佐々木仁は本当に「全て」を忘れた。10

 「は⁈」

単刀直入に言うと門が開いていない。黄褐色の門が腰重たげに居座っていて、ここから見える教員用の駐車場には煌びやかなプリウスは止まっていない。事故ったのだろうか?

 確かに今日はカメラのキタムラルートはカップルがいない気がしたが……。やっぱ意味が分からない。っと俺がこめかみに手を当てた咄嗟、携帯が鳴る。

 黒が引き締まらず、少しバックライトによってほんわかしてしまう液晶を確認すると母である番号が顔をのぞかせる。はて?

 「はい。もしもし」

 「…………………」

あれ?……………。一様あて先は母の筈なのだが……。

 もう一度いつから誰から言い出したか分からない定型文を呟く。

 「もしもしー」

 「あの……とても言いずらいことだけど……」

止まる言葉が耳に入り、あの時の伊良湖が戸惑い、困惑し、息をのむ、けなげな姿が脳裏に浮かび上がって胸を締め上げた。

 そして母は、伊良湖とは真反対の気まずそうな風合いで呟いた。

 「今日は……学校ないよ」

 「は?」

え?は?what?why?

 「way?」

 「だって台風だもん~。まあ今は暴風警報解除されてるけど、学校は6時までに解除されてなかったら休校だからね~。大雨だったみたいだし~。やばかったみたいだよ~お父さん曰く」

 「ブラックがっ……じゃなくて、え?なんで教えてくれなかったの?」

 「ごめん私さっき起きたばっかりで………仁にテレビけ消されちゃったから。そのあとお父さんから夜勤明けの動画が送られてきてね。気づいたの」

 「oh………さすが看護師……」

そういえばいつの日か台風が発生したとかなんとか言ってたような……。そういえばあの時、母とコントじみたことをした時のテレビ画面でそういってたっけ?

生徒会長選挙まであと3日。思わぬ場所で期日が伸びてしまった。

 「ぐぅ~~~~~」

 本能的に喉が渇いてしまった。しかも空腹………。そして休みというなら兄弟二人ともいるってわけだし………。はぁ、あそこに行くしかないか……。

 「まぁコメダによってから帰る」

 「分かった~。お父さん同様、台風で吹っ飛ばされないようにね~」

さらっと父が亡き者として扱われていたようだが、俺も父と共に吹き飛ばされたい雰囲気なので何も言わないことにる。

 ぷつりと電話を切ると、手帳型ケースに挟まったコーヒーチケットを手に取りポケットに放り込む。

 そして相変わらずの鉛のような俺の足は、唯一の居場所であるあのコメダへ向かった。

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