49話 調査依頼【1】

 ギルドマスターであるエルモアさんの執務室で言われた事なのだが、冒険者ギルドからの指名依頼でアンデッドと化した殺人蟷螂キラーマンティスが、何処から来たのか調査する事となった…。

 とは言っても、今回は僕達だけでの調査ではなく、どちらかと言うと調査する人達の護衛がメインとなる依頼であった。


 もっとも、Cランクになったばかりの新人に、その様な依頼をして周囲からの反発がないか不安ではあるのだが…ここら辺は、良くも悪くも冒険者と言う人種…。

 ただ、ひがみ根性を出すのではなく、したたかに自分達を売り込み、調査依頼に便乗しようとする者も現れたのだ…。


 ただまぁ…結論から言うと、それらの冒険者は全員不採用となった。


 詳しくは言わないが、母さんが『そこまで言うのであれば、妾と腕相撲をして勝つ事が出来れば…の。』と発言した所為である。


 その発言に喜んだ冒険者達は、我先に…と、果敢に母さんに挑んだ。

 しかし…幾ら人化で人の姿をしていようが、母さんは黒竜…しかも、破壊神と呼ばれるほどの規格外の強さを持つドラゴンである。

 そんな母さんが人化弱体化した位で、そんじょそこらの普通の冒険者なんぞに腕相撲程度の遊技で負けるはずがない。


 むしろ、母さんに勝てるほどの力を持った人なら、喜んで仲間に加わって欲しいとさえ思えるほどである。

 だが、結果は先程も言ったが、残念ながら誰も勝てる者などいなかった。


 そして…最後の方になると、連戦をしている母さんに疲れが出るはずだから…と、誰が母さんに勝てるかと言う賭まで始まる始末だから、本当に冒険者と言うのは自由人であると再認識させられたのだった…。


◇◆◇◆◇


「さて、それでは妾達も準備をするとしようかのう…。」

「準備?」


 Cランクの冒険者カードへと更新手続きを済ませ、何やかんやあった冒険者ギルドを出た時の事、突然、母さんが準備を…と言うので、一瞬、何の準備か分からなかった。

 とは言え、準備が必要な事と言えば、それは先程、ギルドマスターから半ば強制的に受けた調査依頼の事だと気が付いた。


「いやいやいや、準備って…僕達が調査に参加するのは3日後だよ?

 流石に、まだ早いんじゃない?」

「何を言うておる…この調査依頼は少なくても数日は掛かるのであろう?

 妾ならば問題はないであろうが、今のルウドは数日喰わなかっただけでも動けなくなるのは必至。

 ならば、非常食やらを大量に用意しておかねば、万が一の事があったらどうするつもりなのじゃ?」

「そ、そりゃそうかもしれないけど…。」


 にしても、流石に気が早いのでは?と思ってしまう。


「それに…じゃ、今回、かなり儲けたのであろう?

 そのお金で、お主が欲しがっていた魔法の鞄マジックバッグとやらを買いに行くのであろう?」


 そう…確かに、今回の…只の薬草取りのクエストが魔物による襲撃を撃退した事で、多くの素材を手に入れ、そこそこ…と言うか、かなりのお金を手に入れた。


 更に言うなら、先程の冒険者ギルドでの賭である。

 普通に考えて誰も勝てないと思った僕は、一人だけ母さんの全勝に賭けていた。

 結果、誰も予想していなかった為、かなりの倍率となっていて、そこそこ稼げてしまったのだ。


 その為、上級冒険者ならば、地味に持っている人が多い魔法の鞄を買いたいと思っていたのだ。

 ただ、当然、こんな僻地へきちの町に、そんな高級な物が売られているはずもなく…。

 そこで母さんは考えた…。


「ふむ…そうじゃな、ならば売られている所に行けば良いであろう?」


 身も蓋もない話ではあるが、売られている場所…で、心当たりがあるとすれば『王都』である。

 だが、少なくとも此処から王都までの移動するとなると、一月は余裕で掛かるであろう事は言うまでもない。

 もちろん、ずっと馬車で移動したとして…だ。


「何を言う手おる…その程度の距離、妾なら一日と掛からずに辿り着けるに決まっておろう?」


 と、その発言から、明らかに母さんは飛んで行こうとしているのが分かった。


「いや、だから…母さんが飛んで行くと騒ぎが起きるんだって…。」


 こんな僻地の町でさえ、大騒ぎになったのだ…王都なんかでドラゴン姿の母さんが目撃された日には、いつ戦争が始まっても可笑しくないのだ。

 そんな訳で、勿体ない話だが、王都へ飛んで行くのは…。


「其処はほれ、認識阻害の魔法と不可視の魔法で…。」

「それ、前回、失敗したよね?」

「あ、あれは…掛けたつもりだったのじゃ。

 そもそも、空を飛ぶのに防壁の魔法で風を防ぐ必要が~と言ったのはお主であろう?」


 そう…母さんの背中に乗って空を飛んだ時、受ける風の抵抗が激しく、碌に息が出来なかったのだ。

 それを解決したのが風の結界…と言うか、風の防壁の魔法であった。

 そのお陰で魔法の中は静かな者で、問題なく呼吸が出来、無事に町まで辿り着けたのは、つい先日の事である。


「でも、母さん…その二つの魔法と並行して風の防壁の魔法なんて使えるの?」


 同じ魔法を複数発動させるのと、別の魔法を複数発動させるのとでは難易度も極端に変わってくる。


「そこは、ルウド…お主が使えば良かろう?」


 と、何でも無い事の様に言ってきたのだった…。

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