結
やはりおはようから日常は始まる。1
「はぁ……」
もちろん人っ子一人いないというわけでもない。さすがに一人で静かに食べたいは欲張りだったようだ。
立ち止まっていた入り口ドア前から、湿って濡れ切った木目調のドアノブを握る。今なら湿っている理由も何も分かっているのでいちいち感情に出したりしない。
「いらっしゃいませ~。何名様でしょうか」
「一人です……」
「ならあちら側の席でおねがいします~」
最近は慣れてきた筈のボッチアナウンスも、つい最近からバツが悪い。それの理由をもう感ず居ているためなおさらだ。…………………………。………………………。
相変わらずのボッチなのだが、常にこの空間はいつからか感じていた寂しさ、空虚感を和らげてくれていたのだが、そんな期待虚しくて忘れたいことを忘れようとするたび思い出してしまって結果、根強く記憶がこびりついてしまうだけ。あの時の伊良湖の表情、瞳が忘れられない……はぁまた思い出してしまった。言わんこっちゃないよ………。
ブルーになれど、この店にはブルーマウンテンは置いていないので気分で「コメ黒」っというブラック限定販売のキリマンジャロ豆のコーヒーを頼む。ちなみにコーヒーの違いが酸味があると苦いぐらいしか分からない………のだがまぁ今日は苦ければ何でもいいのでそれでOKだ。これでこの倦怠感が吹っ切れるなら………。
「ご注文は何でしょうか?」
「コメ黒で」
「はいわかりました。モーニングもお付けすることができますがそう致しますか?」
「あっ大丈……」
「ぐぅ~~~~」
「………やっぱりお願いします。Bセットで」
「はい♪」
備え付けのボタンを押すとすぐに店員さんが駆けつけてくれたのだがその珍しい速さに少し驚きながらも「コメ黒」を即答してしまったので恥ずかしい。もっとすかしとけばよかった。そして大丈夫っと社会人スタイルで行こうとしたのだがお腹が鳴ってしまったのでもっと恥ずかしい。……。
前なら、そしてこの後のいつかならネタにできて自虐することができたのであろう。
だが今日に限ってはただ単に重りとして重ねられるだけ。……………。……………。はぁ。
「お待たせいたしました。コメ黒とモーニングBセットです……ってあら仁君。まぁ知ってはいたけどね」
ふふっと微笑むアルバイト中の千歳先輩。その手は素早く「コメ黒」とその他大勢をテーブルに置いていった。この人やっぱり頑張りすぎじゃないのか……。
「ありがとうございます。まさか奇遇ですね。まさか休校になった今日までアルバイトなんてほんと頑張りますよね……」
「そうね。でも今日は全く頑張ってないわ」
「客の前でさぼり宣言していいものなのですかね……」
っと俺が切れのないツッコミというのも甚だしい言葉を紡ぐと、悪びれもなく千歳先輩は呟いた。
「今日はツッコミが切れてないわね。っといっても私が今日に限ってはここに来たかったからだから気にしなくて結構よ」
「そうですか。分かりました」
そう、発し終わると俺はソーサー(コーヒーカップの下の皿)の上に佇んでいるコーヒーカップを摘みコーヒーを啜る。すsssssssssssssssssssssssssss。…………。
「って苦っ!………すみません」
「ふふ。吹っ切れたかしら」
「え?」
「あ……単純に眠気の話よ。すごい眠そうな顔してたから……」
心配そうに見つめる千歳先輩。俺はそんな顔を見たくはなかったのですぐさまなだめる。
「あっ大丈夫ですよ。でも……確かに眠いですが吹っ切れはしませんでしたね」
実際、言葉は真実でありそんな簡単に吹っ切れたしない。なだめようとした本人が結局しぼんでしまって本末転倒だ。まぁそんな簡単に吹っ切れていないのから仕方ないけど……っというか千歳先輩はこんなとこで油を売っていて大丈夫なのだろうか?
