…果たして、俺は生まれてから、どれだけ成長しているのか、していないのか…謎は深まるばかりである。


 何はともあれ、今日も今日とて修行を開始する。


 とは言え、通常の修行方法では時間が掛かるのは仕方がない事この上無い…その為、多少、無茶な方法で修行しているのだ。


 その無茶な方法と言うのが…術式を2つ起動させ、そよ風の魔法を発動させると言う方法である。


 とは言っても、そよ風の魔法は生活魔法とも呼ばれるほど威力がない風魔法である。

そもそも、薪を燃やす際に、風を送り込んで燃やし易くする為の魔法だしね…。


 そして、この魔法は発動後、数秒で終了しましたと~でも言わんばかりに、ゲートが閉じてしまうのである。


 う~ん…効果時間を延長させる何か良いコツでもあれば良いのに…。

 そんな事を考えながらも、再度、術式を展開して魔法を発動…その繰り返しである…。


 結局、その日も魔法発動後のゲートを開いたままにする事は出来なかった。


 ただ、その代わりと言っては何だが…何故か、いつの間にやら3つまで術式を維持出来る様になっていた。

 その為、術式の展開数に比例する様に、魔力の消費もバンバン多くなり、魔力切れでダウンするまでの時間が早くなる。


 魔力切れから復活しては再度、魔力を限界まで使い、そしてぶっ倒れる。

 そんな生活が、何日も何十日も続いたある日、ふとゲートの閉じるタイミングが少しだけ遅くなった気がした。


 何度か意識して試してみる…やはり勘違い等では無く、間違いなく…ほんの一瞬だけではあるが、維持するのが長くなっている事が判明する。


 そして…それを実感した事により、次第に魔法の効果時間が長くする事が出来たのが分かった。


 自覚してからの成長は、驚く程、早かった…1秒、また1秒と効果時間が延びていく。

 最終的には数秒ほど効果時間がある、そよ風の魔法を1分…60秒まで引き伸ばす事に成功する。


 おそらく、このまま練習を重ねれば、もっと長い時間ゲートを開いたままに出来るのかも知れない。


 さらに言うなら、複数同時に発動していた術式のタイミングをズラして発動させる遅延魔法と呼ばれる技術をいつの間にか習得していた。


 これにより、俺は、魔力の続く限り…と条件が付くが、1歳の誕生日を迎える頃には、絶えず魔法を発動させる事が出来る様になっていた。


☆★☆★☆


 そして…俺が2歳になった頃、その事件が起きた。

 もっとも、事件と言っても悪い事ではない…むしろ、喜ばしい事だ。


 と言うのも…何と、俺に妹が出来たのだ!


 もちろん、俺の本当の妹ではない。

 そもそも…俺の本当の母は、俺を義理の両親…ポルン&レイナ夫妻を預けたまま何処かへ行き…まったく便りがないのだ。


 正直、いったい何処で何をしているのやら…と思う事も、ちょくちょくあるのだが、連絡する手段もないので、こればっかりは仕方がない。


 まぁ、何はともあれ俺に妹が出来た訳だ。


 そして…2歳になった俺は、成長して喋る事が出来る様になっていた…。

 ただ…義理の母であるレイナが…妹が生まれた時から、ちょっとだけ口うるさくなった。


「もうッ!何度言ったら分かるの?『俺』なんて言ったらダメって言ってるでしょ?

 ルウドは、まだ子供なんだから『僕』って言わないとダメって、いつも言ってるでしょ?」


 と、叱りだしたのだ。


「いや、でも俺は…。」

「だから、『俺』じゃなく『僕』でしょ?」

「…でも、お母さん、僕は俺の方が言いやすいんだよ?」

「それでも、もうお兄ちゃんになったんだから、ちゃんと僕って言いなさい!それと…お母さんの事は、『ママ』って呼んで欲しいかな~って思うの。」


 …オイオイ…確かに、俺はまだ2歳で、あんた達に養って貰っている。

 だが、その前に40年生きた記憶もあるんだぞ?

 それを今更、僕?ママ?巫山戯ふざけるなッ!と声を大にして言いたい。


 とは言え、子供である今の俺の発言力はすこぶる弱く聞き入れて貰えるはずもなく…そこで一家の大黒柱である義理の父であるポルンに助けを求めようと、ポルンに視線を向ける。


 だが、何とポルンは…あろう事か視線を外し、明後日の方を向く…。

 つまり、逃げたのだ…いや、この場合は、見捨てた…と言った方が正しいのか?


「てめぇ、親父オヤジ!何、顔背けてんだッ!!」

「コラ!ルウド、父さんに何て口の利き方してんの!

 それと、父さんの事は『パパ』と呼びなさい!」

「スマン、ルウド…不甲斐ない父を許してくれ…。(ボソ)」


 ポルンが小さい声で呟いた言葉が俺の胸を抉る…そうか、いつの間にやら父は、父としての権力を失い、母の尻に敷かれていたのか…。


 俺は、ポルンの肩にトンと手を乗せ、黙ってウンウンと肯く。

 それに対し、父も目に涙を浮かべる。


「スマン、ルウド…苦労を掛ける。」

「良いんだ、父さん…俺が…ううん、僕が我慢すれば良いんだ。

 それに、今は恥ずかしいと思うから辛いだろうけど、その内、慣れて何も思わなくなるよ。」

「ル、ルウドッ!!」


 俺に抱き付くポルン…俺もまたポルンを抱き締める。

 これではどっちが親なんだ…と思うが、これは男の友情と言う物だろうか?

 こうしては、その日を境にと、一人称を変更したのだった。


「それはそうと、ルウド…確かに、少し恥ずかしいかも知れないが、ママの言う通り、父さんの事はパパと呼ぶ様に。」


 それを聞いた俺は…。


「ブルータス、お前もかッ!!」


 と顔を真っ赤にして、そう叫んだのだった…。

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