3話 修行中

 あの日、再び生を受けた俺は、何と母親が子育てを放棄した為、俺は乳母と呼ばれる別の人に育てられていたりする。

 とは言え、別に母親を恨んでいる訳じゃない…むしろ、感謝してると言っても過言ではない。


 まぁ、子育ての放棄に関しては、どんな理由があったのかまでは知らないが、生まれ変わった俺の才能に関しては、正直、ちょっと脅威を感じている。


 と言うのも、の俺は生活魔法と呼ばれている術式さえ覚えてしまえば、魔力を持つ者なら誰でも使う事の出来るショボ目の魔術が使えたのだが、その術式の展開速度が今までに比べて段違い…それこそ別次元と言っても過言では無い程、速くなっているのだ。


 それこそ刹那と呼ばれる程の僅かな一瞬で、術式が展開されるのだから、驚きしかない。


(※生活魔法は、魔法とは名ばかりの魔術です。)


 そして、それとは別に魔力の容量だ。

 こちらも文字通り、次元が違うと言っても過言ではない。


 その為、魔力を枯渇させるのに、どれだけ苦労するか分かった物ではない。


 その証拠に、昨日も一昨日も、その前の日も、8時間以上使い続けてやっと魔力切れになったのだ。


「あら?この子…もしかして…。」


 そうそう、母親であるアリスと会話した後、俺は急に乳母の言葉が分かる様になった。

 正確には、乳母だけではないのだが…ただし、俺は自分の力では、碌に動く事も出来なければ喋る事が出来ないのは相変わらずだ。


 まぁ、生後3日で、しゃべれる赤ん坊は居ないと言う事か…。


「ねぁ、ポルンあなた…この子の事なんだけど…。」


「ん?どうしたレイナ…がどうした?」


「この子、もしかして魔術を使ってないかしら?」

「ははは、そんな訳ないだろ…まだ、生まれて3日しか経ってないんだぞ?」

「そうかしら…私の気の所為じゃないんと思うんだけど…。」

「そんなに気になるなら見てみるよ。」

「うん、お願い。」

「って、マジかッ!?ルウドのヤツ、レイナの言う通り、本当に魔術を使ってるぞ!

 まぁ、この術式は見た事もない上に、かなり効率の悪い術式を使ってるのが気になるが…。」


そうなのか?コレでも生前では一般的な術式だったはずなんだが…。


「う~ん…これは、風の魔術なのか?

 だが、生まれて3日の赤ん坊が、教えられても居ないのに魔術を使うだと?

 この子、もしかして天才…なのか?」

「どうかしら…そもそも、あのお方の子供ですから、私達の知らない間に、これくらい事が出来る様になっても不思議じゃない気がするんだけど…。」

「確かに…な、だが、まだ3日と言うのは流石に異常だと思うぞ?」

「そ、そうよね…でも、別に魔術が使えたとしても私達が、この子を巣立ちまで育てるのには変わりませんよね?」

「そうだな…私達の大恩人である、あの方の頼みだからな…。」


 そう言うと、ポルンと呼ばれた男とレイナと呼ばれた女は、二人きりの世界に入っていく。

 はいはい、ご馳走様…だから、頼むから俺の見えない所でやってくれ。


 はい、そこ!お前、目がちゃんと見えていないだろ?と言うツッコミは勘弁してくれ。

 そう言う意味で言った訳じゃないからな?


 とは言え、そんな俺の願いが通じたのか、二人は俺を置いて、隣の部屋へと入っていく。

 もしかしたら、そう長くない内に、俺に弟か妹が出来るかも知れないな…。


 何はともあれ、義理とは言え両親邪魔者が居なくなったので、俺は再び修行を再開する事にした。

 と言っても、生活魔法である『ちょっとした風を生み出す』魔術を使うだけなのだが…。


 しかし、この魔術…持続時間が短くて、何度も術式を組まないといけないのが面倒だな…と俺は思う。

 だがまぁ…流石に水を生み出したり、種火を生み出すのでは、水浸しや火事が起きたら問題だ。


 なので、今はまだ時間と手間が掛かるが、そよ風を起こす魔術で十分だったりする。


 ☆★☆★☆


 3時間後、再びポルンがやって来た。


「ん?この子、また魔術を使ってるみたいだな…。

 だが…やはり俺が見た限りでは、発動後、数秒で発動が終了する術式みたいだな…。

 確かに、この術式だと魔力消費量は抑えられるだろうが…本当に一瞬しか発動しないし、そよ風程度の風しか吹かないのではないか?」


 と、ポルンが呟く様に言っている。

 そして、更に、興味深い事を言ったのだ。


「だとするなら、もっと強い風を吹かせるには、何個か同じ物を同時に発動させるか?

 いや、発動後、ゲートが閉じない様にし追加で魔力を注ぎ込み魔術を連続で発動させ、効果を継続させる…か?

 いや、…だが、それだと威力が…それなら、いっその事、両方同時にこなす…。

 やはりダメだ、こんな効率の悪いで魔力を無駄に使うくらいなら新しい術式を作った方が…。」


 と、ぶつぶつ言っているのが聞こえる。


 ただ、今まで知らなかった事が幾つか重要なヒントとして聞く事が出来た。


 一つ目は、同じ物を複数起動する。

 これによって、威力の増加が期待出来るだろう。


 そして、もう一つが魔術を発動した後に閉じるゲート…それを閉じさせず、更に魔力を注ぐ事により連続して発動させると言う事。


 これは、もし本当にそんな事が可能であるなら、魔術を持続させると言う面でも優秀なのでは?と思う。


 そもそも、放射系の魔術ならば、3秒の放射と5秒の放射では、5秒の放射の方が有効打になる可能性が高いだろう。


 ここで思い出すのが、昔話の魔術使いの話だ。


 その昔話では、オークと呼ばれる魔物モンスターが、街を取り囲んでいるのだ。

 そんな中、たった一人の魔術使いの青年が命懸けで街を守ったと言う、所謂、お伽話である。


 だが、俺はそのお伽話を聞いていた時に、そんな事が可能なのか?と疑問に思った事がある。

 だが、そんな魔術使いの青年が行った事こそ、今の俺に必要な強化方法だ。


 それこそが、ポルンが教えてくれた方法なのではないだろうか?

 つまり、複数個の術式を同時に展開し、ゲートを閉じさせずに魔力を注ぎ込む。


 もしも想像通りなら、今までよりも高威力の魔術を発動させ、尚かつ短時間で魔力を大量に消費させる事が出来るはずだ。


 とするなら、善は急げだ…俺は今までの修行方法を変え、碌に自分の身体を動かせないにも関わらず、四苦八苦しながらも魔力増加の修行を始めるのだった…。

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