「大丈夫なのですか?こんなところにいて」
「大丈夫よ。こっちはお客さんが少なくてさぼれるから」
「やっぱりさぼりなんですか……」
「ツッコミの切れが悪いわね…………。そうだ!この後空いてる?」
「予定なら随一空いていますが………」とができた。
あれから少し経った今も口から出てくる息は全て吐息か溜息で、生暖かかく温度ははらんでるものも、ひんやりと寒気を感じた。
「お待たせ!」
「ってなんで制服なんですか……まぁ俺もですけど」
俺の席の前に現れたのはみ空色のリボンをふりっとしたセーラー服を着こなした千歳先輩だった。ほんと休校日にまで来ているとなんか一種のコスプレに見えなくはない………。まぁそんな思考に浸る余裕はないがな。
っと俺がいちいち気負っている時、千歳先輩ははっきりとした口調で言葉を放った。
「しょうがない!のかな?こっちの方がいいかな~っと思ってね♪」
「なんでですか……」
「それはその……まぁ何でもいいのよ♪」
行き詰っていたが俺の思考が行き詰っていて余計千歳先輩に気を使わせてしまった。はぁ俺が困難だったら余計気を遣わせるだけなのに……。
俺はカバンを片手に立ち上がる。
そういえばコーヒーチケットでは、満額コメ黒の値段を払えないらしいので小銭を用意しておく。
「530円です」
『はい』
「え?」
「ああ……」
重なってしまった二人の声。…………はぁ気まずい。
「大丈夫よ仁君。私が払うから」
「そんな……さすがに先輩だとしてもまだ高校生ですし。しかもそんな義理はないですし」
「あるわよ♪」
「なんですか……」
蟲惑魔的に千歳先輩はささやくと、少ししんみりとした面持ちで言葉を紡いだ。
「アルバイト……学校にバラさなかったじゃない。だから………ね?」
確かに誰かにチクる、or先生にばらすなんて思考、湧いてすらなかった。確かに遠慮する場面であるだろうがおごってもらうことも一つの気づかい、一つの遠慮。千歳先輩のためならおごってもらおう……こんな上から目線は無しにして。
なので俺は言葉にする。
「分かりました。ありがとうございます」
「よし!」
謎のガッツポーズからの瞬間赤面。大変だな~。ふと学校モードの千歳先輩が出てしまうのであろう。多分それが慣れであろうし。
「ありがとうございました~」
さっき店員さんにニコッからのウインクされたのだがまぁ気にしないことにしておこう。
コンクリートに溜まった水溜まりには2匹のアリが、一生懸命に、命を守るため泳いでいた。いや、慌てふためいているのかもしれない。
でも最終的には2匹で水から脱出するさまをこの目で目視することができた。よかったよ………。
見渡す限り車の数は首で追うごとに多くなっていき、社畜さんは外出規制を解除されたそう。そうなって遊びたい今日この頃。最近何にもできていないよ……。
っとモノローグは済んだのだが「この後空いてる?」っと千歳先輩に言われただけで、そのあとのことは何にも聞いていない。果たしてどこに行くのかすらも。
さすがにこのままじゃいけないなっと俺は千歳先輩の佳麗な顔を見上げ見とれる前に声として出す。
「あの、千歳先輩。どこに行くのでしょうか?」
「ん――――っとね?どこにしようか?」
「決めてないのですね……ならなんで」
「新地公園にしよう!」
食い気味に入れてくる千歳先輩。
「分かりました……」
まぁよくわからないしうなだれておこう。
カツカツと2つ並びながら刻む足音は、ぺちぺちともとれるぐらいコンクリートは湿っていた。
「なら少し待っててね♪あと少しでシフト終わるから♪」
「わかりました……」
普段なら乗り気でルンルンの女の子とのお出かけであるのだが今日は全てがどうでもよく結局倦怠感は振り切れはしない。………。
千歳先輩はそう言い残していくと、学校とは違い緩やかにレジの方向へと戻っていた。まぁさすがに学校モードな訳ないか。
そう見届けながらコーヒーを啜ると、苦いにもかかわらず何故か深みを感じることはあったものの、いまだ変わりやしない。
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