やはりおはようから日常は始まる。7
「こんにちは。佐々木君」
「ぁ……千歳先輩こんにちは」
背筋が一瞬にしてぴんっと伸び上がり冷たい何かに襲われる。その直後、さらりとした艶やかで長い黒髪と共に、ローズの香りが俺の目の前で弾けていった。
学校モードの千歳先輩に声を掛けられると、体が反応でかしこまってしまうのが身に染みて分かる。ほんとに心地よい香りを纏っているヤクザだよ~。
そんな千歳先輩は、俺が腰を掛けていたくすんだ抹茶色の階段の、一段下を座る。………っといっても俺より千歳先輩の方が身長高いので、なんかちょうど隣で座ってる感じになってしまっている。…………泣きたい。
「なぜ昼休憩だというのにこんなところで味噌カツパンを食べているのですか?」
千歳先輩は風合いを変えず呟く。
「それは千歳先輩もでしょ」
「それはそうですが……」
1対1の場面でも学校モードの千歳先輩が出てしまっている……っということは俺同様、緊張していてこの場にいるのだろう。
ほんわかとした優しい陽光に囲まれた踊り場は一瞬にて氷点下へgoしてしまったている今この現状。
それはあと少しで生徒会長選挙が始まってしまう……っと言う心臓が張り裂けそうな緊張感からか、千歳先輩の学校モードによるものかは定かではない。
「伊良湖さんとはお話をしたかしら?」
「いえ……それが……」
「まぁそうね。仕方ないわね」
そう冷々淡々と言葉を紡いでいく千歳先輩であったが、声を震わすのを我慢できなくなっていて、ところどころ揺れている。最終的には、華奢で純白な片足が紺のスカート下で微動してた。
そこが愛おしくて微笑んでしまいそうな顔面を強張らせながら、俺は言葉を発する。
「ほんと緊張しますよね!俺もです」
「えっ!そんな風に見えたの⁈」
なんでそれで分からないと思った。これが頭隠して尻隠さずの応用というのだろうか否か……。
千歳先輩のさっきまでの「あくまで余裕ですよー」風の素振りは息を潜め、完全にキャラ崩壊。
瞳をちかちかさせながらあたふた弁解しようとして、諦めて。それを繰り返していた。
俺は顔を朱で染める千歳先輩を横目で確かめながら、俺も震えてしまいそな体を振り絞り言葉を並べる。
「はい……丸っきり。1対1なのに学校モードできた千歳先輩はビビりましたよ………」
「善処するわ」
「戻った⁈」
弁解の最終的な結論がもとに戻すという可愛い千歳先輩は置いておいて、俺は味噌カツパンをほおばる。
うまいのだがうまいのだが…………。味が味わえない位胸が高鳴っていた。………別にコロナじゃないからね!フラグかもしれないけど………。
次の時間。つまり5時限目は生徒会長選挙。緊張しないわけがない。それが本気ならばなおさら……。
「短いようで長いよで短かったわね」
「どっちですか……」
「どっちでもいいのよ」
千歳先輩は儚げな声音で呟く。その言葉は千歳先輩にとってのこの1ヶ月、否それ以上のことを一文にまとめた結果なのだろう。
短いと聞いて、思って始めたことだけど、苦難をこなして、嘆いている最中は一生続くんじゃないかっという程、死にたくなる位長くて、でも終わってみて振り返ってみると短くて……。
俺も分かる気がする。人間、思い返してみることは全て短く感じるのだろう。多分大人になっても変わらない……。
けれどそう感じるのは過去に意味があったから。その過去を肯定しているから。決して惰性で生きていたらそうは感じない。っと俺はどや顔で頷くのであった。
「まぁまだ浸るには少し時間が早い気がするけどね。だから……その……なんというかね……」
千歳先輩は俯きながらもじもじと顔を紅潮させる。
その時一瞬雲が太陽を覆いかぶされて出てくる陽光は一筋の光線だけ。
その光を美美しい黒髪と共に千歳先輩は纏いながら、微笑み言葉にする。
「また……いつかお茶でもしながら……一緒に浸らないかしら」
嗚呼………。。……………ダメだなこれは。今から一戦交えるというのに……。
俺は瞼を落とし、1秒落ち着かせながら心の底から吐く。
「あとで決めていいでしょうか……まだ終わってないですし……」
千歳先輩は笑みを浮かべた。美しかった。
それっぽく言葉を並べて落ち着いたがただ単に一時的にIQが2というサボテンと同じになっただけであったことは内緒。ただ言葉は座っていてそれっぽい。
「ぎーんごーんかーんごーん」
「か」優待されているチャイム………。チャイム……。チャイム………。
俺と千歳先輩は何か重い当たりがあるようで顔を見合わせる。
チャイム…………………。
————ー———————生徒会選挙はチャイムと同時に開始するので各クラス長は生徒を誘導しておくよう。
『あっ』
交わった声は俺の心臓のハンドルを切る。
それと共にかけ下がる階段のカッカっという音は2階から、響き渡りやがて反射し、拡散していった。
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